20話 クズ三人組、一緒にお風呂に入る
「あっつ!あっつ!うひゃあ!?」
「極楽ね~……」
「ふぅ……」
三人の気の抜けたような声が反響して響き渡る。先ほどまで大量殺戮をやってのけた人達とはとても思えないほどに普通の光景、これが彼らの素面なのだろうか。
「おい彩華、お前まだ血が取れてねぇぞ。ちゃんと洗ったのか?」
「洗ったわよ」
……やはり本質も物騒だった。私は困った顔をしながら、現状更に困った状況であることを伝える。
「あ、あの……聞きたいことがいくつかあるんですけど」
「んあ?」
零さんの背後から失礼のないように声を掛けると、またしても間抜けな声色で顔を仰向けにしてこちらに視線を送った。
「なんでここにお風呂があるとわかったんですか?」
そう、実は彼らが今浸かっているのはお風呂、巨大な浴槽だ。一般的に温泉と言われるものよりは小さいけれど、それでも普通の家庭にとっては有り余る程の大きさ。そこに彼ら三人は恰も自分の物であるかのように悠々と入っている。
そもそもこの巨大なお風呂はお城の裏庭にある地下に隠されていたらしい。それを彼らは一体どうやって見つけることが出来たんだろうと、ふと疑問に思ったのだ。
「昨日黒崎君が城の周りを偵察していた時に見つけたらしい。まぁ風呂にしちゃあでかすぎるから貴族専用の物だろうが、わざわざこんな場所に隠す物なのかねぇ」
まるで見つけたのはおまけと言わんばかりに話を流される。この三人の中でもあまり目立たない黒崎さん、それがあまりにも甚だしい見解だったと私は感づかされた。
「つかお前も寒いだろ、入れよ」
「あ、ありがとうございます」
彼の言う通り寒さに打たれていた私は背中を押されるようにお湯へと浸かる。
いつぶりのお風呂だろうか、凄く気持ちがよくて固まっていた表情が溶けるようにゆっくりと崩れていく。
「えと、彩華さんは女性……ですよね?」
いくつかの質問の続きで気になっていたことがもう一つあった。
「見てわからないの?胸あるでしょうよ」
「大きくはないが小さくもない、普通だな」
「普通こそ大正義よ」
はたまた私の話題が逸らされ別な方へと流れていく。気づいていないわけではないはずなのに、なぜこうも平然としているのだろう……。
「じゃ、じゃあなぜ皆さん一緒に入っているんですか……?その……恥ずかしくとかないんですか?」
それは私にも言える事なのだが。──ここは混浴じゃないはず、いくら親友だからと言ってお風呂まで一緒に入るものだろうか。
「普通の人ならまだしも零っちや黒っちに裸晒したところでねぇ……」
私はポカンとして頭から湯気を醸し出す。そう、先程から凄く気になっていた事。その中でも飛び出て気になっていることが。
──私と黒崎さん以外の二人は体にタオルを巻いていないのだ。つまり裸、隠していない。
そのせいで私は非常に目のやり場に困っている。
「あ、もしかして零さんとはお付き合いしていたり……?」
かくして導き出された答えは後から考えても非常におかしなものだった。
「「は?」」
「あ、いえ!ごめんなさい!」
楽しく笑っていた二人が笑顔のまま固まる。
私はもしかして変な事を言ってしまったのではないかと、両手を振りながらすぐさま謝罪した。
「ぷっ……あっはははは!私が零っちとっ……あはははっ!」
しかし次の瞬間には彩華さんが大声を上げて笑い出した、身体を捩じらせツボに入ったように笑い転げる。
反して零さんは一瞬吹き出しそうになるもすぐさま真剣な表情に戻り、人差し指と親指で彩華さんの顎を掴むと自分の顔へと寄せた。
「そうなんだよソフィア、実は俺達付き合っていたんだ。……なぁ、彩華」
「あっ……零……」
え、なんか私のせいで変な空気になってない!?黒崎さんはさっきから目を瞑って瞑想っぽいことしてるし、二人このままだと、き、き、キスしちゃ……。
「えっ……え!?」
気づけば自分の世界に入ってしまっている二人を目の当たりにして自分が恥ずかしくなりあたふたし始める。
しかし限界が迫っていたのは私ではなく二人の方だったらしく──。
「「──あっはははははは!!」」
寸でのところで吹き出し笑い出した。
「無いわー、零っちと付き合うとかないわー」
「こんなサイコ女と付き合ってたら今頃俺は自我を失って機械人間になってるな」
今までのが演技だったと理解した私は自分が馬鹿にされていることを知り顔を真っ赤にして頬を膨らませると、怒ってる事を伝えるため二人を精一杯に睨んだ。
「……むぅ」
随分可愛らしい怒り方ねと彩華さんに追撃され撃沈した私はぶくぶくとお湯に沈んでいきながら顔を隠した。
