28話 クズ三人組、お金を得る
異世界に来て知るべき情報の一つを今得ることが出来た。
なに、大した話じゃない。俺達クズの中には金の亡者がいるんだ、金銭の計算くらい知っておかないとな。
最初は同じ異世界人であるソフィアならこの世界の金の価値くらい知っていると思っていたんだが、これが案の定失策。貧民と言うワードがここにきても引っ張ってくるのかと頭を抱えた。
ソフィアは金の価値どころかその相場すらわかっていなかったらしい。
あまりに不出来すぎる、ソフィアじゃない。ヴェタイン国と言う国の教育方針だ。一体何を考えて成り立ってたんだあの国。
「これいくらで売れると思う?」
「知らん」
彩華が袋からジャラジャラと黄金色に光る装飾品を取り出すも俺にはその価値は皆目見当もつかない。
正直商人との交渉術も値切りも初心者だ、両方とも俺の分野じゃない、気乗りしないが彩華に任せることにした。
商人にあらゆる手を使って金銭を取ってこい。ただそれだけの命を下し、俺は先ほど挨拶がてらに聞き入れた商人の情報整理を行い始めた。
取り合えず今分かっている情報としては金銭の種類とその価値、いわゆる値段だ。
この世界に紙幣は存在せず、全て貨幣でやり取りされる。
種類としては『銭貨』『銅貨』『銀貨』『金貨』の順で後者に行くほど高くなっていく。まぁ名前からして分かりやすいというか、如何にも異世界ファンタジーって感じの呆れる流通貨幣だ。
だが面白い事が一つある。この世界に科学はあると言っていたが全土には広がってはいないのか、白金貸は流通されていなかった。
白金と言えばプラチナだろう。思えばここはファンタジーだ、転炉のような金属精錬専用炉があるとも思えないし妥当なのかもしれない。
金貨の上にダマスカス鋼を使用した大富豪用の貨幣も存在しているらしいが国家同士の貿易や限られた商人しか扱っていないそうだ。一般市民には名もあまり広まってないらしい。
共通認識で分かる事は銅貨1枚で銭貨10枚、銀貨1枚で銅貨10枚、金貨1枚で銀貨10枚、ダマスカス鋼は金貨1000枚分ということだ。
そして宿代は一部屋二泊で銅貨4枚と銭貨2枚、つまり一泊で銅貨2枚と銭貨1枚。実質銭貨21枚か。
他の国や街によって相場は変わるだろうがここ都市イデアルでは大まかに銭貨4枚程度で一食を賄える。
これを日本円に当てはめれば銭貨1枚=100円とみていいだろう。
同じく銅貨1枚=1000円
銀貨1枚=1万円
金貨1枚=10万円
ダマスカス鋼1個=1億円
最低値である銭貨が100円並みの相場ということは売り出されているあらゆる物は最低でも100円相当はするということだ。
食材が売り出されている店では単品物は少なく3つで銭貨1枚などと複数売りで書かれていた。
ソフィアの腕に任せるというわけではないが調理器具もこの世界にはちゃんとある、作って安く済むのなら外食せずに食材だけを買った方が経済的だろう。
どうせ外で食べる機会なんてこれから山ほどあるんだしな。
取り合えずは金銭面の方針もかたまり、既に商人と交渉を行っている彩華の方に目を向ける。
どうやらうまくいっているらしい、1つも売れない時はどうしようかと焦ったが良かった。
金が無ければ何もできない、打つ手がなければ黒崎君に頼んで盗みを働いてもらう算段だったが、これは悪手過ぎてリスクが大きい。今回その手を打たずに回避出来たのであれば上々だろう。
これからも犯罪歴0のまま異世界生活を楽しんでいきたいものだな。
「零っち~全部取引してもらったよー」
満面の笑みで交渉を終え戻ってきた彩華。
先程まで装飾品やら絵画やらで満杯になっていた袋は何も入っていないかのように細くなり、じゃりじゃりと音を立てて金の匂いを漂わせる。
「意外と早かったな。ちゃんと色気使って値上げさせたか?」
