一、出会ってはいけないその出会い
「えー、つまりですね。ここからが重要なわけで」
―――まただ。カザンのやつ、重要重要って何回言えば気が済むんだよ!―――
退屈であった。毎日がなんの変化もなく過ぎていく。いいかげんうんざりだ。シンにとって日常ほどつまらないものはない。毎日朝から夕方まで大学の授業に出て、夕方から夜までは生きるためにバイトでクズどもに媚びを売り、夜はメディアが都合よく編集した垂れ流し式の情報を見る日々。楽しみといえば昼休みにカズキとナディアという唯一の友達と語り合う程度である。
「つまりですね。うん。チャイムの音だ。今日はここまで」
ようやく終わった。シンはさっさと荷物をまとめ、いつもみんなで集まっているテラスに向かった。
「おせえぞ!シン」
ナディアが大声でシンを迎えた。とにかく不思議なやつだ。フリフリのロリータファッション好きで今日も黒のベタなメイドっぽい服装できている。そのわりには勝ち気で口調も強い。それでいて、繊細な心の持ち主である。女としての魅力はこれっぽっちもないのだが、何故か俺達と馬が合う。不思議だ。
「今日は遅かったな。またカザンの話が長引いたのか」
椅子に座ろうとしたシンにカズキが話し掛けた。カズキはシンにとって唯一人の幼なじみである。勉強家の頑張りやでこの大学では今の所、首席の成績である。おっとりしたカズキだが人見知りが激しいこともあり滅多に人とは話さない。ナディアとシンを除けばの話だが。
「全く、あのオッサンの話ちっとも解らないぜ。結局、何が言いたいんだか」
「マジかよ、そんなにムカつくんだったら、絞めればいいじゃん。少しは良くなるんとちゃうか」
「暴力は良くないと思うんだけど」
「んだぁと、カズキもういっぺん言ってみろよ」
「まぁ、ナディアの言う通りだと思う。絞めれば少しはマシになると思う。けど、そうしたら俺は確実に退学だ」
「あっ、そっかぁ。ちぇっ、いい考えだと思ったんだけどよ」
いつもがこんな感じである。ナディアが無茶苦茶なことを言い、カズキが突っ込みナディアにボコられ、シンが論理的思考から論評する。これが3人のお決まりのパターンだ。毎日がこれの繰り返しだが、なぜかこれだけは毎日が楽しい。不思議なものだ。
「しっかし、こうも毎日何にもないと逆につまんないな。誰かテロでも起こしてくれないかな」
「たく、ナディアったら。恐いこと言わないでよ」
「同感。普通今の法律だと計画立てただけで即アウトだし」
「だろ、だろう。まったくナディアったら無茶だよな」
「いや、俺もナディアと同じ考えなんだが」
「へっ」
カズキはキョトンとした。今までシンは論理的思考を好み通常ならこうした発言を切り捨てるはずなのだが今日は違っていた。
「なんか退屈なんだよな。毎日が平凡に過ぎていくのが。唯一の楽しみがこうして3人で話し合うくらいだからさ」
「同感同感。珍しくシンと意見が合ったな」
「僕は今のままがいいと思う。だってさ、なんか何にもないけどこうして二人と喋ってたら何か幸せって思えるし」
「出た出た。ロマンチストのカズキ君が」
「何か悪い。ナディア」
「別に悪くはないが、何かって言葉使い過ぎ。これじゃ説得力ないよ」
「もう、シンったら。揚げ足取らないでよ」
カズキは顔を真っ赤にして軽く肩を叩いた。
「やべっ、もうこんな時間だ。研究室行かないと」
「あぁ、あのゼミの先生の」
ナディアがもう終わりかよという顔でシンの方を見た。
「わりぃわりぃ。今日はジョン・カドレアに呼び出しなんだ」
「そうなんや。大変やな、シンも」
「そう言うなら、カズキ変わってくれ」
「謹んでお断りします」
「右に同じく」
「たく、わかったよ。じゃあ、またな」
シンはそう言うと席を立ち、足早に研究棟へと向かった。
シンにとって友達といえる存在の人間はカズキとナディアしかいない。生れつきこの二人しかいないわけではない。正確に言うとこの二人以外の友達は全員亡くなっているのである。
六年前に起こったビッグ・ボム。この爆心地近くに住んでいたシンも例外なく被害に巻き込まれた。そもそもビッグ・ボムは何故起こったのか。それ自体が未だに不明なのである。
今から7年程前。シン、そしてカズキが住んでいたアイボリアの町に突然、オクラミュアという物質の研究所が作られたのである。
オクラミュアとは十数年前に発見された鉱物で、この鉱物を擦ることにより相当の反発力を生み出し、その衝撃波を利用して発電所や航空機のエンジン等に応用できる物質として、当時はかなり画期的な発見として話題になった。
