16話 クズ三人組、俺達を異世界に呼んだって事は──
「な……何なのだ、これは……!?」
袋から次々と落とされていく真っ赤に染まった塊は彼の知っている顔。目玉、心臓と思わしき臓器だ。吐き気を催す異臭と共に銷魂が襲い、何もかもが止まったかのように思考回路を破棄される。
「あら見てわからないの?城にいた人達ですわよ、私が一人ひとり藻いだんですの。素手でね、何なら今すぐここで潰して差し上げましょうか?ええ、そうしましょう♪」
そういって腐臭の放つ心臓を片っ端から素手で潰していく、もはや女の子の欠片もない。
暗く静かな宿の中響く臓器の潰れる音、道徳的な心など微塵も感じられない殺人鬼の形振り、ただそれだけが国王の瞳に映り込む。
「や、やめろ……!なぜ、何故……!彼らは関係ないだろう……!お、お願いだ……やめてくれ!」
関係、何に関係しているかも本人達には分からないだろう。元々相容れない状況だった、ただそれだけのこと。狂っているのは俺らだけじゃない、魔国に異常な執念を抱くお前らもだ。そんな奴らにまともな話は期待しない。どのみちキレた彩華は自分の世界に入ったかのように聞く耳を持たない。喧嘩を売った、いや召喚をした相手を間違ったな。
「あら不思議、私達の世界では普通の事でしてよ。貴方たちも私達を勝手にこんな場所に連れてきて戦争の道具として使用しようとしていたのですからお相子ですわよね」
狂気乱舞したようにイカレ始めた彩華はまるで気泡緩衝材を潰して遊ぶ子供の様に目や心臓を潰して楽しんでいる。あまりに恐ろしいその姿に子供である姫には刺激が強すぎたのか、口を開けながら声にならない悲鳴をあげている。そんな姫と彩華の目がついに合ってしまい。
「ひっ……」
「……まぁ!まぁまぁまぁ!」
「お、おい……娘に何を……おい、何をする気だ!?やめろ、やめろと言っているだろうッ!!」
殺人鬼の歩みに軋む板の音が恐怖の弾奏として耳元に伝わる。年齢も性別も見た目も種族も、何もかもが関係ない。姫の目に映ったのは今まで生きてきた自分にとって憎き魔国よりも遥かに恐ろしい何かだった。
「あ……あ……あ……」
止まらない震えを残虐な思想と共に消し去り、明日と言う光が二度と来ない走馬燈が頭を駆け巡る。ここは現実だ、夢物語なんかじゃない。何かをするときに必要なのは金でも財力でも憎しみでもない。常に返ってくるリスクの『覚悟』だ、俺達にはそれだけはある。子供の頃から命を失うに等しい覚悟だけは絶対に欠かさなかった、何の取り柄も無く性格もクズで社会に害でしかない俺の唯一の矜持だ。
コイツらが今この現状に立たされているのは、俺達を召喚してしまった運と、俺達に対応できない知能と、そして何よりも覚悟が足りなかった。それがこの結果だ。
「そんなに口を開けて、これが食べたいの?さぁどんどんお食べ!」
「んぐッ……!?ンーッ!?ンーッッ!?」
片手で握りつぶそうとしていた心臓を姫の口の中に無理矢理詰め込む。突然の事に必死に吐き出そうとしている姫に対し口を塞いで飲み込ませようとする彩華、二人の攻防は長く続かず、プチっと血管の塊が切れた音と共に姫の口から大量の血が流れ出した。恐らく心臓の血塊が潰れてあふれ出したのだろう。吐き出せなくなった姫が必死に咳をするが彩華が悪魔のような笑顔で口元を抑える。こんなのは虐待なんてレベルじゃない、殺す事より残忍な手口だ。目の前の行為から襲ってくる恐怖と口に入っている血をどうにかしなければ息が出来ない恐怖で混乱し、涙を流しながらジタバタと足を何度も叩きつける、人間の生存本能が放つ抵抗だ。
彩華はこの状況が続くことをつまらなく思ったのか、勢いよく姫の口に当てている手を押し込み無理矢理口の中に入れさせた。
「んぶッ!?ゲホッがェ……ぅブッ!?ガぉ"ぇ"ッ!?」