「つーかソフィアも一緒に入ってんじぇねぇか」
話を戻され完全にペースを握られている零さんに私はがばっと全身を起き上がらせると力強く反論する。
「そ、それは!零さんが一緒に入れっていったんじゃないですか!」
「別々に入ったら誰が汚ねぇお前の体洗うんだよ」
実際洗ってもらった事には感謝している、汚れも落ちて綺麗になれた。けれどやっぱり私も良い年だ、恥ずかしいものは恥ずかしい。
「そ、そんなの一人で洗えます!それに彩華さんに頼んだらしてくれそうですし」
何とか味方につけたい私は同じ女性である彩華さんなら私の気持ちも少しは汲んでくれると思い名前を出したが……。
「しないわよ?」
「え?」
「頼まれてもしないわ」
真っ向から切断されたように断られた私は人権を切り捨てられた子供のようにサッと静まった。
彩華さんはさも当たり前のように答え、それをその場にいる誰もおかしく思っている様子もない。
「お前もまだまだ思考が甘いな、彩華は女子供だろうと自分の欲望の糧にならなければ面倒なんか見ないぞ。ここにいるのはクズばかりだというのを忘れちゃいけない」
そう、そうだった。私を助けてくれたのは気前のいい善人なんかじゃない。悪魔よりも深い存在の人達だ。
その場に一人だけ立っていた私はするすると落ちて行き、そのまま再度お湯へと浸かった。
「そうよ、本来なら零っちもそのはずなのに、なんでそこまでソフィアの面倒見るわけ?お気に入りだから?」
あまり口出しすると自分のぼろが次々出てくることを悟った私は黙々と会話を聞く側へと移った。
◇◇◇
実際のところ、ソフィアを見つけたのは偶然だ。
街中を徘徊する時間はそこまで多くは無かったし、もしこの国にまともな人間がいるのならそれは集団心理でいじめにあっていることくらいしか把握してはいなかった。
「まぁそれもあるが……」
彩華の質問は単に見れば正しく俺の今までの在り方から見てもおかしいとは思うだろう。だが俺は何も変わってはいない、むしろ異世界に来たことで更に悪化、開放的になっている。
特に躊躇う事でもないが、この事について言うか言わずかで少し迷っていた。ソフィアもいる事だしな。
「零の事だ、カースト制にでも興味が沸いたのか」
だが貫通。僅かな情報源で俺の意図を読み取った黒崎君が一瞬で的確な答えを貫いてきた。
「カーストせい……?」
初めて聞く言葉にソフィアが疑問府をつけて多少の興味を示す。
「流石だ黒崎君!俺の事を良く知ってるねぇ」
「人間とはとても思えんがな」
「カースト制……なるほどねぇ……見えてきたわ、外道の深淵が」
ここまで来たらもういいかと思った俺は今回ソフィアを手に入れた本当の目的を話始めた。
「俺は昔子供の頃に育成ゲームにハマっていてな。最初に決めた奴を優位に立たせて、後から入ってきた家畜との上下関係を客観視点から見る。これが想像以上に面白くてな、いつか人間で試してみたかったんだよ」
完結に思った事だけを口に出した俺に二人は割とドン引きしていて、ソフィアの方はついてきてるのか不安になるほど理解が追い付いてない様子だった。
「うっわぁ……最悪な感性してるわ。つまり神様気取りって事ね……」
「人間誰しも人の上に立ちたいだろ?──社会は人がいないと始まらない」
「ここまで来ると逆に尊敬するわよ。……ま、いつもの零っちらしい考え方で安心したけどね」
俺から見れば二人の方がえげつないと思うのだが、感性の違いと言うものだろうか。似て非なる者と言うか、対極な思考なのかもな。
「えと……私これからどうなっちゃうんでしょうか……?」
端的な理解が出来たような感じのソフィアは顔を真っ青にしてガタガタと震えていた。
……ここ風呂だぞ、40度近い風呂の中で震えるとか逆にすげぇな。
「安心していいわよ、あんた自身に待っているのは素敵な人生だけ。──ただあんたの周りの人間は幸せなんて二度と訪れないだろうけどね」
俺の言葉を彩華が代弁してくれたようなので、俺は目を瞑りながら鼻歌を歌い出した。
「それってつまり……」
「善意を捨てる代わりに幸福を得られる」
「そういうこと~」
ま、聞くより見る方が早いって言うしな。これからの事を考えれば割と楽しい毎日がやってきそうだ。
「さて、そろそろあがるか。黒崎君も準備は出来たか?」
「……ああ」
「……?」
今の俺の会話に唯一疑問を抱いたのはソフィアだけだった。
まだまだ甘いな、戦いって言うのは相手の死を確認しない限りは勝ったと言えないんだよ。
──崩れ去った城の瓦礫、その中から何者かの這いずる音が辺りに降りた小鳥達に聞こえていた。




