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夢世  作者: 花 圭介
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夢世65

 バトルフィールド内で展開されているバトルは、現在4種類。

 1つは、最後の一人となるまで戦い続ける『Dead or Alive』。小畑優が、凄惨な状景を演出してしまったバトル形式だ。

 2つ目は、2人から5人までを選択できるチーム形式。俺と一輝が、シュンマオの仇討ちのために経験を積んだ『ダブル』や、塔矢の呼びかけで始まったレベル上げで利用した『トリプル』があるのが、このバトル形式だ。

 3つ目は、5人パーティーで挑むボスキャラ攻略形式。攻略するたびにボスのレベルがあがり、難易度が高くなっていくそうだ。

 そして最後が、各階層に設けられたクエストを攻略することで、上階へと進行することができる『バベルの塔』である。

 先に述べた3つのバトルは、対戦であり、クエストと呼ばれるものは、基本存在しない。ゆえに自然と、攻略すべきバトルは、5人パーティーで挑む『バベルの塔』となる。

 『バベルの塔』は、その名にふさわしく、塔入口から上空を見上げても、その頂を確認することができないほど高い。

 現在までに数え切れないほどのパーティーがその塔に挑んだが、未だ頂上に達した者は誰もいない……。

 最高到達位置は、1ヵ月ほど前に記録した、第5層の3階だそうだ。

 10階で1層となるため、階に換算すると、53階まで到達したことになる。

 旧約聖書の記述をなぞっているのならば、ゴールは7階層。

 残り僅かと考えるか、まだまだ先は長いと考えるか、人によって判断が分かれる微妙な進行度と言えるかもしれない。

 塔矢からもたらされた情報により、俺達は最後に待ち受けている者の存在を知っている。

 だが、各階層毎に立ち塞がるボスキャラの特性については、現状、他のプレイヤー達が積み重ねてきた情報を頼りに進まなければならない。

 エンディングイベントを知っていながら、其処へ辿り着くまでの攻略法を知らないとは、可笑しな話だ。

 だが、その指摘を口にする間も与えずに、塔矢からキッパリと「攻略法は分からない」と告げられてしまっては、追及する気すらおきない。

 5階層より上は、自分達で情報を収集し、積み上げていくしかないだろう……。

 まあ、攻略法を全て知っているより、どうせならクエスト攻略を楽しみながら進みたい俺にとっては、好都合だ。

 ただ、5人1組で行うバトルに参加するのであれば、塔矢は組み分けをどのように考えているのだろうか?

 バトル経験を積んでいるのは、野山修平、佐渡竜馬、栗田塔矢、賀川洋輝、有村一輝、羽柴美希、一宮遥、そして俺の合計8人だ。

 一回のバトルで、全員を参加させられる裏ワザでも持っているなら話は別だが、そうでないならこの中から選び出さなければならないことになる。

 皆、其々に努力を重ねてきた。

 取り組んできた時間と注がれた熱意に、偽りはない。

 それなりに強くなった自負もあるだろう……。

 ゆえに選ばれなかった者の落胆は、大袈裟でなく、大きくなるはずだ。

 巻き込んだ塔矢は、それなりのフォローをすべきだろう。

 きっと塔矢の頭の中にも、その考えはあるだろうが……。それが実行に移される時は、いつになるか分からない。

 確実に塔矢は、自身の中でやるべき事に、優先順位をつけている。

 そして、今回のミッションの優先順位は、最も高い所に位置しているに違いない……。

 それは、皆に見せた塔矢の態度から推し量ることができるだろう。

 ミルキィウェイで見せた強い意志を宿した瞳は、今も俺の心に深く刻まれている。

 だとすると、目的が達成されるまで、そういった皆への心遣いは、後回しとなるかもしれない。

 その間に受ける自身への評価が、どう変化したとしても、塔矢は全てを受け入れるだろう……。

 ならばたとえ俺が、柊一秋の討伐メンバーに選ばれなかったとしても、不平を唱えず、その決定を尊重するのが、友人としての努めだ。

 俺は心の置き所を確認し、力強く据付けた。

 深く根付いた俺の心は、押されても引かれても傾ぐことなく、俺の真ん中にあり続けるはずだ。

 そんな自分自身の心のありように、充足感を覚えながら、俺はしばし目を閉じる……。

 静寂の黒に染まった世界が、瞼の裏に広がり、充足感と共に湧き上がっていた心の猛りを鎮めていく……。

 均衡のとれた心に一新され、再び目を開くと、俺は躊躇なく、眼前の見慣れた扉をゆるりと押し開けた。

 身を運んだ先は、いつものように刺激的な色合いで満たされたミルキィウェイの店内だ。

 俺は入店したその勢いを保ちながら、陳列されたビビットな色の商品や同様の華やかな色合いで着飾った女性客には目もくれずに、皆が集まっているであろう更に奥の部屋へと、力強く足を踏み出していく……。