無理矢理押し込められた大量の血に飲み込む我慢が出来なくなり喉から何度も咳をし、その余韻と共に鼻から真っ赤な液体が噴き出した。
「やめろォオオッ!!」
娘の悲惨な姿に声が掠れるまで叫び続ける国王。無力な自分を客観的に受け入れられるいい機会だ、その声はもう何処にも届かない。そうして何度も何度も自分で叫び続けているうちに段々と悟り始めるだろう。
──近くの民家から誰も助けが、反応がない事を。
実はここら一帯含めて城下にある民家以外は全て殺害済み、いや殺害の最中だ。この場に居ないもう一人のガタイのいい男がその仕事を遂行中と言うわけだ。今までの情報からこの国には大して強い兵士も人間もいないことがわかっている、ならば暗殺に長けた現代の奇襲術なら簡単に片づけられるというもの。当然最悪の事態に備えていくつか策は用意してあるものの、今回は一度も使わず事終わりそうだな。
俺はただ目の前で喚き散らしている国王にため息交じりの呆れをしつつ哀れな子羊を見るような目で馬鹿にする。
「やめて欲しかったら俺達を元の世界へ戻せって言ってるんだが?」
「それは……ッ!それは無理なんだ!シャールと異世界のゲートを繋ぐには強力な召喚者と数万人の人間を英霊として捧げなければいけない!」
シャール?それはこの世界の名前か?フランス語……ではないな。意味なんて特に興味はないがどこか人間臭さがある名前だ。
俺はまるでその情報に価値がなさそうな顔をし国王と一切目を合わせずにからかうような質問を返す。
「じゃあ用意しろよそいつら。俺達を召喚した時みたいに」
「だから出来ない!出来ないんだ!……貴様達を召喚した時だって円卓の騎士の奴らに頼んで魔国を討ち滅ぼすためにやったものだ!そう……魔国を、憎き魔国を滅ぼす為だけに何万人もの民を犠牲にした……ッ。なのに、なのに召喚された勇者がこんな、こんな野蛮な民族だとは己れ誤ったッ!」
激怒しながら矛先を俺に向けてくる国王、もう立つこともままならないのに歯向かうその根性だけは立派だなぁ。これから何をしでかすかわからない俺達に情報をだだ漏らして無能っぷりを見せるところを除けば。
俺は嘲笑するように扱き下ろし国王に対してありがちな挑発を言い放つ。
「一国を滅ぼすためだけに数万の民を、ねぇ?お前の方がよっぽど悪党やってんじゃん」
「抜かすな野蛮人め!我は民の意思に従ってやったのだ!貴様達のような醜い外道と一緒にするなッ」
「おーわかってんじゃん」
俺は姫に向けているスマホの録画ボタンを止めて、携帯を置き国王の前へと迫る。
「俺達は外道だ、天性後天生含めて外道に行き着いたクソ醜い人間だ。お前達はそれを理解して俺達をここへ召喚したんじゃないのか?」
死に損ないの国王の頭を足で踏み潰しながら言葉と共に証明する。良いこと悪いことの区別はついているが、どちらをやるのも人の自由だ。悪いことをしたら裁かれる、だからしない。たったそれだけであって出来ない権利は無いのだから。
「ぐッ……!そんなわけ、ないだろう……!こんな輩が来るとわかっていたならやめるに決まっている!」
「あっそ、まぁどうでもいいがな。お前がこっちにヘイト向けてる間にお姫さんの方は終わっちまったみたいだし」
「何っ!?」
国王はハッと気がついたように娘の方を振り返る、そこに見えたのはもはや姫ではない。今朝まで綺麗だった顔と髪は誰のかもわからない血の色で真っ赤に染まり、口と鼻からは垂れ流れるように血が溢れていき見るも無残にぐったりと倒れている。
「あ……あ……アイリ……アイリッ!?」
「へー随分と可愛らしい名前だったんだな」
棒読みで興味なさげに呟く零。その煽りある言動に沸点を越えた国王が自滅を巻き添えに無理やり魔法を暴発させようとする。
「貴様ァ……ッ!!」
「おっと」
口より先にポケットから素早く銃を取り出し、迷いなく国王の右手へ打ち込む。怒りによって動いていた片手は弾丸の貫通により完全に機能を停止し、力が抜け落ちたように地面へと落ちていく。
