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赤ずきんちゃん

朝、天気は霧雨。春とはいえ、朝はまだ少し冷える。久しぶりに体を動かそうと、外へ出た。こんな閉じこもってばかりの生活をずっと続けていてはすぐに身体が衰えてしまう。筋力を維持するために、3日に1回ほど意識的にトレーニングを行っていた。

広大な森の中に開けたこの場所には大きくない湖があり、その隣のペンションで静かに暮らし始めて7年近くになる。

小さな門を出ると、すぐ近くの木の下に何か赤い物体があるのに気付いた。近付くと、なんとそれは赤いフードを被って木にもたれかかる少女であった。

まだ幼い。町の人間だろうか。ここに人が訪れることは滅多にない。ともすれば、迷子か。それなら華奢な身体に纏った衣服の汚さも頷ける。それとも、捨て子か…?一瞬、胸の中で黒い塊が疼くような感覚がした。

「何やってるんだろう。」

意識はあるようで、そう小さく呟くのが聞こえる。それはこっちのセリフだ。

「何してんねや。」

歩み寄ってそう声をかけると、彼女は驚いてこちらを見上げた。茶色の髪を二つに結んだ少女はまだ幼く、大きな目をさらに見開いている。

「あなた、誰?」

「せやからこっちのセリフや。まさか森で赤ずきんちゃんに会うなんてな。」

「赤ずきんちゃんじゃないわ、凛っていうのよ。」

「あ、そう。興味ないな。」

「こっちのセリフだってあなたが言ったんじゃない!」

少女の出で立ちを上から下までジロリと見回して、ため息がこぼれた。

「ええからこっち来いや。」

不意に腕をぐいっと引っ張られ、凛は慌てた。

「ちょっと、私道草してる場合じゃないのよ!湖畔のペンションを探して…」

引っ張られるままに歩くと、そこには、ずっと探し求めていたペンションが居を構えていて、凛は思わず息を呑んだ。

「入りや。」

そう言ってドアを開けると、凛は驚いた顔でこちらを見つめ、興奮と期待と畏怖がない交ぜになったような声で言った。

「あなたが…、魔法使いだったのね!」

「は?どーゆーことや。」

彼女は興奮のままに続ける。

「ごめんなさい、魔法使いって…その、もっと魔法使いらしい格好をしているものだと思ってたの!」

「悪かったな汚いかっこで。」

作業服のような若草色のつなぎはところどころ薄汚れている。

凛は走り寄って玄関に入った。急に距離を詰められたことに驚いてドアの取っ手を離すと、彼女の後ろでバタンとドアが閉まった。

「私、あの、魔法使いさんにお願いがあって来たの!お願いです、お母さんを助けて下さい!」

至近距離で、必死な目をして訴える少女を前に、大いに戸惑いながら、とりあえずトレーニングは明日にしよう、と思った。




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