 先日、俺の言葉をきっかけに、図らずもバトル経験を積み重ねている理由を吐露した塔矢が、皆への説明を行うため、再度、ミルキィウェイへ招集をかけたのだ。

「雄彦、来たか……。これで揃ったな」

 部屋の最奥の壁にもたれかかりながら、塔矢が俺に視線を合わせると、徐に前へ1歩進み出る。

「いや、待てよ! 修平がまだ来てねーんだよ」

 竜馬が、怪訝な顔で腕組みをしながら首を捻る。

「……ああ、良いんだ。野山とはもう既に打ち合わせは済ませてある。今日も、来れたら来ると言っていたが……。先ほど野暮用ができたため、来れないとの連絡も受けている」

 塔矢は澄まし顔のまま、竜馬の懸念に応えると、そのまま全体を見渡した。

「あ? 修平、来ねーのか? 俺は聞いてねぇーぞ!」

 竜馬は眉間に皺を寄せ、不機嫌そうに声を荒げる。

「……では始めよう。これから説明する事をよく聞いてくれ」

 塔矢は竜馬を一瞥しただけで、返事をせず、本題へと話を切り替える。

 竜馬は舌打ちをして不満を表したが、辺りを見渡したところで、代わりに苛立ちをぶつけられる相手がいないことを悟ると、近くの椅子を引き寄せ、ドッカと座った。

 そして、塔矢をじっと睨むように見つめ続ける。

 塔矢はその視線を真っ直ぐに受けると、1つ頷き、そのまま話を続けた。

 竜馬の双眸には未だに苛立ちが宿っていたが、その姿勢には、もう話を進めろといった意思が感じられたからだ。

 塔矢は朗々と言葉を積み重ね始めた。

「まず最初に、訳のわからない一方的な俺の要請を受け入れ、よくここまで頑張ってくれた。心から感謝する。……今の皆の力をもってすれば、目的をきっと達せられるはずだ。……その目的とは、5人のチームプレイで行う『バベルの塔』をクリアすること……」

 塔矢が皆を見渡すが、その目に映る皆の顔は、当然、懐疑的だ。

「その理由は……クリアする事で生じるイベントに、この夢の統治者である柊一秋が現れるサプライズが、組み込まれているからだ。その際、柊一秋からこの夢の主権を永遠に奪って仕舞えば、得られるのは『本来の夢』となる。これが俺達の最終目的だ。自分達の夢を取り戻すんだ!」

 塔矢が力強く、拳を掲げる。

 皆の目は驚きで見開かれた。目的が明確になったことと、その衝撃的な目的に……。

「……現状のまま、ただ手をこまねいていれば、その先に待ち受けるのは、過酷な運命でしかない。他者により創られた夢の檻で、俺達は、得体の知れない実験に用いられるモルモットと同義となるだろう。実験台として散々弄ばれた後、いつ処分されるかも分からない……。もう猶予はない! 早速だが、今すぐに『バベルの塔』攻略に向かおう!」

「ちょっと待ってくれ、塔矢。行くのに異存はないが……バトルの組み合わせはどうするんだ? バトル経験を積んだのは、俺やお前を含めて、計8人だ。『バベルの塔』の攻略は、5人1組……。この中から攻略に向かうメンバーを選び出すのか?」

 俺は、塔矢による説明が終わったと同時に、思い至った疑問をぶつけた。

「すまない。その点についての説明をしていなかったな……。結論から言うと、バトル経験を積んでもらった皆には、全員参加してもらう」

 塔矢は俺の疑問に対して、表情を変えずにさらりと答える。どうやら、頭の中では解があったようだ。

「8人全員? 2組、作ると言うことか? ……だとすると、あと2人のメンバーは……。やっぱり、花純さんとユッキーに協力してもらうのか?」

 俺は、休憩中で部屋の隅の方で話を聞いていたユッキーに目をやる。

「えっ? えっ? 私は最初から参加しないって言ってたでしょ! 戦うとか、そういうの苦手だからって……」

 ユッキーが慌てふためきながら、涙目で拒絶の意思を示す。

「いや、残りの2人については、俺の方で当てがある……。ユッキー、心配はいらない。もちろん、花純さんにも、負担をかけるつもりはない」

 塔矢が安心させるため、ユッキーに微笑んで見せ、今はこの場にいない楓さんについても言及する。

「当てがある? ……いったい誰なんだ?」

 俺は訝しみながら、塔矢に目を走らせる。

「……とにかく、先にバトルエリアへ向かおう。細かな話は、そこで話をする……。それで良いか? 雄彦?」

 塔矢は、どんな感情が宿っているか、推し量る事のできない目を俺に向けた。

 俺は、拒むことのできない空気が、塔矢の周囲に漂っている気がして、言葉を発することを諦めた。

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