テント前
私は後ろを振り向くと、そこには先ほど話した男がいた。
そして、その場に落ちていた目玉を見つけると。
「あんた、なかなかやるな」
と言いカバンから出した瓶にそれを入れ、私に手渡してくる。
「こいつはあんたの戦利品だ」
意味が分からない。
私はどう返事をしたら良いものか悩む。
「……オレの名前は、クキ。この周辺の護衛任務中の、冒険者だ」
男はそう自己紹介をする。
「私はオデット。……ところで、さっきのは一体……」
「何があったか分からないって顔だな。・・・仕方ない。これも何かの縁だ、ちょっと付いて来い。」
たどり着いた場所は、町を挟んだ森の反対にあるラルザ平原。(ちなみに私たちがいた森はルフニュ森。町はホルトの町というらしい。)
平原に入ると、簡易なテントが数個張ってある。
「おい、また町に出てきてるぞ」
クキは1つのテントの入り口を開け、中に声をかける。
「本当、最近はきりがないな」
少し小太りの男が返事を返す。そして、後ろにいた私に気が付いたらしく。
「なんだ、その嬢ちゃんは」
と、聞いてくる。
「いや、さっき町に入るのを見かけてな、わけも分からず”朽ちた者”に挑んでるもんだから、説明してやろうかなと」
「ほほ~。お優しいことで」
小太りの男はニヤニヤしながら言う。
「そんなんじゃない。だいたい相手はまだ子供だぞ?」
クキが心底面倒くさそうに答えると。その小太りの男はへーへー。と、笑う。
「俺の名前はデルト。……ここに3人は狭いな」
デルトは外に出る。
------------------------------
テントの前には野営の後だろうか、焚き木をしたあとがある。そこには簡易なイスが置いてあり、各自トライアングルの形に座る。
クキは話し出した。
「実はな。数日前から町の外、内構わず。肉体の腐ったモンスターがうろつくようになった」
そこで、デルトはお茶を用意し、「良かったら」と私とクキに進めてくれる。
私はそのお茶を一口飲む。
美味しい。
すっきりとした、ウーロン茶のような味だ。
「それは昨日私も見ました。……まるでゾンビのような青いドラゴンを。」
私はお茶をもう一口飲み、昨日のことを話す。
二人は顔を見合す。
「ドラゴン?」
デルトだ。続けてクキが。
「このあたりにドラゴンは生息していないはずだが……森の中か?」
「はい」
私は昨日あったことを二人に話した。
「……なるほどな。でも、これはここで話終えていい内容じゃないな」
クキはそう言う。デルトも頷く。
「ところで、今言ってた「ゾンビ」っていうのは何だ?」
クキだ。
「……」
ゾンビ……。それは一般的なRPGなどで広く知られている怪物の名前だ。
それを聞いてくるということは、この世界に「ゾンビ」という単語がないことになる。
「そうですね。私のいた故郷。田舎では、あのような歩く屍をそう呼ぶんです」
日本、だとか。現実だとかは出さないようにする。
変なやつだと思われるのが関の山だから。
二人は、ほほー。だの、へーだの言っている。
「ゾンビか。初めてきく言葉だが、妙にしっくりくるな。しかし、オデット。おまえは本当運がいい。もしその場に居座っていたら、おまえは今ここに座ってはいないだろう」
クキはそう言う。
「……君さえ良ければ次のギルド集会に参加しないか。青いドラゴンの件をそこで聞きたい」
クキは続けて私にそう言う。
ギルド集会……初めてきく単語だ。
「ギルド集会……ですか?」
「あぁ、各組織の代表が集まって、どのモンスターを倒すべきか。物資は誰が供給するか。町の警備はどうするか。どのギルドがその任につくか。話し合って決める場所だ」
デルトが説明を入れてくれる。
「……私が行っても大丈夫なんですか?」
お偉いさんの集まり、というだけで、しり込みしそうになるが……。
これは逆に言えば、チャンスなのかもしれない。
今はこの世界のことなら、何でもいい。とにかく情報が欲しい。
とくに、スクリーンのいた白い部屋に行く方法のこと。
これは普通に行動していたのでは、なかなか見つからない気がする。
「もちろんだ。特例ではあるが、君には是非、説明しに来てもらいたい」
クキはそう言う。
「それでしたら。参加させて欲しいです」
私は力を込めて伝える。
「オーケー。集会の日は3日後の夜だ」
3日後か。
私はしっかりと頭の中に記憶する。
「と。なると、首都に行くんだろ?……オデットはパルメシア行きのゲートに入れるレベルなのか?」
デルトが聞いてくる。
「ゲート……?」
それは何だろう。私はデルトの方に顔を向け聞く。
デルトは少し驚いたような顔で。
「えっ。……オデット。おまえさん、もしかして冒険者じゃないのか?」
慌てたように言ってくる。
そして、その反応に私も驚き。
「……はい」
肯定する。
「……冒険者になるには、町にある「ギルド会館」で冒険者登録をするんだ。そして、そこの転送陣。「ゲート」っていうんだが。首都にはそれを使って移動する」
クキだ。
「まぁ、徒歩で行けなくもないんだけどな。ただ、馬を使っても半日はかかっちまう」
今度はデルトがそう言う。
「俺たちも任務中の身だからな。あまりここを離れられない」
クキだ。クキは言葉を続け。
「悪いが、オデット。冒険者登録を3日後までに済ませておいてくれ」
そう言う。
「わ……わかりました」
私は答える。
「まぁ、色々特典ももらえるし、決して無駄にはならないからな!頑張れよ、オデット!」
デルトは私の肩をバシッと、叩く。
……なかなかの威力だ。すかさずスクリーンが「残りHP510/520」と表示してくる。
そうして、私は冒険者になるべく行動するのであった。