13話 クズ三人組、ずっと俺達のターン!をする
そこには宴会場の中心で女性に刃物を突き付けている男がいた。それもただの男ではない、兵士達が知っている男──勇者様である。そして刃物を突き付けられ、手を縛られている方もまた勇者様だ。予想を覆すその状況に兵士達は混乱を招き始める。
「勇者様!?何を──」
「あ、あんた……誰よ!零じゃないわね!」
兵士が口ずさむ前に刃物を突き付けられている女性、彩華は目の前の男を睨みつけとんでもない発言をした。
「クククッ」
男は不気味な笑顔を浮かべる。確かに自分達をここへ呼んだのはこの男──「零」で間違いない、だが彩華がそれを否定する。
「どういうことですか勇者様!」
状況を察するにこの男が良い奴だとは判断しにくい、ましてやそれが勇者ならなおさらだ。
「クククッ、あーっははははは!馬鹿かテメェら!俺が勇者だァ?そんなわけねぇだろうが!」
「何っ!」
ドス黒い笑顔を浮かべながら高笑いする男。そもそも兵士達は勇者の召喚に立ち会わせていない、本物の勇者など見分けがつくはずがないのだ。もし彼女の言っていることが本当ならば勇者が人質に取られているという危機的状況だ。こうなってくると王室にいる王の生死も無事かどうか不安になってくる兵士達。
「やっぱり……零は、零はどこへやったの!?」
彩華は男に対して完全に敵視している。あまりに突拍子もない出来事に最初は兵士達も茶番を考慮したが段々とそんな雰囲気では無い事に気が付く、この女性が演技している等とは到底思えないからだ。舌打ちした男が彩華の髪を掴み自分の顔に寄せると不気味な笑顔のままゆっくり伝える。
「あいつはなぁ?残虐に殺してやったよ、クハハハッ!」
「そ……んな……ッ」
唯一の頼み綱が消え去った彩華は瞳から涙を零し絶望に顔を歪ませる。同時に兵士達もこの男が零ではないと確信し始める。
「うぐっうぅ……」
「あーっははははは!」
「お、おとなしく勇者様を離せ!」
兵士達の中からそんな声が発せられ宴会場へ響いた。助けようにも人質を盾にされて魔法を打つことも出来ない。
「うるせぇ!離して欲しけりゃあ武器を捨てて兜も脱げ!人と話すのに仮面つけてるとか礼儀がなってねぇなァ?」
彩華に向かってナイフを突きつけ、今まさに殺そうと脅しつけている男。
「ひッ……たす、助けてぇ……」
逆手に持って眼球すれすれまでナイフを近づけられ必死の表情で泣き崩れる彩華、それと同時に彩華の足元から地面に広がっていく水溜まり。
「うっ……あ"あ"あ"あ"あ"……っ!」
その姿を見て疑う余地が無くなった兵士達、演技でここまで泣き崩れて失禁までする人はまずいないだろう。その目を見ても分かるように彼女は本気で怖がっている。勇者と言えどまだ若き女の子なのだ、それを助けないで何が兵士か。
「わ、わかった……」
そう言って武器を置き兜を外し始める兵士達。いくら相手が憎き魔国とは言え頼みの綱である勇者を人質にされては抵抗出来るはずがない。戦意は消えてないがしっかりと指示には従うようだ。
「これでいいだろ、さぁ勇者様を離せ!」
何とも三流のセリフか、そんなことを言ってもこの男は離すはずもない事は重々兵士達もわかっていた。だが予想外の事に男はしっかりと彩華を離したのだ。
「いいだろう。ほらよ」
そう言って持っていた刃物で彩華の拘束を解くとまた不気味な笑顔を浮かべる。
「は……?」
「な、どういう──」
奇想天外な行動に兵士達は呆気に取られていた。きっとそれが術中にはまり満足した笑顔なのだろう、彩華が涙を拭った瞬間、腕の影からほんの一瞬口元がニヤついた気がした。それを見計らったように男がナイフを宴会場の天井まで高々と投げる。
「ほいっ」
またしても予想外の行動に兵士はおのずと視線を投げられたナイフの方へと向ける。しかしこれは驕兵必敗、彼らを侮り流れに身を任せ過ぎたのだ。この一見意味の無さそうな行動を唯一理解できたのはリーダー格の兵士ただ一人だった、彼はハッと気づき口からとっさに真実を伝えようとするが──。
