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23話 クズ三人組、国王に決着をつける

 

 綺麗に潰れた城の瓦礫が辺りに散乱し、赤い水が腐臭を漂わせてあふれ出ていく。

 多くの人が死んだその地は真っ赤な血へと変貌し、太陽の光に照らされて鮮明に彩を奏でる。まさに極上の風景画だ。

 そんな血の海から逃げるように這いずってきた一人の老人は全身からにじみ出るように生者のオーラを放ち出す。


「おお怖い怖い」


 五体満足ならすぐにでも俺を殺す、そう言わんばかりの憎しみに満ちた睨みが俺の眼中を通過する。

 その老人は言わずもがな、──国王だ。

 壊れた肉体から異常にも満ちた憎しみと死から這い上がろうとする凄まじい気迫だけが感じられる。まさに人の壁を越えた新たな境地へとその身を、その一歩を踏み出そうとしているかのような。


「殺ッ……殺ス……ッ!!」


 あまりに突飛し殺意をむき出しにしてくる国王の異常性に対し彩華は一瞬身を引く。本能で危険を察知したのだろう。

 なるほど、これが可能性(異世界)か。人が人の域を踏み外す世界、現実世界ではありえない人類の進化……納得だ。


「見てわかる通りお前の民は全員死んだ、お前の娘もな。全員、国ごと潰してやった」


 だが俺は引かない、引く理由が無い。あくまでも不気味な笑顔を崩さずに挑発を続ける。

 国王は死地を飛び越えるような目付きで魔法を唱え始める。


「フレイム……!ディメイション……ッ!」

「無駄無駄、黒崎君に魔力の根幹を捥ぎ取られたその身じゃあただの人間と変わらんよ。お前はもう二度と魔法は打てない」


 悪役はどこまでも悪役であり続ける。正義は正しくて不義は間違い、当然のことだ。

 ならば正義とはいつも勝つのだろうか?正義を掲げれば守ってくれるのだろうか?

 正義が勝つ物語を俺達は知っている、正義が主人公の話を俺達は知っている。それは悪が負けるから、悪い事をする奴はみんなやっつけてくれるから。


 じゃあなぜ、俺達は今こうして地に足をつけて目の前の哀れな男を見下しているんだ?

 なぜ、こんなにも外道を働いている俺達が日々充実感と満足感を得た気分に浸かっていられるんだ?

 答えは簡単。


 ──審判者()なんて存在しないからだ。


「おのれェッ……!!」


 歯を食いしばって涙を流す国王。両腕は引きちぎられ溢れ出す大量の血液、魔法のような絶大な治療を施さねばもう数分と持たないだろう。


「おい、そこの小娘ッ……!お前は我の民だろう……!?早くこの野蛮な外道どもを殺すのだ!これは命令だッ!」


 その直後、国王の憎しみを上回る気迫が背後から伝わる。魔法とか力とか、そんな原理じゃない。

 俺の背後からゆっくりと身を出してきたソフィア。その表情はどこにでもいるような普通の表情で、至極一般的で、……穏やかな怒りを秘めていた。


「国王様は私の顔をご存知ですか?」

「は……?」


 一瞬何を言われたのか分からなかったかのようにソフィアを見上げる。


「あの時、勇者を召喚することを、たくさんの人を犠牲にすることに反対した……ソフィア・フォスティンヌと言います」


 国王は黙ったまま明後日の方向へ視線を回す。何のことを言っているのか思い出せないのだろう。いや、そもそもそんな事実は知らない、知るはずもない。魔国への憎しみに代わっていたのだから大したことではないと記憶の片鱗から消し去ったか、情報網が揉み消されたのいずれかだ。


