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夢世  作者: 花 圭介
81/120

夢世81

「あとは……こいつを攻略するだけか」

 俺は、そびえ立つそいつの体を見上げていた。

 近くで見上げると、それはまるで山のようだった……。

「こいつから見れば、俺らなんて、ほんとに虫けらみたいなもんだよな……」

 俺は、岩のようにゴツゴツとしたそいつの足先を、ポンポンと叩いてみた。

 だが、そいつからの反応は全くない。蚊に刺されたほどにも、感じてないらしい……。

 俺は呆れて苦笑すると、その足に背を預けた。



 俺たちは『疾風モグラ』を捕獲した後、数日かけて、2つのミッションをクリアしていた。

 どちらも難易度的にはそれほど難しくはなかったが、見つけ出すまでに思った以上の時間を要してしまった……。

 それは、ターゲットの行動に、規則性というものがなかったからだ。

 ネットの記述を見ても、その2つのターゲットに関しては、発見された場所はまちまちで、山間部であったり、海辺であったり、砂漠地帯であったりもした。

 そうなってくると、ターゲットの位置を絞り込むことができないため、自分達で地道に捜索するしか方法はない。俺達は手分けをして、根気強く、時間を掛けて、ターゲットを探し出した。

 ターゲットは、空の覇者、翼竜プテラノドンと、肉食恐竜最強と謳われるアロサウルスの2体だ。

 プテラノドンは、優雅に飛翔しているところを、道中手に入れたアイテム『インドラの矢』を用いて仕留めた。

 『インドラの矢』は、減速することなく、どこまでも直線的に飛ぶ光の矢である。一輝の特殊技能と呼べる目測と、遥の弓のスキルを用いて、見事一撃で急所を貫いた。

 アロサウルスについては、群れで行動する習性があるため、俺の分身を囮とし、それに群がり密集したところを、竜馬のロケットランチャーで一網打尽にした。竜馬のロケットランチャーは、以前対戦した時とは比べ物にならないほど、火力が増大していた。

 なんでもロケットランチャーに改良を施し、例のレイピアを装填できるようにしたのだとか……。

「お前と再戦する時まで取っておきたかったんだがな……」

 焼け野原と化した一帯を、唖然として眺める俺に向かって、竜馬が舌打ち混じりに愚痴る。

「……」

 俺は無言のまま、竜馬に視線を向けると、無理矢理口元を綻ばせた。

 精一杯の虚勢を張っては見たものの、頭の中では『こいつとの再戦は避けよう』と心に誓っていた。

「何やってんすかー、タケさん。そんなとこいたら、踏みつぶされちゃいますよー」

 俺が背にしている恐竜から、十分に退避距離をとりつつ、一輝が声を掛ける。

「……こいつに踏み潰されるほど、ノロマじゃないって」

 俺は、寄りかかった体勢のまま呟く。

 こいつは、2層に着いてすぐに出会ったあのブラキオサウルスの亜種だ。

 信じ難いことだが、通常のブラキオサウルスよりも、ふた回りほど大きい……。

 俺がいる位置から見上げても、こいつの頭がピーナッツ程度の大きさにしか見えないため、表情を窺うことすらできない。

「まあ、こいつとやり合うミッションじゃなくて良かったが……。頭に乗るっていうのも厳しいけどな」

 俺は、どうしたものかと途方に暮れてしまっていた。

 ブラキオサウルスの肌はゴツゴツとひび割れをしてはいるが、指先や足先を引っ掛けられる程度の凹凸しかない。クライマーならばお手の物かもしれないが、俺達にとっては難易度が高い。途中で手足を滑らせようものなら、地面に叩きつけられた真っ赤なトマトとなるだろう。

