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粘土な貴方と

 気が済んだリディアは左右に振るのを止めて、ファルシードを机の上に下ろしていく。

 粘土人形になった彼は、ぐったりとした様子で座りこんだ。



「リディア……お前、これ作ってどうするつもりだったんだ」

 トントンと自身の胸を叩いてファルシードは言ってくる。

 リディアの仕返しに腹が立っているのか、それとも、粘土の人形に魂を入れられた苛立ちからか、その声は刺々しい。


「え!? あのええと……どういうつもりっていうか、特に意味なんかなくて……」

 リディアは誤魔化すように笑い、本音をそのまま伝えていく。


 だが、言い終えたあとですぐに後悔し、顔を強張らせた。

 


 ――意味がないなんて、それが一番気持ち悪いんじゃないだろうか。


 恐る恐る視線を送ると、ファルシードと目が合い、彼はぷいと顔をそらしてくる。

 その態度に少なからずショックを受けたリディアは、項垂うなだれて机に突っ伏した。


「ごめん……気持ち悪かったよね」


「は?」


「団長から粘土をもらったから、何か作りたかったの、それだけなの……っ。気持ち悪いことしてごめん……」

 気落ちした声で呟くように言う。


 二人の関係は、偽りの恋人同士。

 お互い好意を抱く必要性は一切ないし、リディアだってファルシードと恋人同士になりたいと思ったことは一度も無い。

 だがそれでも、この男から嫌われて、これまで以上に距離を置かれるのだけは嫌だった。


 ファルシードの部屋で本を読んだり、知らない町に連れて行ってもらったりするのは楽しかったし、その時間が好きだった。

 負けてばかりの口ゲンカだって悪くないと、リディアはそう思っていたのだ。



「ファル。私のこと、嫌に、なっちゃった……?」

 ファルシードの反応を見るのが怖いと思ったリディアは、突っ伏したまま、ぽつぽつと言う。


 すると、すぐ近くから小さなため息が聞こえ、頭にぺたんと何かが触れてくるのを感じた。


「そうは思ってねェ」

 恐らく彼は、小さな手を頭にあててきているのだろう。

 熱は感じないはずなのに、なぜか温かいとリディアは思った。


「よかった……ありがとう!」

 ぶっきらぼうだが優しい言葉と態度に安心し、思い切り顔を上げていく。


「おい、急に動くな!」

 ファルシードはそのままリディアの髪の束を掴んできて、宙に浮き上がる。

 だが、指通りの良い髪に手を滑らせたのか、すぐに落下した。


「わわわ、ごめん!!」

 慌ててリディアは両手で受け皿を作ってファルシードを受け止めて、安堵の息を吐いた。


「この身体なんだ、気をつけろ」

 おろおろとするリディアに呆れたのか、ファルシードは手のひらの上で、ため息をこぼしてくる。

 そして、彼はまた、口を開いた。


「こうなるには、何かきっかけがあったはずだ。今日の出来事を順を追って話せ」


 リディアは頷き、長い亜麻色の髪がはらりと垂れ落ちていく。


「今日あったのは……」


――・――・――・――・――・――・――


 ここまでの経過を聞き終えたファルシードは「またカルロのせいか……」と恨めしそうに呟いた。


「カルロさんが何したの?」

 ここまでの話に、カルロがファルシードに何かをしてきた場面などなく、リディアは思わず眉を寄せて首をかしげた。



「船乗りには有名な話で、このイーリス海域には、言い伝えが一つある」

 小さな指を一本ちょこんと立てているファルシード。

 その姿が可愛いと思ってしまったが、言うとまた不機嫌になるのが目に見えていたため、リディアは言葉を飲み込み、真剣な表情で返す。


「言い伝え?」


「ああ。海にかかる虹を見た、最初の三名の願いを叶えてくれる、というやつだ」


「そんな魔法みたいなことってあるの!?」


「どうせただの迷信だと思っていたが、そうじゃなかったみてェだな……」

 自身の身体を確かめるようにして、ファルシードは言う。


「どうしよう、私がファルに反撃したいなんて願ったからだ」

 後悔するリディアに、ファルシードは呆れたような声を発してきた。



「だとしたら、さっきすでに願いは叶っただろうが。他にも解除する条件が必要なんだろう」


「そっか……そしたら、団長さんや皆に相談に行く?」

 誰か、何か知っているかもしれないと思いリディアは尋ねたが、彼は首を横に振ってきた。


「いや、ジィサンはこの時間酔っ払って役に立たねェし、夜間野郎の部屋に行くのは避けたほうがいい。それに騒ぎにしたくない」


「じゃあ、情報収集は明日から、だね」


「ああ」

 ファルシードはそう言って、机の端へと歩いていき、机の脚に自身の足をかけ始める。



「ちょっと何してるの!」

 慌てたリディアは降りていこうとするファルシードをつまみ上げて、手のひらへと載せた。


「何するって部屋に帰……」


「無理に決まってるよ! ちっちゃいんだから危ないし、今日はこの部屋で寝たほうがいいと思うの」

 リディアの言葉に、小さな眉が不機嫌そうに寄せられたのが分かる。

 呆れて息を吐いたリディアは、再び口を開いた。


「机の上の寝心地が悪くて嫌だったら、今日だけはベッドの隣貸してあげたっていいよ」

 何の気なしにリディアは言う。


 普段のファルシードだったら絶対にお断りだが、今ばかりは仕方ない。

 それに、見た目は可愛い人形であるため、恥ずかしいとも何とも思わなかったのだ。


 これは彼女なりの優しさだったのだが、ファルシードの口元はますます歪められているように見えた。


「却下」


「なんで? あ、わかった! 寝返りの時に潰されそうで怖いんでしょ。じゃあ、タオルとハンカチでここに寝床を作ってあげる、それでいいよね?」


 どんな寝像をしてると思っているんだか――とリディアはわずかにむくれていく。


「ああ」

 ファルシードがこくりと頷いたため、リディアは彼のための寝床を作り、“試してみて”と手で示した。


 ひょこひょこと机の上を歩いたファルシードは小さな手でハンカチをめくり、そのなかに身体をもぐりこませていく。


「悪くないな」

 そういう可愛げのない言い方が、今ばかりは可愛く思えたリディアは、ファルシードの頬をつついて微笑む。


「可愛い~」

 小さな布団の中にいる姿をじっと見つめていたら、機嫌を損ねてしまったのだろう。

 ファルシードはそっぽを向いてハンカチを頭からかぶってしまい、深いため息をついてきたのだった。

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