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12話 クズ三人組、魔法を使う兵士18人を相手に挑む

 

 気持ちのいい夜風を十分堪能した俺達はいよいよ国の制圧に向けて動き出していた。


「なるほどねぇ、いくら装甲のある兵士でも防具を外されたらただの人間と変わりないものね」

「まぁその案は誰でも浮かぶんだが、問題はどうやって防具を外すか。今回は彩華のおかげで簡単に外せたが、流石に全員の兵士にやるほど時間は余ってない」


 黒崎君の確認した限りでは残りの兵士は12人らしいが流石に少ない、全員が外にいるのでなんとかして数だけでも把握したいのだが流石に夜中に外を歩き回っていたら不自然に思われる。怪しまれることなく兵士を確認でき、出来れば俺達三人の目の届く範囲に置きたい。……だがそんな方法は当然ない、俺は大して頭もよくないしこういった事に関しては苦手だ。


「難しい事考えなくてもいいんじゃない?この国頭悪そうだし魔国とかいう国に執着してる狂人集団よ?」

「うーん……」


 腕を組んで深く考える、確かに彩華の言う通りだ。この国の視点になって考えればいい、相手の土俵に立ってほんの少し差をつけるように調整すればおのずと成功する。最初から壮大なやり方で差をつけすぎると一周回って失敗するというものだ。


「じゃあもう適当でいいか、腹減ったわ」

「いいと思うわ、私も早くお風呂に入りたい」

「殺せるならなんでも構わん」


 何ともまぁ、俺達らしい考えのない結論だ。一度失敗すれば最悪自分達の命が危ないというのに、こうも余裕でいられるのはきっとそれだけ仲間を信頼している証拠なのだろう。いい意味でも、悪い意味でも。

 俺達は一旦別々に分かれ、それぞれの門番をしている兵士達へ移動を開始した。相も変わらず前方のみを警備している兵士達、それを陰から覗くようにして待機する。


『準備出来たわよ』

『こっちも出来た』


 ──そんな声は聞こえない。だが不思議とその言葉が脳内再生されて自らの背中を押す、それは他の二人も同じだった。きっと長年一緒にいたせいで感覚が狂ったのだろう。しかしそのタイミングはほぼ同時に動き出しており、本物の意思疎通が出来ていたのを彼らは知らない。知っていたのはきっと俺らをいつも見ている傍観的な神くらいだろう。

 真夜中に響く緊張の一声、それが多方面から発せられた。


「た、大変だ!祝祭が……祝祭が!」


 顔を真っ青にしながら兵士二人へ縋りつく零。


「な、何事です勇者様!?」


 その異様な緊迫感に焦燥を駆られる兵士達、明らかに嫌な予感が辺りを漂う。


「魔国の所属を名乗る男が城内で暴れ出しているんだ!」

「なっ……魔国だと!?」


 魔国という単語を聞いて豹変する兵士。その様子を見た零はほんの一瞬不気味な笑顔を浮かべる。


「俺は他の兵士も呼びに行ってくる!あんた達は先に向かっていてくれ!」

「わかった!」


 真に迫る演技は兵士達に見破られることなく流れを掴む。零はそのまま別の見回りをしている兵士へと駆け出して行った。

 そして他の二人もまた、同じように魔国と言う単語で煽り宴会場へ足を向けるよう誘導していたのだ。

 こうすることで違和感なく一つの場所へ兵士を向かわせることができ、夜道を走り回っていても怪しまれることもない、そして肝心の兵士の残留を見逃すことがないと一石三鳥なやり方だ。

 宴会場を起点として俺、彩華、黒崎君の三人が120度の間隔をつけて城の外まで一直線に走る。外まで出たら後は時計回りに走って兵士を誘導すれば残りの兵士の数も合わせて確認する事が出来る。


「あ、零っち~!」


 城を回っていた俺は一周した辺りで二人の人影を発見する。


「おー彩華に黒崎君。上手くいけたか?」

「ああ」

「余裕よ」


 全員が無事な事もあって大成功したようだ、人数は三人の兵士の数を足して18人。やはり偶数か。


「二人組で見回りをさせるって確かに常套手段だけどさぁ、やっぱり馬鹿だよねー」


 なんかRPGの一面ボスに出てくるような単細胞思考の思惑で呆れと言うより怒りが湧いてくる、馬鹿にしてるのかこの国。


「まぁいいや、さっさと宴会場へ行くぞ」

「ちょ、ちょっと。これからどうするかまだ聞いてないんだけど」

「んなもん知らん、漏らせ」

「は?」


 意味不明な返答に真顔で反応する彩華。何はともあれ時間がない、魔法を使うかもしれない兵士18人を相手に無力な俺達人間三人がどうやって勝つのか、そんなものは流れに身を任せればいいだけだ。出来るだろう、俺達なら。出来なきゃここまで来ていない。

 普段通りを意識したまま俺と彩華は先走るようにして宴会場へ走っていった。 


 ◇◇◇


 勇者の情報を受けて城内へぞろぞろと入っていく兵士達、どうして魔国の連中が城内まで侵入していたのか、どうして勇者様が召喚された日に限って襲ってきたのか。いくつもの疑問が浮かぶ中、城内で自分たちの足音しか聞こえていないことに気づく。


「なんだ……?なんでこんな静かなんだ?」


 祝祭で賑やかだったはずの城内が静寂に包まれていることに気づいた兵士の一人が怪訝な表情をする。確か勇者様の情報では暴れていると言っていたはず。


「お、おい。まさかもう」


 その一言でさらに焦りだした兵士達が慌てて宴会場へと向かう。


「くっ、何も聞こえない。おい、一斉に開けるぞ!」


 兵士達が魔法を放つ準備をし、リーダーらしき兵士の合図と共に一斉に宴会場の扉を開けた。その時、カチッと聞きなれない音が混ざった気がした。


「な、なんだこれは……」


 兵士達は驚愕する。そこには宴会場にいた貴族や料理人、執事などの全ての人達が崩れ落ちるように倒れていた。どれも外傷はなく眠っているように見えるが、執事や料理人にナイフが刺さっているところを見ると全員殺傷された後だと思える。


「ん?なんだこれ?」


 扉の近くで見慣れない丸形の物を手に持った兵士。次の瞬間、それを持った兵士の一帯が轟音と共に爆発を引き起こした。


「お、おい!大丈夫か!」


 後方にいた兵士が声を掛けるも宴会場の惨状を目撃して扉周辺で固まっていた兵士達のほとんどは爆発に巻き込まれ上半身が吹き飛んでいた。なんとか状況を確認しようとするも爆発の煙が辺りを覆い尽くし前が見えない状態だ、室内で煙が充満し咳をする兵士達。その中を二人の人影が走り去っていくが当然誰も気づかない。


「きゃああああああ!」


「今度はなんだ!?」


 次いで聞こえたのは女性の悲鳴。煙が引きはじめ、辺りが見えるようになった兵士達は悲鳴がした方向を向く。


「ククク、おいお前ら!この女がどうなってもいいのか?あァ?」


 そこに現れたのは二人の人間。男の方がナイフを突きつけ、突き付けられている方が女性だ。だが、問題はそんな所ではない。


「──勇者様!?」


 兵士達はその状況をみて混乱する、何と言う事か。男の方は零、女の方は彩華。対立しているこの二人はどちらも勇者だったのだ。


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