25話 クズ三人組、なんか意味深長な石碑を見つける
森を抜けて平原を歩き、見知らぬ世界の大地を踏みしめる。
そうして湧いてくる実感は意外と儚いもので、期待だったり、不安だったりが押し寄せてくる。
だって自分達が今本当に異世界にいるなんて確証は無いのだから。
「それじゃあ零さん達はやっぱり異世界から来たんですね」
「不本意ながらな」
イデアル国に向かって歩く事半日、彩華もあれから根を上げる事はくかなり速いペースで目的地へと進んでいた。
異世界から来た──今でもそれが現実なのか疑問に思う。
俺は元々そう言うのを信じるタイプじゃなかった。無宗教で神など信じず、非化学など以ての外。現実に生きて現実を見る主義だったからだ。
それが蓋を開けてみればこれだ、信じきれないのも無理はない。
確かに異世界に来る前も不自然な事はいくつかあった。
高校時代、同じ学校に通っていた一人の男子がいた。そいつとは特別仲が良い訳じゃないし、話したこともそれほどない。
そもそもそいつ自体、学校では浮き気味で友達もいなかっただろう。
彼には妹がいるらしく、いつも二人で下校していた。
気味悪がってた奴もいただろうし、偏見の目を向けていた者もいただろう。
何よりその兄妹は頭が良かった。テストではいつも満点を取り、余計な行動を一切省く効率主義者。
俺が今のような性格になったのもあいつ等の破綻した行動の影響かもしれねぇ。
そいつがふと姿を消したのは新宿で見たのが最後か。細い路地裏でちらっと目撃したが、それ以来学校にも顔を出さず、名前も消えていた。
今思えばあの時点で疑問に思うべきだった。
そして次に消えて行ったのが大学時代の唯一の知り合いだ。今のクズ仲間とは違い真っ当な友達……いや、オタク友達だったか。
アイツは俺と同じオンラインゲームをしていて、俺とは違う趣向で嗜んでいた。
……まぁ、俺が強さを求める趣向だとしたら、そいつは速さを求める趣向だ。いわばタイムアタックだな。
そんな馬鹿みたいにゲームに熱中するオタクがいたんが、これもまた突然消えやがった。
俺は俺自身が無事であるならば他の誰が消えようとしったことじゃねぇ。だが、俺の周りから段々と人が消えていくことに対して「そうか」と納得の一言で終わらせたのは今思えばあまりに無頓着だった。
──この連鎖を鑑みれば、今度は俺達が現実世界から消えたことになる。
もしかしたらそいつらも異世界に、この世界に来ているのかもしれない。あまりに可能性の低い話だが。
「零っち、大丈夫?」
「あ、あぁ」
彩華が人差し指でツンツンと肩を叩き、黙って歩いている俺の意識を覚醒させる。
このところずっと歩いているせいで無意識に考えに耽ってしまう、同じ行動を繰り返すことで違和感を無くし、余裕が出来る現象だ。
俺はふと腕を組む。
……──違和感、そう、違和感だ。
俺にはずっと付きまとっている違和感がある。
それは過去、思い出、──記憶。
記憶に不自然な違和感を持っている。
例えばさっきの話、高校時代に突然消えた兄妹。いつも一緒にいたはずなのに妹の顔だけ覚えていない、正確には覚えているのに思い出せない。
新宿で見た時はそもそも兄一人だったような気がする……。
いや、まてよ。大学時代のオタク友達の名前──なんて言ったか……?
確かに名前で呼んだことはほとんどない、無いが。思い出せない程じゃないはずだ。
あーるてぃ……?いや、おかしい。考えれば考えるほど深淵に片足を突っ込んでいく気がする。
そもそも俺が違和感を大きく感じたのは国王を虐げた時だ。
戦争をまともに経験をしたことも、実際に見たことも無いのに何故あんなに強く戦争と言う単語に気が触れたのか。
炎上した戦車が宙を舞い、空が灰色に染まり、モノクロを映し出す戦争の風景。
そんな風景が俺にはとても懐かしく、まるで戦争をしていたかのような、そんな記憶が──
頭の中でこだまするようにその言葉を反復させると、微かに記憶からはみ出た"何か"を掴み取る。
俺は今にも忘れそうなその"何か"をそのまま口に出した。
「戦争……銃弾……ていこ……剣……天、才……?」
「?」
隣を歩いていた三人は一斉に俺の方を向き、怪訝そうに見ている。
俺は既に今言った単語を忘れてしまっていた。
「黒崎君、今俺なんて言った?」
予防線で口に出したのは黒崎君がいたからだ。彼は耳が良いし記憶力もいい、何気ない一言でもしっかり確認してくれるだろう。それが俺の口から不意に出た謎の単語であっても。
「戦争、銃弾、剣、天才だ。途中で聞こえたていこ、という単語は恐らく完結していない、聞き取れなかった」
「流石だ、ありがとう」
そうだ、その戦争では剣を使った奴がいた。銃で事足りてしまう現代において、わざわざ剣を使って戦う奴が。
そして天才と言う単語、天才だったか……?いや、天才と呼ばれていた……呼んでいた……?
