21話 クズ三人組、初めて異世界の料理を食べる・前編
「ふぃ~温まったわ」
濡れた髪の毛を外目に簡易な服装で外の風に当たる。
風呂は地下にあったので露天風呂の様にはいかず、こうして外に出ることで風の気持ちよさを実感できると言うものだ。
潰れた城と紅に染まる大量の血がその余韻を更に楽しませてくれる。
「お腹すいた」
「それな」
背後から続くように上がってくる彩華の第一声は空腹を訴えるものだった。
そういえばこの世界に来てから一度も食事を取っていない、俺や黒崎君はともかくあの彩華がよく今まで我慢できたなと内心驚く。
そしてソフィアも顔にこそ出さないもののかなり空腹だろう、聞けば数日食べてないらしいしな。
城は潰したから宴会場にある食い物はまるごと無くなった。だが城下町は一切手を付けていない、多少味は落ちるだろうが食わないよりはましだ。
俺はようやく上がってきた黒崎君とソフィアを一瞥し、城から少し離れて距離を取った。
「……?」
突然行ったその行動にソフィアが一瞬困惑する。
後ろに腕を組んで不自然な位置取りをする俺に真っ先についてきたのは黒崎君、彩華も分かっている様子だった。
「どうだ?」
「……ああ」
主語を言わず呟くように尋ねる。それに応じるように黒崎君も下を向きながら答える。
「やっぱりか、──手伝うか?」
「いや……大丈夫だ」
無駄な口数を全て減らした会話が行われる様を不思議がって見ているソフィアと全く反対の方向──潰れた城の方を見ている彩華。
「あいよ」
早くも意味不明な会話はそこで終了し、俺はソフィアの方を向くと手を挙げて招く。
「腹減ったろ、飯食うぞ」
「あ、はい!」
俺達は黒崎君を残しそのまま城下町へと下っていった。なぜか後ろをついてこない黒崎君を見てソフィアが疑問を浮かべる。
「あの、黒崎さんは?」
後ろをちらちらと一瞥しながら俺に質問してくるソフィアはまるで意図が分かっていない様子だ。だが知らないことを質問する事は感心出来る。俺達はずっと三人で行動していたから自ずとお互いを把握し始めている、つまり外から見れば意思伝達が行われていないように見えてしまう。だから俺達についていくのならしっかりと疑問をぶつけていかないといつまでも置いてけぼりになってしまう。
「アイツは昔から詰めが甘いのが大っ嫌いなんだよ」
「えーと……つまり?」
「生き残りがいないか確認しに行った」
今回黒崎君を残したのは簡単な堅実性を求めたものだった。
あの城の崩壊で生き残れる奴はまずいないだろう、だが仮に万が一と言う可能性もある。それにこの城下町にだってもしかしたら人がいるかもしれない。
そんな考えていたらキリのないような可能性を潰してきたのが黒崎君だ。
「一人で大丈夫なんですか?」
「極限まで集中しているはずだからな、俺達がいる方が返って邪魔だろう」
さっきの風呂の時に一人静かに瞑想していた彼は五感の感知が非常に敏感だ。自分以外の物音がすれば目障りになってしまう、そんな些細で大きな問題だ。
「そんな事より食い物探すぞ、風呂入ったせいで余計腹減るわ」
さっきから隣で恥じらいも無くぐーぐーとお腹を鳴らしている彩華を見て空腹感が更に増してくる。
だが食べると言っても材料が無ければどうしようもない。……つまり集めなければならない。
「食えそうなものと金目の物な」
「りょうかい~」
俺の言葉が耳からすり抜けていくような返事の仕方だな、下手したら食い物しか盗ってこないぞコイツ。俺は金になりそうなものでも探すか。
ソフィアを引き連れてそこら辺にある民家へと勝手に入っていく。金目の物を盗み出し袋に入れ、食い物があればソフィアに食えるか確かめた後に袋へと入れる。
そうしてパンパンにたまった袋を彩華と合流する一点の場所へと運び出す。その行為はまさに盗賊、疑いようのない犯罪だった。
俺はある程度食い物と判別出来るものをかき集めると自分が料理を出来ない事実に気が付いた。
彩華はまぁ……出来るはずはないだろう。令嬢だし。黒崎君はもしかしたら出来るのかもしれないが今呼ぶわけにはいかない。
「お前料理出来るか?」
俺と彩華が休んでいる中未だに運搬を続けているソフィアに声を掛ける。最悪料理出来なくても食えりゃあいいんだと半分諦めた顔つきをする俺。
「一応できます」
「あんたが神ね」
「お前の神の概念低すぎだろ」
即答するソフィアを崇め奉るように拝む彩華。どうやら生ものを食べる心配はなさそうだ。




