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19話 クズ三人組、ついに自分達を召喚した国を潰し血の海を作り上げる

 

「よ、よろしくおねがいします!」


 握られた手に謙遜を抱きながらもソフィアはすぐさま返事をした。そしてこの二人、直感ではとてもいい人達だと思うも、その本質は彼に相似していると気が付く。そういった意味ではやはり彼の仲間に相応しいのだろう。


 そんなやり取りを節目に零はふと窓の外を見下ろす。放送部屋から見下ろす街並みはよく見え景色も良い。風だけが通り過ぎる外には既に誰もおらず、街の連中は全員宴会場へ入ったようだ。宴会場へ入ってなくてもこの敷地に入っているのは間違いないだろう。

 それを確認した俺は黒崎君へと振り返り、真剣な表情を醸し出す。


「よし、挨拶も済んだところで黒崎君。例の奴くれ」

「あ、ああ」


 黒崎君が渡したのは重りのある電波型の起動機械だ。初めて見るガラクタに少女は目新しいものを見るように釘付けされる。


「それは……?」


 恐らく何かを起動させるようなものであることは薄々理解しているのだろう、だが根本的に何に使用されるものかは分からない様子。

 そんな知りたがりなソフィアに優しい優しい零お兄ちゃんはちゃんと説明してやろう。


「これは俺達の祝祭を閉演するためのボタンさ。──ここのスイッチを押すとな、お前の母ちゃんや父ちゃん、この国人々、友達、知り合い、全ての人間が死ぬ」

「えっ……」


 平然と口に出す衝撃の言葉。勿論ここまで来て冗談じゃないことは幼いソフィアでも十二分に理解している。理解しているからこそ驚嘆してしまう。

 零はニヤリと口元を吊り上げ瞳をギラつかせる。それは紛れもない期待が込められた目の色だった。


「ソフィア、このスイッチはお前が押せ。お前の手でこの国の連中全てを殺せ。──言っておくが一度押したらもう戻れないぞ。 良かったな、俺達と出会ったばかりにお前は今日から無事に人殺しの仲間入りだ」


 そう言ってソフィアに向かって機械を投げ渡し、様子を伺う。こんな脅し文句到底子供に向かって言う言葉ではない。だが彼はクズ、外道だ。

 まるで彼女を試すように、信念に迷えと言わんばかりに平然と告げていく。


「あーそういう……」


 壁に寄りかかり納得の表情を浮かべる彩華、交差され組まれた腕には多少の思考が伺えるもその答えは彼女の結果次第で変わる意向だろう。


 もし俺が全く同じ立場になったのなら迷わずスイッチを押す。口先だけの連中が死んでいくのを見るのは誰よりも俺が願っている事だからだ。

 黒崎君も人を殺すのは飯を食うみたいな感覚だろうし、彩華は苦しむ顔が見れないからと賛同まではいかずとも生かしておくよりは殺したいと判断するだろう。

 つまり俺達は全員即殺戮を選択する、それらを生かしておいて今後邪魔になる可能性が考えられるのならなおさらだ。

 だがソフィアは俺達見たいな外道と一緒に行動したことも、そういう考えを今まで持ってきたわけでもないだろう。だからこそ聡明な彼女にそんな代物を渡したらどうなるのか、試してみたかった。


「これを押したら……みんなが死んじゃう……」


 ソフィアは俯き顔を伏せ偶発的にその表情が隠される。

 恐ろしいのか、躊躇っているのか。どんな考えをしているか浅はかに捉えられない俺は更に挑発を圧し掛ける。


「そうだソフィア。荷が重いなら俺が押してやってもいいんだぞ?それともやっぱり自分の手で人を殺すのは、人が死ぬのは怖いか?なら──」


 口ずさむ言葉は安直で、それでも躊躇わずにはいられない現実に普通の奴なら正義を振りかざすだろうか。自らの命を危うくしたくないが為にもスイッチを押すだろうか。ある程度頭が良いのなら興が変わるような質問を投げかけてくるだろうか。

 異世界人の、それも幼い子供を相手に取り囲む三人のクズ。

 こんなにも圧迫された空間でこいつは一体どんな反応を見せるんだろうな。


 と、そんな興味本位な期待を微かに抱いていたのだが、驚くことにその期待は一瞬で壊される事になる。



 ──カチッ。


「カチッ?」


 不意に全員の前に静寂が訪れる。驚いたのは紛れもない全員だ。今確かに聞こえた音、これから聞こえるはずだった音。──スイッチの起動音がこの個室に響き渡った。


「は?」


 彩華が口を開けてポカンとしている。それは俺も黒崎君も同じだった。


「え?あの……押しちゃダメでしたか……?」


 何食わぬ顔で機械を見せてくるソフィア。その手に持っている機械は確かに青く光り、起動の点滅を促していた。

 スイッチには親指が掛けられており、今まさに機械を起動させた証拠が存在する。


 彼女は押したのだ、死の宣告を意味する死神の鎌で首元を裂いたのだ。例えその判断の末にどんな理由があったとしても、渡されてからわずか数秒足らずで即座に押した。つまり俺達と同じ選択を取ることが出来たのだ。


「くっくくく……っ」


 片腹を抱えて笑いを堪える。こんな子供が、こんな馬鹿な国の貧民が、それを押したのか。

 なるほど、傑作だ。期待を裏切る程の判断、俺の目に狂いはなかった、いや、想像以上だ。


「何故押した?」


 今にも吹き出しそうになりながらもソフィアに質問する。現実を飲み込み始めた彩華も遅れて笑いがこみ上げてきていた。


「……それが私の、望んだ事だったから……?」


 は?なんだその満点な回答。


「あっはははあっはははは!最高、最高よあんた。いいえ、ソフィア。なかなかやるじゃない!」

「お前、十分悪党だよ」


 外道二人に認められる子供、誰がこんな光景を予想できただろうか。二人とも両腹を抱えて笑い転げる。

 この世界に来て初めてこんな面白い出来事に直面した、決してあっちの世界では体験できない事だ。楽しさとはいつも予想を超えていく。そう、いつの時代も気の狂った人間だけが楽しめる世の中なんだよ。

