24話 クズ三人組、出発~新たな国を目指す
ヴェタイン国を陥没させた俺達はソフィアの料理を数日間堪能し、満場一致でこの国から出ることを決意していた。
「金と物資は持ったか?」
「準備万端よ~。黒っちが全部持ってるけど……」
貴族たちが残していった資金や食料などは沢山あるためヴェタイン国に住み続けてもいいのだが、こんな派手に国が潰れた以上、他国の間者や関係者、冒険者などに目撃されてしまったら大惨事だ。
俺達は魔法も使えない無力な一般人なのだから極力そういった輩とは相対したくない。
そもそも根幹の問題として俺達には悪知恵があっても物理的な力がない。
現世日本にいた時は力よりも金が正義だった、不景気に乗じて遊びまくるその姿は憐みよりも嫉妬を抱かれる事の方が多い。力を主としたヤクザも結局は金だ、しのぎを回して金を持った集団が最も数と力を蓄えられる、それは人間同士が大して差のない種族だったからと言うのもあるのだろう。
対してここは魔法とか言うめちゃくちゃな力が存在する。
殺傷を行える力を持った人間が何食わぬ顔でそこら辺をうろついてる時点でやばい。あれだぞ、中高生くらいのガキんちょがアサルトライフル持ちながら街の中を駆け回ってるんだぞ。怖すぎるだろ。
この世界の神は何を考えて魔法なんて兵器を人間に譲受するような事したんだ?
……ダメだ、やっぱり何度考えても矛盾と不条理が押し寄せてくる。理解できないわこの世界。つか俺達は魔法使えないのかよ、どう見たって理不尽だろ。何もかも理不尽すぎるだろ……。
「……零っち、なんかキモイ」
両手で頭をぐしゃぐしゃしながら呻き声を上げている俺に引き気味の彩華。
「……あ?……はぁ」
考えてもしょうがないのはわかるが、やっぱりスッキリしねぇ。
溜め息交じりに近くにある小石を蹴り飛ばし歩みを進める。
「てかさー。この国から出るのはいいんだけど、次どこ行くの?」
「知らん、適当なとこ陣取ればいいんじゃね」
足りない頭で遥か先を考えていた俺は目の前の出来事など些細な問題でしかない。
この国に居座り続けるのは不味いのではと思って出発しただけだ、つまりは無計画。無人島に居続けても助からないから船を出したがどこに行けばいいのか分からない、そんな状況だ。
「そんなゲーム脳じゃいずれ死んじゃうでしょ」
陣取るという言葉に反応され真面目に考えていないと言う事を看破される。
しかし俺は乗じるようにケロッと開き直る。
「なんだ。異世界ってゲーム脳で生き抜ける世界じゃないのか」
半ば強引に参加させられたデスゲームのような感覚だ、大雑把に考えた方がまだ生きる術が見つかる。
「あー……うん、確かに」
「納得すんのかよ」
普段通りの不毛なやり取りを繰り返す俺達二人。足だけはしっかりと動かし、既に森の中へと足を踏み入れていた。
ソフィアの助言を元に魔物が出ない通路を選び遠回りしながら森の脱出を試みる。
それでも魔物に出会わないと言う確証があるわけではない、出会ってしまったらさっそく詰みだ。
「うげぇ、ここ通るの?」
彩華が顔を引きつらせながら指さす先には、棘の生えた茨のようなものがグネグネと辺りを遮っている。
服が擦り切れるのはおろか、下手したら怪我をするほどの鋭さと狭さだ。拒絶するのも無理はない。
「魔物との遭遇を避けるにはここを通るしかありません」
「えぇ……」
慣れている様子のソフィアは迷いなく茨の中へと入っていく。
その後ろ姿には無数の傷跡と新鮮な血が流れており、自分達の忍耐力が彼女より劣っている事を密かに証明していた。
その事実に触発された彩華が奮発するように茨の中へと入っていく。後に続いて黒崎君もすんなりと入る。
最後方の俺は近くに落ちていた木を拾って茨を叩きながら入っていった。
「こんなところで魔物にでも見つかったらおしまいだな」
狭く細い茨の道。一方通行になっているその通路はあまりに窮屈で、対向されると逃げ場所が無い。
もしも向こうから通ってきた魔物と鉢合わせになろうものなら一貫の終わりである。
「でも異世界の魔物ってどんなものか見たくない?」
「まぁそれは……ないわけじゃないな」
だがそれはそれとして余裕は絶対に崩さない彩華と俺。もし出会っても拳銃あるからなんとかなるだろ。
しかしその余裕は根本から崩れ落ちる。