「馬鹿それを見るな!今すぐ全員兜をかぶっ──」
後方から何者かに頭を刺されその場に突っ伏したリーダー格の兵士。それと同時に天井に投げられたナイフから眩い閃光が走り抜ける。
「なっ!しまった!」
「うがっ前がああああ」
「目が!目がやられた!」
黒崎君御用達の閃光弾だ、まともに喰らった兵士達は目を塞ぎ慌てる、何も見えない恐怖からか無茶苦茶な方向に魔法を唱えようとしている者もいた。
目が見えている兵士や軽傷で済んだ兵士は俺達へ視線を向けるがもう遅い。
「「ばーい☆」」
全員がナイフに目を奪われている隙に俺と彩華は懐から拳銃を取り出し、閃光に備えて目を伏せていた。光が辺りを去った後に映し出される光景は現実。俺と彩華は本来あるべき地に落とすゲス顔を表し、兵士達へ躊躇いもなく発砲する。
「や、やめっ──ああ"ァ"あ"ッ!」
「うギッ!?」
「た、たすけぐぇッ」
「がアァアアああ"ッ!」
聞くだけで恐怖を抱く弾丸の轟音が次々と鳴り響き、近距離にいた兵士達は血を吹き出し悲鳴をあげている。また後方では黒崎君がナイフで無双している。ようやく目が見え始めた兵士達は黒崎君がナイフで必要以上に頭を狙っていることに気づき、兜が取れ生身を見せてしまったのが完全な敗因だと理解した。
やがて銃声も鳴り止み、何とか数名の兵士が生き残るも状況は完全に不利だ。
「おい!王を連れて城の外へ逃げさせろ!」
「わかった!」
勇者が裏切るというとんでもない状況に兵士達は錯乱しながらも怒りをあらわにしていた。勇者が敵ならば最優先事項は当然王の安全の保護だ、それだけは絶対に為さねばならない。兵士二人を王室へ向かわせて残りは宴会場の扉まで下がり始める。
「ここから先は絶対に通さないぞ!」
「勇者様、なぜこんなことを……!我々を裏切ったのですかっ!」
魔法を詠唱しながら必死な形相で怒りをぶつける兵士達、それを見て俺は呆れが積もった。
「──お前らに言ってもわかんねぇよ。さっさと死ね」
そう言って明かりの電源に手を伸ばす零。この国で唯一科学的に電気がついているここ宴会場、零はその電源を切り辺りを消灯させる。
「なっ──!」
「真っ暗に……!」
辺りが暗くなった事を起因に魔法の詠唱をやめてしまう兵士達。当然だ、こんな真っ暗な中光を放つ魔法を詠唱してしまったら明かりで自分の場所が敵にバレてしまうからだ。しかしこれは相手も同じ、お互い攻撃の出来ない状態に陥ってしまった。
「くそっ……何とかしてここの明かりを──」
手探りで部屋の明かりをつけようと壁を伝ってふらふらし始める兵士、しかしその兵士の頭に向かって音無き弾丸が飛躍する。
「あガッ──!」
一瞬で兜を貫通した弾丸が兵士の頭に当たったのだ。この暗闇の中で攻撃出来る人間など早々いない、だがそれを成功させたのは黒崎君だった。
「さっすが黒崎君、やる~!」
暗闇の中から陽気な声と共に拍手が沸き上がる。そう、彼は夜中の外でもしっかりと相手を視認する事が出来ていた、夜に活動をすることが多かった黒崎君にとってこの程度の暗闇は昼間と変わらない。
「──うわぁああああ"あ"あ"!」
「あぁッ……今度は何なんだ!」
そして王室の方から爆発音と共に悲鳴が聞こえる。哀れだな、当然あそこにはしっかりとお土産手榴弾を仕掛けてある。馬鹿な兵士だったら俺達と交戦し始めた段階で王の無事を確認するか逃がすために必ず王室の扉を開けるに決まっている、実際手のひらで遊ぶかのように何もかもが上手くいった。
そして俺が彩華を人質に取ったのも当然演技、最初は気を引くだけでも良かったんだが彩華のおかげで最善策のルートまで一直線に飛んで行った形だな。まさか彩華があそこまで本気で演技するとは思わなかったが。
「う"ッ……」