「何を、言っている!そんなことよりこの野蛮人共をッ……!」


 俺達を殺すこと以外周りが見えなくなってソフィアの表情に気づいていないのか。その吠え面が実に愚かだと鼻で笑う、差し伸べられた手を無視して突っ走った結果か。


「……」


 無言の表情で両手を握りしめるソフィア。彼女の根はきっと優しいものなんだろう、本来なら俺達外道相手にも一人で立ち向かうような正義感も持ち合わせていたはずだ。


「話はもういいのか?」

「……はい。時間をくださりありがとうございます」


 そのまま国王に背を見せ俺の方へ振り向き一礼する。

 本当は殴りたいほど怒っているのだろう、されてきた仕打ちに激怒を通り越すものがあるのだろう。それでもソフィアは自分の正義感を信じて必死に抑える。


「おい小娘……!我を……国を裏切るのか!」


 そうしてその場を立ち去ろうとしていたソフィアだったが、国王の無神経な一言によってついに動きを止めた。


「裏切る……?」


 小さな、それでいて透き通るような声で返事を返す。

 握りしめていた拳は震え出し、至極普通だったその表情からは怒りと涙があふれ出ていた。


「そ、そうだ!こんな野蛮人に脅されているからと国の為に行動するのが我の」

「裏切ったのはみんなのほう!!」


 涙を流しながら国王へと振り返ったソフィア。裏返るほどの声は秘めていた感情を吐露していることを何よりも証明する。


「私はずっと……ずっと耐えていたのに……」


 そう、ずっと耐えていたのだろう。よくある話だ、俺達の周りではよくある話。

 だが彼女自身にとっては済まされる事実じゃない。


「国のため、家族のため、みんなのためって……ずっと我慢してきたのに……──」


 流れる涙を拭くことなく血の海へ落としていく。

 結果には原因が伴う、この国が狂っていたのはもしかしたらこの世界では一般的な常識なのかもしれないし、異常なのかもしれない。だがそれは根本的な原因であって彼女に知るべき必要性はない。

 彼女にあるのは自分が苛まれてきた虐待の数々を知っていたか、知っていたのならどうして助けてくれなかったのか、それが正しい事だというのならどうして今自分に助けを求めているのか。

 そんなループした疑問をぶつけているのだ。どこかで終止符をつけなければならない疑問へたどり着くために。

 まるでこの惨状の結末は自分の怒りによって引き起こされた結果と思わせるほどに強い意志を込めながら、ただひたすらに思いをぶつけていく。


「そんな言葉聞きたくなかったッ……!」


 惨めに這いずっている国王へ向けて最後の、人としての善悪が付く最後の怒りを伝えたソフィア。

 彼女は優しい、正義感もある。だが人と言う生き物は限度がある、いくら妥協を示したところで感情には抗えない。だからこのじいさんが返す次の言葉でそんなものは幻想へと消え去っていくんだ、昔の俺のように。


「……何のことを言っているか知らんが、その男を殺せ……!財産ならいくらでもくれてやる!だから……──」


 次の瞬間には泣いていたその瞳を暗き深淵に落とすように重くし、国王をまるでゴミでも見るかのように見下していた。

 ただ一言、「辛かったな、悪かったな」と。ただ一言その言葉を汲んでくれれば彼女は救われただろうに……。

 結局正義なんてものは良心から成り立つ自己主張だ。正義が勝つシナリオなんて望まれた副産物でしかない。合理と裁量は相容れない存在なんだからな。


「ま、待て……!この国の……ヴェタイン国の存命がお前にかかっている……!頼む……頼む……!」


 もう二度と国王と目を合わせようとしないソフィア。わかりきった結果に終止符をつけたんだろう、俺もその意を汲んで残酷に終わらせてやる。


「振られちゃってまー、ざーんねーん」


 口先だけしか動かせない国王の頭を踏みつけて罵る。


「おの……れ……外道共がァ……ァァァ……ッ!!」


 もう長いやり取りにも飽きたし、最後は一度やってみたかったこれを試してみよう。

 俺は懐から取り出した拳銃をそのまま国王の口にねじ込み、何も喋らせない状態にしてから最後にトラウマを催す最大の嗤いと共に告げてやった。


「あーそういえばこの国、ヴェタイン国って言うんだな。──()()()()()()()()

「~~ッッ!!!!」


 その言葉を最後に俺は引き金を引き、放たれる銃弾の音ともに国王の喉元に風穴を空けた。

 拳銃で口を塞いでるおかげで一方的に煽り終わらせられる、相手は何も言えずに身を委ねるしかない。やはりこの殺し方は理想だ、最高に気持ちいい。

 既に瀕死だった国王は鉛玉が喉を貫通したせいで全く息をしておらず、白目を剥き完全な絶命を物語っていた。


「じゃあなじいさん、お前達の分までしっかり異世界生活を楽しむからよ。期待しといてくれや」

「あっちで見ててね、国王様」


 鼻で笑い、その場を立ち去る二人の人間。


「なるほどねぇ……いつ見ても零っちのやり方は素敵だわ~」


 それを満足した表情と共に後ろからついて行く彩華。

 異世界に来ても、異能の力やチートを手にしていなくても彼らは負けない。負ける道を選ばない、常に自分の欲に従って生きるクズ三人組に後悔の二文字など存在するはずもないのだ。


 そんな無力で子供臭い外道共は知らず知らずの内に着々と異世界を侵食していくことになる。



「……──何!?ヴェタイン国が一夜で崩壊しただと?それは一体どういうことだ!」


 風の噂で流れてくる彼らの伝説はまだ、始まったばかりだ。

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