 クライミングをするように上っていくためには、もう少し手足を深く引っ掛けられる溝が欲しいところだ。

 それに自然の崖や岩ではなく、生き物であるため、いつ動き出すかわからない。

 おとなしくしているときは良いが、動き出せば、転落する危険性は高まるだろう……。

 攻略法では、食事をしているときや水を飲んでいるときに頭を下げるため、そこを狙うのが上策だと書かれていた。

 確かにそのときを狙うのが1番効率が良いと感じるのだが、そのタイミングがなかなか訪れない。

 調べたところによると、こいつの活動スケジュールはかなり変わっているらしい……。

 1日の大半は、こうして立ったまま周囲を監視し、時折歩きはするが、頭を下げる時間は、先ほど述べた飲食事の小1時間だけだそうだ。

 そのタイミングも変則的で、運が良くなければ、かち合うこともない。

 そして何よりも、眠る時すら頭を上げているらしい……。

 考えられない生態だが、文句を言ったところで何の解決にもならない。

「楔でも打ち込みながら、少しづつ登って行くしかないか……」

 俺は攻略法を思案しつつ、皆のところまで戻ると、最良では無いと知りつつ、今ある考えを口にした。

「えっ? ……そんなことしたら、この子が可哀想じゃない」

 俺の到着と言葉を待っていた遥が、望む案ではなかったことに顔を歪め、異論を唱える。

 もう少しマシな、実のある作戦が告げられると遥は思っていたのだろう。

 確かに俺の作戦内容は、単純で作戦と呼ぶには些か物足りない。

「大丈夫だって。楔くらいじゃ、こいつはきっと何も感じやしないよ。長剣であっても、反応があるかどうか分からないくらいさ」

 遥の不満の根本が、そこには無いと気付いてはいたが、それ以上の良い考えが見つからなかったため、仕方なくそう答えた。

「でも……」

 遥は不満の言葉を続けようと試みたが、それ以上は言わなかった。自分にも、それ以上の良い作戦が浮かばなかったからだろう。

「ちょっと、いいですか?」

 そこへ、一輝がニヤニヤしながら割り込んできた。

「何だよ」

 唐突に割り込まれたのと、一輝の悪戯っぽい笑顔に苛立ちを感じ、不快な表情を隠さず睨みつける。

「まあまあ、落ち着いて下さいよ。この状況を打開する良い手があるんですから」

 一輝は臆さず、その表情を保ったまま返答する。

「良い手?」

 俺と遥が、表情を変えない一輝に怒気を孕んだトーンで聞き返す。

「……皆さん。俺の能力って、何だか知ってます?」

 俺と遥の対応が、一向に改善されないのを見て、仕方なく一輝は、竜馬や洋輝を話の舞台に巻き込むことにしたようだ。

「一輝お兄ちゃんの能力?」

 洋輝が可愛らしく小首を傾げる。

「人の怒りを煽る能力か?」

 竜馬が、半分本気とも取れる言いようで尋ねる。

「ああ、なるほど!」

 俺と遥は、合点がいったと手を叩いた。

「違いますよ! 何ですか、その不愉快な能力! そんな能力、誰が欲しがるんですか!」

 竜馬を巻き込んだことで、さらに状況が芳しくない方向へと流れ、一輝は思わず天を仰いだ。

「あっ! 分かった! この前のプテラノドンをやっつけた時の能力でしょ? 一輝お兄ちゃんが、矢の方角や角度をぴったり合わせたんだもんね!」

 洋輝が、答えを見つけ出したことを確信して小躍りする。

「残念ー! 洋輝、違います! それは元々です。そんな能力じゃありません!」

 一輝は、流れを引き戻してくれた洋輝に微笑みかけながら答える。

「そんな能力って……」

 一輝を除く皆が、思わず顔を見合わせる。

「仕方ないですねー、時間切れです。答えは……」

 一輝がシンキングタイム終了の合図を出すと、皆の前に手を翳した。

 だが一輝を含め、周囲の状態に何ら変化は見られない。

「タケさん、俺に近づいてみて下さい」

 一輝が得意げに微笑む。

「ん? ……まあ良いけど。……イタッ!」

 俺は指示通り、一輝に向かって1歩1歩近づいて行くと、途中で見えない壁にぶつかったような衝撃を受け、立ち止まった。

「へへへー、バリアー!」

 一輝は、してやったりと満足そうだ。

「何だよ、これ?」

 俺は、確かにあるが目に見えない透明な壁を探りながら、一輝に回答を促す。

「これが、俺が手に入れたレアアイテム『見えない壁』です。面白いでしょ?」

「面白いっちゃ面白いけど……。これ役に立つのか?」

「んー強度は、人がその上で飛んだり跳ねたりできる程度で、大きさは直径約1mの正方形ってところですかね」

「斬撃は?」

「突き通っちゃいますね」

「銃弾は?」

「貫通します」

「……」

 俺は呆れて言葉も出ない。

「いやいや、それだけでこのアイテムを見限ってはいけませんよ。僕はかなり気に入ってます。あの『妄想画報』って店は、その人に合ったアイテムを提供してくれていますよ。ちょっと見てて下さい」

 そう言うと一輝は、目の前で1度軽く飛び跳ねた。

 ニュートンが発見した万有引力が働くこの世界では当然、一輝の体はすぐに地上へと戻ってくる。

 だが一輝の目線は、俺より数十センチ高くなったところから、一向に降りてこない。

 疑問を抱いた俺は、自然と一輝の足元に目を向ける。

 一輝の足は地面を拒み、宙に浮いたまま静止していた……。

「これは……」

 俺が驚きを表現する前に、一輝は続けて2度3度ジャンプを繰り返すと、俺の背丈を大きく越える位置で再度静止した。

 そして屈託のない笑顔を振りまいたかと思うと、今度は体操選手顔負けの鮮やかな後方宙返りを見せる。

 綺麗な半円を描きながら着地の体勢へと移行すると、空中を踏みしめ、その反動を利用して、ロケットのように勢いよく上方へ体を噴射させた。

 上へ向かう力が失われる度に、一輝は手の先、足の先に『見えない壁』を作り出し、それをトランポリンのように反発力へと変えながら、山ヤギの如く、器用に上へ上へと昇っていく……。

 俺達が、軽やかに空を跳ね回る一輝の姿を呆気にとられて眺め続けていると

「ミッションコンプリートー!」

 ブラキオサウルスの頭上から、姿は見えないが、一輝と思われる声が降り注いだ。

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