「もう、ちゃんとしたわよ。何度も言うけど私はあまり他人に色気は使いたくないのよ、相手はエロ親父だったし気分悪かったわ」
先日の兵士を堕とした件もあってか、意外と不満げな彩華を見て疑問に思う。
自分の価値を最底辺に自分の欲を天上的に。それが彩華の信条なのに何故色気を出す事は嫌うのか、ちょっと胸元ちらつかせてるだけだろ。俺だったらやるぞ。
「んだよ俺と風呂入るときだって全裸じゃねぇか色気もクソもないだろ」
「みんな一人でお風呂入る時は全裸でしょ?」
「おう俺は物置か何かだと思ってんのかおいコラ」
いつもの漫才みたいなやり取りをしながら彩華の袋を分捕りすぐさま中身を確かめる。
あの貧民の国だ、見た目相応の値段ではないだろう。銀貨数枚あればひとまず安全圏内だ。
果たしてどのくらいか……
「……マジかよ」
ドヤ顔の彩華を前に俺は絶句してしまう。それは無条件の敗北だった。いいや、尊敬すら芽生えた。
袋の中に100枚も200枚も入っていたわけじゃない、底が見えるほどのたった数十枚程度のものだった。
だからこそ驚いた……その色は、光は、薄汚い灰色の袋を金色に照らしつけるほどの眩い色彩を放ってその価値を刻み付けていたのだ。
……──袋の中には20枚もの"金貨"が入っていた。
◇◇◇
二階建ての宿屋。ごく一般的な寝室とトイレが常備してある安い民間寮と例えるのが最適。
日差しは辺りを照らし始め、昨日の放火事件など無かったかのように街の人々は生活を再開する。
部屋の隅の小さな窓を見つめながらその様子をじっと見つめるソフィア。
反射される自分の顔がふと目に留まる。
……きっともう後戻りは出来ない。
ソフィアは昨晩、声にならない涙を流していた。
殺戮等とは一切無縁だった自分がこれだけの人を殺めてしまった。今思い出しても信じられない、もうこの罪は一生拭うことが出来ない。
後ろのベッドでは黒崎さんが見たこともない機械の修理をしている。
きっと彼だけここに残ったのは私を監視するためだろう、悪魔に魂を売って自分の望みを叶えてもらったんだ、あとは煮るなり焼くなり好きにされるのを受け入れるしかない。
私もそれに相応する罪を犯してしまったのだから、彼らを裁く資格も正義を説く立場も無い。
日が沈み、二人組が階段を登る足音が聞こえる。どこかでご飯でも食べてきたのだろうか、朝出かけたにしては随分と遅かった。
でも私だけならともかく、黒崎さんまで置いて二人でご飯を食べに行っていたのなら信じられない話だ。いくら私の監視だからといって友達を置いて悠長に食事なんて普通は出来ない。
黒崎さんも朝からずっと無表情で一言もしゃべっていない。文句一つも言わないなんて、本当に彼らは仲が良いのか疑問に思ってしまう。
足音は近くなり、私の耳に聞こえてくるのは悪魔の笑い声。
そのまま軽く扉を開けて入ってくる二人からは罪悪感など微塵も感じられない。純粋な笑顔を振りまく殺人者。
「いやぁ儲かった儲かった」
「なによ、穀潰しの貧民国と思っていたけど意外とお金になるじゃない♪」
先日、ヴェタイン国から旅立つ時に盗んできた大量の財宝を売ったのだろう。沢山の貴族たちが人生をかけて手に入れてきたその数々を一瞬のうちにお金に換えてしまうほどの気軽さ。
まるで罪を犯した自覚すらない爽やかな瞳。
私は本当に悪魔に出会ってしまったのだと、そう思った。
そして、今更正義を振りかざしても何一つ説得力も無いこも、どこか他人事のように思えてしまう彼らの行動も、何もかもが失われてしまった感じがした。
そんな事を考えていた私に追い打ちをかけるように悪魔は嬉々として問いかけた。
「うーし、これだけ金があれば底辺1匹くらいは飼えるだろ。……なぁソフィア、──奴隷市場はどこだ?」