この鉱物の採掘にはオクラハマの財団が多額の寄附を行ったこともあり、そこから名をとりオクラミュアと名付けられたのである。
この鉱物の研究をするために作られたのがアイボリア市立オクラミュア研究所である。町はこの施設誘致に積極的であった。オクラミュアの採掘所から一番近い町ということもあるが、この施設が出来ることにより研究員が移住してくるので町が大きく発展すると考えたのである。実際、この研究所が出来てから人工が1.7倍、税収25パーセントアップ、教育機関補助費が30パーセントアップしたのである。
アイボリアはオクラミュアの恩恵を受け、発展を続けていった。そのため、事故直前の人口は研究所が出来る前の3倍近くまで膨れ上がっていた。
六年前のあの日、シンは一人学校の地下室で片付けをしていた。当時はその人望の厚さからか生徒会の役員をしていたのである。
シンはその日、恋人のユメジと共に体育祭の備品の整理をするために地下室で作業する予定であった。たまたまカズキが家の都合で母親と共にニシイダという150キロメートル離れた町に行ってしまったので、人手が足りず、ユメジに手伝って欲しいと頼んだところ、快く快諾してくれたので彼女と作業することになったのである。
ユメジはカズキと共にシンの幼なじみで、隣近所の付き合いであった。幼い頃は3人で探検ゴッコ等をしたりして遊んでいた。そんな3人に変化が訪れたのが小学校卒業を間近に控えた冬の日である。ユメジがシンに告白したのである。シンもまたユメジが好きだったのですぐに2人は付き合うようになった。
シンは今までの幼なじみの関係が崩れるのではと恐れていたが、カズキが意外とあっさりした反応しか示さなかったので、逆に拍子抜けした。元々カズキには別に好きな子がいて、ユメジに相談していたらしいのである。シンは3人の関係が今まで通りのままでいけると確信したときはどんなに安心したが・・・。
シンは地下室でずっとユメジが来るのを待っていた。しかし、彼女は時間になっても現れなかった。元々時間にルーズな所があったのでいつものことだろうと思い、シンは地下室に入り作業を開始した。
備品として必要な三角コーンやリレー用のバトンの数を確認するため、入れ物になっている箱から一式を取り出した。シンがその中からバトンの数を数えているとどこからともなく激しい轟音が聞こえてきた。壁が、いや、この星そのものが揺れている感覚に陥った。
次の瞬間、周りが真っ暗になり全身を叩きつけられたような感覚に襲われた。しかし、それ以降の記憶は一切ない。次に目が覚めた時、シンは病院のベッドに横たわっていた。ベッドの脇にはカズキが目を腕で擦りながら座っていた。
「よかったシン。もう起きないかと思ってたよ」
シンは何がなんだかわからなかった。
「何があったんだ。俺は一体どうなってんだ」
「シン、君は半年間眠っていたんだよ。オクラミュア研究所が暴走して爆発したんだ。それでね、半径約80キロが吹っ飛んだんだよ」
「ばく・・・は・つ。はぅっ、親父は、おかんは、ユメジはどうなった」
シンは一瞬で我に帰り、現実がいっきに頭の中を駆け巡った。
「爆発は半径約80キロにわたり、その中の人は殆どが亡くなったよ。シンのご両親も遺体で見つかったそうだよ。でも、研究所の中にいた人は肉片一つすら残っていないらしいんだ。俺の親父も例外なく・・・」
カズキは言葉を詰まらせ再び涙が顔を覆った。
シンのように爆発圏内にいながら地下にいて助かったのは10数人。100キロ以上離れたところで見た目撃者によると爆心地付近に白い巨人が翼を羽ばたかせて立っているように見えたそうだ。後にビッグ・ボムと名付けられたこの大災害は死者七万五千人にものぼりそのうち3万人は遺体どころか遺留品すら見つかっていない。
オクラハマは自分が資金援助をしていた施設がこんな大惨事を起こしたことを悔やみ、徹底した遺族救済と事故調査を行った。彼がその後首相になった時には遺族救済や町の復興に全力を注いだ。しかし、事故原因については、実験中のオクラミュアの暴走としか発表されなかった。
シンは事故後、現在住んでいる首都ハイムにある福祉施設に引き取られた。カズキもまた母と共にハイムに移り住んだ。シンとカズキは二人ぼっちになってしまったが、その時に仲良くなったのがナディアである。こうして仲良し三人組が誕生したのである。彼女の生い立ち等については、語るのは後の機会に譲ろう。今は、それよりも物語を進めなくてはならない。