 爽快な気分で今の心を笑いと期待と、身に余る希望と言う名の欲望を抱いて嬉々を消費していく。


「おい、笑ってる場合じゃないぞ」


 ガタガタと音を立てて地面が揺れ始める。それが何の音か、何の前兆か。その答えは俺達しか知らない。


「崩れるわね」

「ああ。ソフィア、来い」


 状況を掴めていないソフィアの手を引っ張り横抱きの体勢に変えつつ、片手に軍用の手袋をつける。その間に黒崎君が放送室の窓を開け、事前に彩華が準備していた宴会場用のロープを引っ張り上げる。


 なんでこの城から脱出しなければならないのか?その答えは至って簡単……──この城はもうすぐ崩壊するからだ。


「そんじゃいくぜソフィア!ふぅうう!」

「えっえっえっ……!?」


 俺は誰よりも真っ先にロープを掴み靴の摩擦を利用しながら華麗に地面へと降りていく。こんな大胆な脱出劇まるでアクション映画みたいだ。そんな子供のように嬉しそうな表情を浮かべて頬に当たる風をここぞとばかりに堪能する。

 それに比べてソフィアは未だに状況を掴めないままロープを降りるなど言う未知の体験を前に単調な驚愕の声を何度も漏らすばかりだった。


「なんで零っちは運動出来ないのにこういうことは得意なのかなぁ」

「子供の頃はアクション映画に憧れていたらしいからな」


 次いで彩華も片手に軍用の手袋を付けると黒崎君と共に降り始める。それに伴ってガタガタと揺れていた城はさらに大きく、強大な地震が襲ってきているかのように波打つ。


 最後の締めは華々しくシンプルに。『宴会場の上下を支える柱を爆破させてこの城を崩す』──それがこの作戦の全容でありソフィアが押したスイッチの正体だ。


 聞けば彼ら城下町の市民に魔法を扱える人はほとんどおらず、使えたとしても生活に使えるかどうかの最下級レベルの魔法程度らしい。

 そんな人達ならばこの閉じ込められた空間で、尚且つ情報が掴めていない状態じゃ逃げることはほぼ不可能だろう。


 そもそも宴会場に人を呼んだのは柱を爆破した音をなるべく聞こえないようにするため、反応を鈍らせるためだ。

 宴会場の扉は頑丈で固く閉ざされており、外の音はほとんど聞こえない。

 昨晩俺達がこの国の兵士を相手にした時にこの扉に置き土産式の手榴弾を設置して爆破したせいで多少の破損は残っているものの、黒崎君が数時間で外見を直し破損を最小限に抑えることが出来た。


 それがあったからこそ俺はわざわざ人々をこの場所に呼んだのだ。

 本来なら黒崎君が一人一人の民家に行って慎重に一匹ずつ殺していけば安全かつ堅実な策なのだろうがそれはあまりに負担がかかるし、何より地味だろう。

 俺達は欲望に生きるクズだ。多少でも面白く出来るのなら俄然そっちを優先するのは当然のことだろう。


 全員が無事放送室の真下、城の正面まで降りることが出来た。

 小刻みに揺れていた城はやがてリズムを崩すように上から下へと崩れていき、煙やら埃やらを巻き込んで風圧を外へ押し出していく。


「すごい……」


 振り返りその様子をまじまじと見つめるソフィア。対して俺達は振り返らずに歩みを進めた。


「俺達の祝祭を開催してくれてありがとう。──これで閉演だ」


 地に響くほどの大きな揺れと轟音を鳴り上げたまま一国の最上が崩壊する。

 何とも気持ちのいい光景か、この物が壊れていく轟音はいつ聞いても快感だ。


 やがて雲に隠れていた日差しが顔を出し、俺達の勝利を祝福するかのように明るく照らす。

 それを爽やかな笑顔で見つめる俺達クズ集団。もし、正義の神様がこの世界に居たのなら、自分が傍観者である事を恨んでいるだろうな。


「いやぁ今回は疲れたな」

「ああ。だがまぁ、上出来だったぞ」


 黒崎君の背中を叩き、お疲れの意を込めて伝える。今回一番頑張ったのは黒崎君だ、いつも助けられているが今回の活躍は彼無しでは成り立たなかった。

 そして思ったより多くの人を殺害してしまったのだろうか、その証拠に崩壊した城の中から自分の足元まで血が流れて来ていた。


 俺達は無慈悲にも惨状、惨劇を繰り返し罪もない人達をまとめて血の海へと変えてしまった。決して許されない行為をしてしまった。もう後戻りは出来ないのだろう……。

 俺はそんな贖罪を表すその血の海を見て振り返り……──嘲笑するように鼻で嗤った。


「血で風呂は作れねぇよ」


 馬鹿馬鹿しい。贖罪?後悔?そんなものは餓鬼の頃に全て済ませた、既に呆れ果てたんだよ。

 召喚した相手が悪かったな。生憎俺達はただの悪党じゃない、外道の部類だ。誰が死のうが知ったことじゃねぇ。

 流れてくる血を完膚なきまでに踏みつぶすように歩き、崩壊した城の裏へと足を進める。


「さて、風呂入るか」

「賛成!」


 俺は彩華とハイタッチをして、この世界に来て計画を立てていた最後の作戦が成功したことをその身に刻み証明させた。


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