「うっ……グぅ……ッ!」
「しつけぇな。よくみろ、まだ息はしているだろ」
その言葉に一瞬アイリへ目を向ける国王、殺意が減った一瞬の隙に俺は脳天へ潰すように足を振り下ろし直撃させた。
「隙ありすぎだろコイツ。……うわ、まだ生きてる」
「うぅ……うぅ……」
折れた歯と鼻から血を流し今にも俺を殺すと言わんばかりに憎しみに囚われた目をしている。その表情に呆れを通り越して寒気すらする。
「……今、俺に抱いているその憎しみは魔国を恨む気持ちより上か?……上だろうな。……はぁ、本当に。見ているだけで虫唾が走る」
復讐に身を任せるなど気の狂った狂人か力を持った人間がやることだ。円卓だかなんだかよくわからねぇ組織に組みして折り合いを付けた気でいるこの国の民達とこいつには死ぬほど反吐が出る。
俺は自然と流れ込んでくる気持ちを欲望のままに口から吐き捨てた。
「一々標的を変えていくその軽い気持ちには反吐が出るわ。他人に任せて国を討ち滅ぼすだと?甘えた事抜かしてんじゃねぇ。お前らには戦争とおままごとの区別がついていない。戦争舐めてんのか?戦争に必要なのは努力でも犠牲でもましてや願いでもねぇ。相手を上回る知識と力とそれらを行使する策略だ。頑張ったから報われると思うな、悲しんだから慰められると思うな。血と涙を捨てて貪欲に勝ちにいくのが戦争だ。ガキの八つ当たりじゃねぇんだぞ、感情を天秤に掛けて勝てるほど甘くねぇ。……今もそうやってただただ憎しみに任せて行動している。欲望に任せて行動する俺以下の単細胞だな」
何故だろう。一瞬記憶が、戦争をまるでした事があるかのように……。いやただの過剰妄想か、生まれた国と時代的にありえない。
本気で標的を見つけたなら何があろうともそれを討つ為だけに全てを費やすのが一つの決意だ。横槍を入れられた程度でワンワン泣き喚く犬に自分の意思があるようには思えないな。
「待たせたな、零」
言いたいことも言ってやることもなくなってきた所へ黒崎君がやって来た。グッドタイミング。その服には血が一滴も付いていない所を見るとやはりプロだと実感する。
「おうおかえり」
「彩華は……何をしたんだ?大体予想はつくが……」
黒崎君とは相反して顔も髪の毛も服も足までも全てが血まみれになっている彩華、もう誰だかわからないほど真っ赤だ。宇宙人と言われても納得せざるおえないほどに。
「楽しかったわ」
ただ一言それだけを返事する彩華。本当に末恐ろしい女だ、つい先日まで泣きながらゲームアカウントをBANされた事を永遠と語っていた女だとは到底思えないな。
「そんじゃ、黒崎君も揃ったことだし。いっちょやるか」
更なる悪夢がこの国を襲おうとしている事実に勘付き、唸り声を上げながら零の足へと手を伸ばし、意地でも止めようとする国王。
「今度は……ッ……なに、を……する気だ……ッ……」
「なんだと思う?」
「ッ……!」
最悪の相手だ、最悪の事を考えるのが当然だろう。それもわからないのかこのじいさんは。それとも俺達はまだまだ甘い存在だったか?いつまでも答えをだせない国王に俺は失笑する。
「おいおい、俺達の性格を考えたら必然的に答えは出てくると思うんだが。笑えるな」
自分にとって、王にとって一番最悪な事。それはつまり自分の存在価値と大切な者全てを無くすことだろう、勿論自分の娘たる姫が一番大切かもしれんがそれを含めてだ。
俺は国王の髪を掴み自分と同じ高さまで引っ張り上げると、ヤクザも面食らう下衆に染まった顔でコイツに、この国に、この世界に対し一番言いたかった言葉を放つ。
「──俺達を異世界に呼んだって事は当然覚悟は出来てるんだろうな?」
次にやることは至って簡単だ、ここに召喚された時に三人で決めた事。
ここに住んでいる全ての者を含めて文字通り──この国をぶっ潰す。