シンは研究棟の窓から外を見つめていた。澄み切った雲一つない空だ。ビッグ・ボムが起こる前の日、三人で学校帰りに見た空とよく似ている。しかし、あの時と違うのが、ユメジはもうこの世には存在しないということである。
研究棟の七階の一番奥の部屋がジョン・カドレアの研究室である。シンは部屋の前まで来るとドアを三回ノックした。
「どうぞ」
中から渋いいかにもおじ様と言う声がした。シンは「失礼します」と言い、部屋の中に入った。この世に生を受けて早19年。その中でシンにとってジョン・カドレアは唯一、師といえる存在である。それだけ彼を尊敬しているのである。
「やあ、シン。元気かい」
「おかげさまで。前に言っていたこの国の政権の変遷のレポートを持ってきました」
「おお、早いね。さすがは我らのシン君だ」
シンはほほが少しだけだが、赤らめていくのが自分でわっかた。ジョン・カドレアを尊敬する理由をあげろと言われたら、まず授業が面白い、学生の相談を親身に聞いてくれる。そして、この国の将来を案じていることである。現在のオクラハマ政権が向かっている先が危険と授業でも何度か説いている。しかし、政府からはそういったこともあってかなりマークされていて、何度か大統領活動妨害禁止法に抵触する行動を取り逮捕されているのである。そういった危険な香りがするところも彼を好きになる理由にあげられるのかもしれない。
「シン、君はオクラハマ政権をどう思うかい」
突然の質問にシンはどう答えていいかわからなかった。
「どうと言われましても。正直彼には感謝しています。彼が制定してくれたビッグ・ボム被害者救済法のおかげで、俺はこうやってこの大学で勉学に励むことが出来るんですから」
「確かに、その法律により君は国から多額の奨学金をもらえているわけだ。だが、君はビッグ・ボムの原因を考えたことがあるかい」
―――そういえば・・・あんまり考えたことないな。どう答えよう―――
シンはとっさに頭の中で考えをめぐらした。
「公式発表ではオクラミュアの実験中の暴走と発表されています。そうじゃないんですか」
「確かに公式にはそう発表されているが、では、なぜオクラミュアが暴走したんだい」
「俺は、科学の知識があまりないから良くわからないんですが」
「そうだったね、すまんすまん。実は知り合いの物理学者がビッグ・ボムの研究をしているやつがいるんだが、そいつが面白い理論を導き出してね。被害者である君にぜひとも聞かせたいんだ」
「ビッグ・ボムの研究は法律で御法度になっているのでわ」
「そうだよ。だから秘密裏に研究しているんだ。しかし、人間とはやってはいけないと言われればいわれるほどやりたくなるものだよ。シン君」
―――さすがはジョン・カドレア。言うことが違うな。面白そうだな、丁度退屈していたしいい機会かもしれないなー――
「わかりました。けど一つだけお願いしていいですか」
「なんだい。言ってみなさい」
「俺の友達のカズキとナディアも一緒に行っていいですか」
「確か、カズキ君もビッグ・ボムの被害者だったな。かまわないよ。時間と場所は追って連絡するよ」
「ありがとうございます」
シンはずっと心の中にモヤモヤしたものがあった。ユメジが未だに遺体が見つからないこともそうだが、ユメジの父が事故の数週間前、家の前で言い争っていたのを覚えているのである。その翌日からなんだかユメジの様子も変だったし、ユメジの父がオクラミュア研究チームの一人でもあったことがこれを引っ掛けさせる原因の一因にもなっていた。
―――考えすぎかな。でも・・・―――
自分に何度も言い聞かせているのであるが、これだけがどうしても引っかかったままなのである。シンは研究室を出ると頭の中でこのことを考えながら次の授業の教室へと向かった。
シンは授業の合間を縫って、二人を呼び出しジョン・カドレアの誘いを話してみた。二人は最初、半信半疑であったが少しずつナディアは乗り気になっていた。
「確かに人がやってはいけないといわれればやりたくなるものね」
「だろ、だからどうかなって思って」
「でもナディア、法律犯すのは良くないと思うんだ」
「またカズキったらいい子ちゃんぶりやがって」
「そうじゃなくてさ、そりゃあ僕だってビッグ・ボムの原因は知りたいんだ。そのためにこの大学入って物理学の勉強してるんだから」
「多分、ジョン・カドレアはそれでカズキを連れて来てもいいって言いたかったんだと思うんだ」
