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聞き取り調査開始

「ん……」

 布団の中で身をよじって、リディアはしょぼしょぼとまぶたを開けていく。

 丸い窓の向こうには、オレンジ色に輝く朝日が見え、空も少しずつ明るくなってきている。


 ベッドの端に腰かけて手櫛てぐしで髪をとかしたリディアは、机へと向かった。


「おはよう」

 机の端にちょこんと腰かけているファルシードに笑顔で声をかけていくが、「ああ」と返事をしてきた彼の声は、ぶっきらぼうで刺々しい。

 ひょっとしたら“朝になれば戻れるかもしれない”と淡い期待を抱いていたのかもしれない。


「おい、このかたまり、何だ?」

 ひょこひょこと机の上を歩いて、ファルシードは言ってくる。

 指差す先にあったのは、赤茶色の塊だ。


「これ? 粘土だよ。本当は今日はバド君、明日は団長をつくる予定だったんだ」

 リディアは微笑みながら言う。

 仲間たちの人形を作ってここに並べたらきっと可愛いと、そう思ったのだ。


「あっそ」

 楽しげなリディアとは反対に、ファルシードの反応は冷めたもので、リディアは小さくため息をついた。


「あっそ、って。まぁいいや、お腹すいた?」


「いや、粘土だからか減らねェ」

 ファルシードは立ちあがって、リディアの方へと両手を伸ばしてきて、再び口を開いていく。


「ポケットの中に入れて、連れて行ってくれ。情報を集めたい」


――・――・――・――・――・――・――・――


 リディアはファルシードを両手ですくい、右のポケットに入れていく。

 下を見ると、ポケットの中から小さなファルシードが見上げてきていて、その様子が“どうしようもなく可愛い”と顔をほころばせた。



 食事の準備のため、ファルシードと共に食堂へと向かうと、今日の担当はバドとケヴィンだったようで、朝から明るい挨拶が飛んできた。


「はよっス! 昨日奇跡の虹出てたんでしょー? いいなぁ~」

 男性にしては小柄な茶髪の男、バドが両腕を頭の後ろで組んで口をとがらせている。

 いかにも軽い男と言った印象だが、狙撃の腕は一流であり、自分でも銃の改造をしたりしているようだ。


「奇跡の虹?」

 リディアが問いかけるとバドは、にししと笑い、今度は彼の隣に立っていた武骨な印象である黒髪の男、ケヴィンが口を開く。


「イーリス海域でのみ現れるという、願いを叶える虹だ」


 これは好機だ、とリディアは両口角を上げて、こぶしを握った。



「もし! もしもの話ですよ。運よく願いが叶っちゃって、それを解除したいなぁって思った時は、どうするんです?」


 リディアの問いに、バドとケヴィンは顔を見合わせていく。

 そして、バドが吹きだすように笑った。


「せっかく叶った願いをキャンセルしたいなんて、そんなヤツいるなら会ってみてェよ。奇跡に頼ってでも叶えたいモンだからこそ“願い”なんじゃんか」


「まぁ……確かにそう、だけど……」

 そんなふうに、キャンセルしたい願いをかけてしまった人はここにいるんだよ――

 と、心の中で返事をし、苦笑いしながらリディアは返す。


 何も言えなくなってしまった途端、ポケットの中がもごもごと動くのを感じ、リディアは下に視線を送った。

 すると、ファルシードが睨みつけてきていて、小さな手で二人がいる方向を指差していた。

 恐らく“もっとちゃんと聞き出せ”とでも言いたいのだろう。


 聞き出せと言われても、どう切りだしたものか――

 悶々と悩んでいると、ケヴィンがふ、と微笑みかけてきた。


「気になるのならカルロに聞くといい」


「カルロさんに?」


「アイツの父親は歴史学者。詳しいはずだ」


「そっか、カルロさんがいましたね! ありがとうございます」

 リディアはうなずき礼を言う。


 確かに、奇跡の虹について最初に教えてくれたのはカルロさんだ――

 と、希望の光を見つけ、顔を上げて笑った。


――・――・――・――・――・――・――


 それからは、いつものように談笑しながら朝食の準備を終え、団員たちも続々と食堂へと集合してくる。

 だが、一つの席はいつまでたっても空白のまま。


 それもそのはずだろう。

 その席に座る予定だった人は、リディアのポケットの中にいるのだから。


「小僧はどうした? 寝坊か?」

 他の団員たちが全員着席し終わった後に、もっさりとひげをたくわえた団長のライリーが言ってくる。


「キャプテンが寝坊だなんて、珍しいですね」

 カルロが首をかしげている。


「俺が起こしてくるっス!」

 バドが立ち上がり、リディアは慌ててそれを止めた。


「行かなくて大丈夫! 大丈夫だから!」

 このまま部屋に迎えに行ったところでファルシードがいるわけもなく、“落水したのではないか”と、船の中が混乱するのは目に見えている。


 だが、ここでそんな事情を知っているのはリディアと、小さくなったファルシードだけ。

 「なんで?」と、バドは怪訝けげんな顔をして、迎えに行かなくていい理由を聞いてきて。


 リディアは必死に言い訳を考え、ぴんと人差し指を天へと向けた。 


「そう、具合! 風邪ひいたのか体調が良くないから、そっとしておいて欲しいんだって」

 我ながら良い言い訳が思いついた――と、リディアは心の中でほっと息をついていく。



「えー!? あのキャプテンが~? しっかしまぁ、風邪菌も怖いもの知らずだよな。俺が菌だったら絶対キャプテンのとこにはいかねーわ」

 声を上げて、バドはからからと笑う。

 数人の団員が「違いねェ」と同意を示して笑っていた。


 笑い声を聞きながら、リディアは恐る恐る視線を落としていく。

 ポケットの中を覗き込むと、人形なのにどこか威圧感のようなものが発せられているようにも見える。


「なぁなぁ、リディアもそう思わない?」

 よりによってバドは、リディアに話を振ってきて。


 ――ひぇえ~、バド君もうやめて!

 強張った愛想笑いを浮かべるリディアのひたいからは、自然と冷や汗が垂れ落ちてくる。


 バドはにこにこと笑っているが、ふと顔をしかめて自身を抱きしめるような仕草を見せてきた。


「って、俺まで風邪ひいたかな、寒っ」

 ただならぬ気を感じたのか、何なのか。

 寒そうにブルブルと身体を震わせたバドは話を止めて、自分の席へと戻っていくのだった。

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