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夢世  作者: 花 圭介
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夢世44

「竹君……。今までの映像で、2人の場所を特定できると思う?」

 花純さんが厳しい表情で俺を見る。

「そうですね……目印となるのは、あの守衛がいた門と、優達が入れるくらいの穴が開いたフェンス……、そして、そのフェンスを越えた先が、ジャングルのように草木が生い茂っているところ……くらいですよね」

 俺は右手で顎を撫でながら、情報を整理する。

「そうね……目印はそのくらいかしら。どう? 分かりそう?」

 花純さんは、早く結論を引き出したいらしく、俺に詰め寄る。

「え……えっと、正直、これだけの情報では……難しいように思えます」

 俺は花純さんの圧にたじろぎながらも、至った結論を伝えた。

「……なぜ?」

 花純さんの顔が、辛そうに歪められる。

「まず……優の視線の高さが思っていたよりも低いため、俺の土地勘との符合点を見つけるのが、かなり困難でした。また、花純さんも感じられたと思いますが、優の視点は……一定ではありませんでした。恵を気遣うたびに、何度も反転し、工場への抜け道を探すときなどは、目まぐるしく変化して、とても追い切れませんでした……」

 俺はあえて、事実を淡々と言葉にする。

「……分かってる。……私も追いきれなかったから……。でも、竹君が言った目印を元に探せば、上手く見つけられるんじゃない?」

 花純さんは、まるで縋るかのように、俺の目を覗き込む。

「……この工場の門は1つではないんです。敷地が大きいため、似たような出入り口が、この他にもいくつもあったはずです。また、周囲のほとんどが同様のフェンスで囲まれていて、劣化の激しい場所も多々あります……。優達が入れる大きさの穴ならば、数十カ所にのぼるでしょう……。全ての似た場所から、工場内に呼び掛ける事も考えましたが……、優達が草を掻き分け、小屋を見つけるまで、だいぶ時間がありました。フェンスから小屋までも、かなりの距離があると推察できます。さらに、工場内は常に様々な音が交錯しています。きっと俺たちの呼び声はかき消されて、優達がいる小屋までは届かないでしょう」

 俺は、花純さんの表情が曇っていくのを感じながらも、自分の考えをはっきりと述べた。

「……じゃあ、私達がしてきた事は……無駄だったってことなの?」

 花純さんは、悔しそうに声を震わせた。

「……」

 俺は花純さんに掛ける言葉が見つからず、今は何も映っていないモニターを眺めながら、思案していた。

 すると、何も映らない筈のモニターが、心電図のように波打った。

「ん? なんだ今のは?」

 俺はモニターに1歩近づき、凝視する。

「どうしたの? 竹君」

 花純さんが俺の声に反応する。

「いや……今、モニターに変なノイズが走ったように見えたんですけど……。もう優の記憶とは接続していないんですよね?」

 俺は念のため、もう1度、花純さんに尋ねる。

「え? ……ちょっと待ってて。……うん、やっぱりもう、優の記憶とのコネクションは切れているわ。優も、もうすぐ目を覚ますはずよ。……見間違いじゃないの?」

 花純さんはアイテムを丁寧に調べてくれたが、異常はないようだった。

「んー、そうですか……。じゃあ、見間違いですね」

 俺はそう答えながらも、視線はまだモニターを捉えていた。

「見間違いじゃないよ。雄彦」

 するとまた、先程と同様に、モニターにノイズが走る。その線は、モニター中央にそのまま留まると、中央に集まり、人の顔を形作っていく……。

 その光景に、花純さんは絶句し、その場でフリーズしてしまったが、俺はその発せられた声で、全てを理解し、次の反応を待った。

 顔の形となったそのノイズは、モニターからスライムのようにドロドロと流れ出すと、地面へと着いた先から人の姿を形成していく。

「僕の助けが必要かい?」

 ノイズから人へと生まれ変わったその人物は、右手を自身の胸に当て、澄まし顔で俺を見た。

「徹人兄さん!」

 俺は出会えた喜びから、大声でその人物の名を呼んでいた。

 徹人兄さんの体は以前とは異なり、はっきり輪郭が整っている。

 徹人兄さんは俺に右手を差し出し、握手を求めた。

 触れられるとは思っていなかった俺は、徹人兄さんのその行動に少し戸惑いつつも、ゆっくりと右手を伸ばしていく……。

 手と手が重なり合った瞬間、徹人兄さんが力強く俺の手を握り、何度か上下させると、更に左手を乗せる。

 昔と全く変わらない温もりを感じ、俺の心は震えた。

「……竹君、この方は?」

 俺が徹人兄さんとの再会に喜び浸っていると、遠慮がちに、花純さんが声を掛ける。

「あっ! すいません。喜びのあまりつい……。この人は桜井徹人さん、俺が尊敬する兄のような人です」

 俺は胸を張り、自慢気に紹介した。

「初めまして、桜井徹人です。驚かせてしまって申し訳ありません。見た通り、今の私は人間ではありませんが、十数年前は貴方と同じ人間でした。なので、どうか怖がらずお話を聞いていただけますか?」

 徹人兄さんは仏様のごとく、柔和な笑顔で挨拶をした。

「……はい」

 花純さんは、自然と徹人兄さんを拝んでいた。

「では早速ですが……。僕は今までの流れをおおよそ把握しています。貴方達が、2人の幼い少年少女を救いたいと願っていること。そして、そのために考え努力したこと。しかしそれでも、打開策を見つけるまでには至っていないこと……」

 徹人兄さんはここで話を1度区切ると、俺と花純さんを交互に見やる。

「けれど僕ならば、貴方達と子供達を引き合わせることができるかもしれない……」

 徹人兄さんは、再びにっこりと微笑んだ。

「本当ですか!? ……でもどうやって」

 俺は徹人兄さんならばとは思いながらも、何をしようとしているのか分からず、率直に尋ねた。

「雄彦には話したけど、僕の体は今、電気のようなものとなっている。故に通電さえされていれば、どんなネットワークにも侵入可能だ。そして現在、優君と恵ちゃんがいる小屋には、通電されたままのパソコンがある……」

 徹人兄さんはそこまで言うと、俺の反応を待った。

「……小屋にあるパソコンを使って、優達に外への経路を教えてくれるということですか?」

 俺は合点がいったと手を叩く。

「そういうこと。更に言えば、GPSを使って君達を子供達が出てくるであろう場所まで案内する。目的の場所へ近づいたら、そのタイミングで子供達にその場所へ向かって、出発してもらうつもりだ」

「なるほど、それができるなら……」

 俺は花純さんを振り返る。

「是非、お願いします!」

 花純さんは徹人兄さんに、深々と頭を下げた。

「承知しました」

 徹人兄さんは目を閉じ、ゆっくりと頷いた。

「……あれ? おはよう……。もう終わったの?」

 目を覚ました優が、目を擦りながら周りを見渡す。

「いや、これから始まりだよ」

 俺は優の肩をポンッと軽く叩くと、徹人兄さんと花純さんに視線を送る。

 2人は俺と目が合うと、力強く頷き返した。

 俺は頭の中で、これからやるべきことを整理しなければならないな、と思いながらも、心に広がる充足感に満足していた。

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