「あの、シン。ビッグ・ボムの原因と関係してるかどうかわからないんだけど僕なりに仮説は立ててみたいんだ。それからじゃだめ」
「仮説って、そんなの立てられるんか」
ナディアは不思議そうな顔でカズキに聞いた。
「インターネットの裏サイトや政府のオクラミュア研究をハッキングしたりしてある程度なら資料あるし」
「ハッキングって、お前言ってることとやってることが違うやんか」
今度はシンが目を白黒して言った。
「だから二人には同じようなことしてほしくないんだ」
「何言ってるのよ、カズキったら。水臭いやんか。私たちダチだろ」
ナディアはカズキの背中を叩きながら言った。
―――これだから二人と付き合うの楽しいんだな―――
その夜遅く、シンは自宅に戻るとちゃぶ台前に腰を掛けると、テレビの電源を押した。今の時間帯はニュースかしょうもないバラエティー程度しかやっていないので、とりあえずニュースにチャンネルを合わした。
『次のニュースです。王族のモリリン様のご息女。ユーナ様とクーナ様が揃って小学校に入学いたしました。入学式にはあいにく、長女のティーナ様は欠席しましたが・・・』
どうでもいい話だ。今更王族が何をしたってシンには知ったことではなかった。このジャポネシアは約60年前にアイーダや他の列強諸国と戦争をし、負けたのである。もっとも近隣諸国を侵略して回っていたので列強諸国が怒るのも無理はないが。この時にアイーダを中心にした国体形が見直され、王族は唯の飾りとなったわけである。
シンは無意味に流れるニュースを見ながら明日の授業の参考書を取り出した。明日はジョン・カドレアの担当の授業が2つある。どちらも、予習が必要な科目である。いつの間にかニュースは終わりテレビからは軽快な音楽が流れてきた。 その時突然、シンの携帯がけたたましい音を鳴らした。シンはそれを手に取り見るとジョン・カドレアからの着信であった。シンはすぐに電話に出た。
「もしもし、シン君。すまないこんな時間に電話をかけて」
「いえ、どうしたんですか。こんな時間にかけるなんて」
「すまないが明日の授業休講にしたいんだ。それで、その時間に私の研究室に来てほしいんだ。カズキ君とナディア君と一緒に」
「わかりました。二人に連絡して、行けそうでしたら連れて行きます」
「すまない急に。では明日私の研究室に」
ジョン・カドレアは慌ただしく電話をきった。
―――なんだろう、こんな急に―――
この時まだ、彼らがとんでもないことに巻き込まれるとは知るよしもなかった。
翌日、渋る二人を連れて、シンはジョン・カドレアの研究室に向かった。
「いつたい何なんだよ、急に。こっちが、たまたま授業が休講になったからよかったものの」
「ホントそうだよ、ナディア。シンからもきつく言ってくれよな」
「あぁ、わかってる」
「どうしたシン。なんか顔色悪そうだが」
ナディアがシンの顔を覗き込むようにして言った。
「なんか、嫌な予感がするんだ」
「やめてよ、シン。あんたのそういうカン、意外と当たるんだし」
「そうだな、ごめんよ」
奏効しているうちに、三人はジョン・カドレアの研究室の前までやってきた。シンがノックすると中からジョン・カドレアが出てきて三人を部屋の中へと招き入れた。
「すまない。昨日になって状況が少し変わってしまってな。立ち話も難だからそこのソファーに座ってくれ」
シン達は言われるままにソファーに腰をかけた。すかさずジョン・カドレアは三人にお茶とお菓子を出して三人の前に置いた。
「オクラミュアについて昨日とんでもないことが判明してな。そのことでいろいろともめてしまって」
「あんたいったい何者だ。そんなこと、研究者でもないあんたが何故知ってる」
ナディアが喧嘩越しに言った。この言い方の時はナディアがキレてる時なのでもう二人には手が付けられない。
「結論から言おう。私は反政府組織エデンに所属している」
「エデンって反政府組織の中で最も実体が掴めないやつじゃないですか」
カズキは声を震えがえして言った。ナディアは開いた口が塞がらないといった感じである。意外にもシンはやっぱりといった反応しか示さなかった。シンはジョン・カドレアがそういった組織に参加していることを薄々感づいていたのである。
「元来エデンは十人前後で動いてる組織だ。実体が掴めないのも無理はないがな」
「なぜ、そのような組織に参加なされたんですか」
「さすがシンだな。いたって冷静な反応だ。簡単に言うとだ。国民はオクラハマに躍らされている。そこから目覚めさせるためだ」
「目覚めさせるって言ってる意味がわからねぇぞ」