「俺達は魔法を持ってない。もし魔物を見つけても対抗手段は少ないぞ」
まさかの黒崎君から弱気発言。一番の戦力である彼がそう言うのであれば俺達は顔面蒼白にしてさっさとこの茨の道を抜ける事に転じなければならない。
「黒崎君でもキツイのか?」
「実際に戦ってみない事にはわからんが、数で来られたら間違いなく足の競り合いだ」
つまりは逃げろと言う事か。
「んじゃ急いで出ないとな」
急ぎ始める俺達を前に先程から会話に入ってきていなかったソフィアは随分と先まで進んでおり、既に出口付近まで辿り着いていた。
俺達も相まって小走りになりソフィアの元まで駆けつける。無事、魔物と遭遇せずに茨の道は通り抜けることが出来たようだ。
「外に出たのはいいけど、これ結局どこ目指すのよ?このままじゃ野宿コースじゃない」
「そうだなぁ。ソフィア、この近くに街とか無いのか?」
服に刺さった茨の棘を素手で落としながら森の外へと顔を出す。
辺りは見るからに広大な平原と靡く風、煌びやかな程に気持ちの良い晴天だ。
「あるにはありますが、田舎の小さな集落なので入れてもらえるか疑問です」
「あーそういうのあんのかよ……めんどくせぇ」
ヴェタイン国を小さくしたような孤立している集落が点々とあると思うと異世界の風味のようなものを感じる。
一方の彩華は未だに服に着いた棘を慎重に取っていて、黒崎君が背中の方を手伝っている。
「そんな小さなとこじゃなくてもっとこう、でっかい国とかねぇの?」
抽象的な言い方でなんとかソフィアに伝える。正直今の俺達に目的も何もありゃしない、安全の確保と立ち位置の確立ばかり気にして娯楽に手をつけちゃいない。
取り合えず大きな国にでも行けばある程度の情報は得られると思うのだが、始まりの国があんな狂信者集団の集まりじゃあまりに理不尽だ。
ソフィアは少し考えた後、人差し指を立てて提案をした。
「あの、それなら少し遠いですがイデアル国を目指してみてはどうでしょうか?」
新たに聞いた国の名前。棘を全部取り終えた彩華と黒崎君もこちらを向いて話を聞き始める。
「イデアル国?」
「はい、この世界でも有数を誇る大国の一つです。科学技術や魔法技術など最新式のばかりでとても繁栄していると聞いたことがあります」
生まれながらに田舎育ちだった彼女は都会への憧れもあるのだろう。内心期待を膨らませ、彼女自身もその国に対して少し高揚気味だ。
「その国も門番の人に身分証明書とか通行証みたいなの見せなきゃいけないんでしょ?」
「いえ、イデアル国は基本出入り自由なはずです。通行証が必要なのは館内や王城くらいだと思います」
つまり街の中は自由に出歩けると、それはいい事を聞いた。
「ほーん。じゃあそこ目指すとするかぁ」
軽い気持ちで俺達の次なる行き先はイデアル国へと決まった。
「どのくらいかかるの?」
少し遠い、という言葉に対して自然に出る質問に、ソフィアも自然と答える。
「歩いて行けば二日程で」
しかし価値観は人それぞれ、大きなズレも生じることがある。
「「……」」
二日!?二日も歩くの!?二日も野宿するの!?
心で言い放った言葉は口から出て、俺は腰から崩れ落ちる。
お嬢様である彩華なんかは口をパクパクさせて言葉を失っている。
「……一回ヴェタイン国に戻る?」
「いや進もう。我慢、我慢だ彩華」
また茨の道を通るなんて文字通り嫌だと思い、必死に彩華を静止させる。
常に豪遊で育ってきた彩華にとって野宿など一生縁のないことであり、それをするなどプライドが許さないのだろう。
わかる、非常にわかるぞその気持ち。
この場で文句を言ってないのは貧民で育ってきたソフィアと自衛隊並みの訓練経験のある黒崎君だけだ。俺達は普通なんだ。
それでもこの場に車など無い、歩いて進むほかにないんだ。
「お風呂入れないの死んじゃう」
白目剥いて今にも倒そうな彩華、大丈夫かこのお嬢様。
そもそも彩華はさっきヴェタイン国を出る前に風呂に浸かっていたはずだ、なのにもう禁断症状が出ているのか。
ソフィアはそのやり取りをみて何かを閃いた顔をすると、笑顔で彩華のやる気スイッチを押した。
「イデアル国は大きな温泉があるらしいですよ」
「走っていくわ」
「落ち着け」
今期のチョロイン枠は彩華で決まりそうだ。