やはり脳の処理が追い付かず、意味不明な事を考える自分に今にも頭がパンクしそうだった。
「零っち、本当にどうしたの?大丈夫?」
「あぁ、大丈夫だ。ちょっと自分は前世の記憶があるんじゃないかと思ってな、病院に行くか迷ってたところだ」
「それは大問題ね、今すぐ病院に行きましょう」
明らかに様子がおかしいと思ったのか、彩華が俺の思考を遮って話しかけてきた。
その一言で再度現実に戻ることが出来たので正直助かった。あのまま考えていたら深淵に体ずっぷりと入りそうだった。
しかし一人、本気で心配しているのか俺が本当に病気か何かだと勘違いしている奴がいた。
「病院は科学の発展した国にしかありませんけど……」
心配している顔ぶりで話しかけてくるソフィアに俺は引きつった顔を見せて苦笑いをした。
「いや冗談だから気にするな」
これじゃあ本当に俺が精神病患ってるみたいじゃないか。
もういいや、考えるだけ無駄だ。いつも大して考えてない分、こうして真面目に深入りすると周りから痛い目で見られる。
そもそも何なんだよ前世の記憶って、アホみたいだわ。そう言うのを俺は信じない方じゃないか。
ほら、今も道端に置いてあるいかにも怪しそうな石碑。こういうのを見て馬鹿にするくらいじゃないと──
「……──ッッ!?」
道端で突然立ち止まった俺に、先程と同じように振り返り怪訝そうに見る彩華達。
しかし今度は"大丈夫"というような軽い内容ではなく、明らかに驚いている俺を見て周りはすぐさま駆けつける。
「どうしたの!?──石碑……?」
見るからに怪しい石碑は、まるで俺達が見ることを想定しているような内容で──それでいて、俺の考えていた事を復元するかのような強い違和感に苛まれる。
確かにあったその言葉は、正しく紐を解いていき、一つの結論へと先端を伸ばしていく。
先程から俺に絡みついていた不自然な違和感の一つが今、確かに消えて行く。
あぁ……そうだったのか。そういう事だったのか。
風も通らない平原の道端、前世の記憶などと言う簡易な事象ではない。複雑に絡み合った現実の現象。
それが今、確かに感じたものであると確信する。心の底からその違和感を受け止めたのだ。
その単語は『天才』等ではない。
もっと凶悪で恐怖をまき散らし、心の底から恐れ戦いた最悪の存在。
……──『天災』だ。
石碑に顔を通す四人。その石碑にはこう書かれていた。
……
…………
………………
──神は二度失敗した。
『 名もなき少年が願った世界、名を失いし少年が夢見た明日。
一つは「愛」────少年にとって最も大切な形。
一つは「夏」────少年にとって最も大切な日。
少年はやがて成長し、大人になる。
彼は世界の味方ではない、世界が彼の味方なのだ。 』
──神は二度失敗した。
『 幾度となく繰り返された輪廻の狭間、小さな少女の天来と降臨。
運命に抗い、軌跡を変え続けた──「常識」
狂気を凌ぎ、周囲に恐れられた──「天災」
少女は戦場に身を落とし、成長する。
世界は彼女の敵ではない、彼女が世界を戦慄させるのだ。 』
二人の化物は特異点を築き上げ、やがて汝らは惹かれ合う。
集え己が欲望を満たす者よ、集え異界より移りし人の子よ。
我は待つ。
──その時が来るまで。
この話で描写されている「天災」とは…こちらの物語で全てが明かされます→https://ncode.syosetu.com/n4323fj/