「このままじゃジャポネシアが、いや、世界が危ないからだ」
「ジョン・カドレア。すみませんが最初から説明してもらえないでしょうか」
「君達はオクラハマ政権についてどう思う」
「確かに支持率はいいけどなんか手口が強引のような・・・」
ナディアがジョン・カドレアの質問に答えた。
「彼は大統領就任後、次々に国民の生活を安定する法案を可決してきた。しかしだ、その影で次々に国民の統制を強化する法案を可決していった」
「統制をかけることはそんなに良くないことなのですか」
シンがすかさず疑問を口にした。
「基本的にどこの国も思想信条の自由を認めている。しかし、今のジャポネシアの法律にはそれを侵害する法律が少なくても三つ存在する。それも皆、秘密裏に可決されたものばかりだ。このような傾向、昔存在しなかったか」
「六十年前の世界対戦」
ナディアが青ざめた顔で言った。
「そんな馬鹿な。いくらなんでも今の列強諸国は兵器のレベルもジャポネシアより遥かにレベルが高いんですよ」
「そのレベルを埋め合わせる兵器を開発していたとすれば」
ジョン・カドレアが人差し指をゆっくり天に向けて言った。
「まさか、それがオクラミュア」
カズキが思いついたように言った。
「ビンゴ。ビッグ・ボムが仮にその実験の失敗が引き寄せたとしたら」
「ちょっと待ってください」
カズキが再び横槍を入れた。
「いくらオクラミュアでもそれほどの破壊力を引き寄せられるとは考えにくい。仮に出来たとしてもそれをどうやって制御するんですか」
「そこまでは分からない。ただそれを研究していたのではないか?シンのお父さんは」
シンはその言葉にギョッとした。そしてそれは一番言われたくない言葉であった。
「確かに私の父はその研究をしていました。ただ、それだけです。事故後、父には会ってないですし、生きてるかどうかも分からないです」
シンはそう言うとそそくさと研究室を出て行ってしまった。ナディアとカズキも後を追うようにして部屋を後にした。
「シン!ちょっと待ってよ!!」
後ろから追いかけるナディアを振り払うようにしてシンは街中を歩いていた。無理も無い。シンの父、メディウス博士はビッグ・ボムの爆心地といわれるオクラミュアの研究所の所長であったのである。事故後、生きてるかどうかも分からない。なぜなら、爆心地から半径1キロは跡形も無く吹っ飛び、チリひとつ残らず蒸発した人も大勢いるのである。
シンはその話題になるたびに心臓をわし掴みにされるほどの苦痛を覚えていた。自分が事故の原因になった人物の親族とばれるたびに後ろ指を指され時には石を投げつけられることもあった。そのたびにカズキやナディアが支えてくれたが、それさえもシンは申し訳ない気持ちでいっぱいであった。
シンは表通りから外れた裏通りに入っていった。そこには、穴場といったバーやお花屋さんなど知る人ぞ知る名店がそろっていたが、この時間帯はまだ開いている店が殆ど無く人通りもまばらである。
シンはその路地を勢いよく歩いていた。
「キャッ!!」
シンは突然何かにぶつかってその場に倒れてしまった。次の瞬間、目の前には膝をついたシンと同じ年くらいの若い女性がいた。見るとそこはお花屋さんの前である。花屋から出てきたお客さんが勢いあまってぶつかってしまったのである。
「すいません!大丈夫ですか?」
シンはすぐに立ち上がり倒れた女性に手を差し伸べるとその女性はその手を掴んでゆっくりと立ち上がった。
「すいません。私が前を見ていなかったもので」
「いえ、わたしこ・・そ・・」
シンはその女性の顔を見て言葉を失った。その顔立ちは忘れたくても忘れられない。その昔、シンがほれていた幼馴染、ユメジそのものであった。
「あの、私の顔に何か?」
「い、いえ、何も」
「姫様、お車の用意が出来ました」
突然、シンの後ろから全身真っ黒なスーツを着たSP風の人間が現れた。
「ありがとう。すいません、私はこれで」
「あ、あの!すいませんお名前は?」
シンはとっさに思いつく限りの言葉を出した。
「私、ティーナといいます」
そう言うと彼女はSPと共にその場を去っていった。シンはそれを呆然と見ることしか出来なかった。
「ティーナって、第一皇女のティーナ姫。どういうこと?あれは間違いなくユメジじゃないか。そっくりとか関係なく彼女そのもの」
シンはつぶやいた。姿、容姿、声、しゃべり方までユメジとまったく同じなのである。そんな彼女が突然目の前に現れた。混乱するのも無理が無かった。