最後の一人も無事仕留め、明かりをつけて兵士全員が壊滅したのを確認する。
「よーしお疲れぇい!あぁ、一応まだ息があるやつがいるかもしれない、黒崎君は王室の方を頼む」
「了解した」
そう返事をしてナイフと拳銃を両手に持ちながら王室へ向かう黒崎君。
「彩華もここの兵士の生死を頼む」
「……」
「彩華?」
俯き黙ったまま動かない彩華、腕がぷるぷると震え拳に力が入っていくのが分かる。そして過去に見覚えのあるその光景を目にした俺は一歩一歩と足を後退させながらその場を離れる。
「こ……この私がこんなクソみたいな連中相手に演技とはいえ!演技とはいえ漏らすなんて侮辱!絶対に許さない、許されない、許されるはずがないッ!!殺す、全員殺す。殺すッ──!」
外に聞こえるくらい大きく怒鳴り上げて近くにいた兵士の頭を思いっきり踏みつける彩華。それでも満足いかないのかテーブルを両手で持ち、手から血が出るまで何度も何度も叩きつける。あの顔は本気で怒っている、赤面したツンデレっ子、なんて次元じゃない。彼女はサイコパスだ、それが怒った時の比は伊達じゃない。
「目、心臓、首!目、心臓、首!目、心臓、首!目、心臓、首!目、心臓、首!目、心臓、首!目、心臓、首!目、心臓、首!目、心臓、首!目、心臓、首!目、心臓、首!目、心臓、首!」
そして気の狂ったようにそう叫び素手で兵士達の目をはぎ取り、胸に手を突っ込んで心臓を捥ぎ取り、ナイフで器用に首だけ切断し、それらを宴会場にあった巨大なゴミ袋に入れ始める。ちゃんと生死の確認をしている、というか死の確認をしているのでその行動自体に文句はないのだが──。
「目、心臓、首!目、心臓、首!目、心臓、首!目、心臓、首!目、心臓、首!目、心臓、首!目、心臓、首!目、心臓、首!目、心臓、首!目、心臓、首!目、心臓、首!目、心臓、首!」
「oh……SAN値下がるぜぇ……」
兵士達だけでは満足できないのか、既に死んでいる貴族たちにまで手を出し始めた。流石の零もこの光景にはドン引きだ。
「どうした彩華──って……なにをしてるんだ」
戻ってきた黒崎君も戸惑った表情をしている。
「失禁プレイが気にくわなかったらしい」
「零っち……?」
「いやぁ勘弁願いたいです清らかな彩華おじょうさま」
凄い眼光で睨みつけられた俺にはとんでもない悪寒が走った。普通の女の殺意には毛ほどの反応もしない俺ですら彩華の威圧には自然と謝罪の言葉が出てしまうほどにだ。
「えーっと……彩華お嬢様、それをいかがなされるおつもりで?」
ついに敬語まで口から出てしまった。彩華は目を見開きゾンビの様にゆっくり振り返るとそのまま口角を上げて喋り出した。
「……死んでいる人間、悲鳴、聞けない。生きている人間、悲鳴、聞ける」
「oh……」
片言で鬼畜の所業をしようとしている彩華、流石に人間のやる事とは思えない。が、クズの俺に止める理由は毛頭ない。
「黒崎君の方は大丈夫だったのか?」
一応報告を受けていないので確かめる。いついかなる時もホウレンソウは大事だ。まぁこれだけ爆発音やら轟音やら鳴らしても誰も来ないのだから問題はないだろうが。
「城内も軽く徘徊したが誰もいなかった、兵士の数もピッタリ18人だ。間違いなく制圧出来たとみていいだろう」
「よし。じゃあ戻るか、今回ので色々わかったしな」
俺はゆっくり立ち上がると未だ目、心臓、首!と口走っている彩華の肩を指先でツンツンと叩く。
「彩華」
「心臓?」
「いや俺は心臓じゃない、零だ」
意味不明な返答をする彩華にまともに答えてしまった。
「なんだ零じゃない、もう帰るの?」
「おう。それは持っていくのか」
「ええ」
と言って目、心臓、首!の入った巨大なゴミ袋を持ちながら笑顔を見せる彩華。顔にはいくつもの飛び散った血が付着しており、両手は黒く染まるほどに血に塗れていた。
「帰りましょうか♪」
この女まじでこえぇ。




