ドラゴンの異常
「ギャゥオオオオオ!!!!」
待ってました、と言わんばかりに、ドラゴンの咆哮が響く。
「くぅっ」
これは至近距離で聞くものじゃない。私の身体は突風でもくらったかのように前に進まない。
しかし、それならば……と少し後ずさる。
……どんな生き物だって、目を潰されたらひとたまりもないはずだ。
ドラゴンは咆哮を終え動き出す。
次の瞬間、後ろにぐっと下がった。次の行動は突進か、炎を吐くか。それともまた別か。
とにかく正面にいるのは危険そうだ。
私はドラゴンの側面に回りこむように動き、目に狙いをつけてすばやく撃つ。
パァン!!
「……ギャオォァ!!」
それは、ドラゴンの皮膚を削るように、頬から角に当たる。
赤い血がドラゴンの顔を濡らす。
手と肩が反動でビリビリとする。
しかし、動きを止めない。チャンスなのだ。
パァン!!
しかし今度は外れる。しまった。
そう思った瞬間。
私の脇腹に衝撃が加わる。
ドラゴンの尻尾なぎ払いがかすったのだ。
「ぐはぁっ!!」
私の身体はふき飛び、地面へと落ちる。
「……ぐぐぅぅ。」
痛い。痛いが……耐えられないほどではない。
さすが異世界。現実だったら今のでショック死していたかもしれない。
しかし、少しかすっただけでこれとは……。
私はふらつきながらも、立ち上がる。
ここで寝ていたら、最後になってしまうから。
スクリーンが「残りHP12/520」と表示する。
新たな世界にやってきて、1時間も立たないうちに早速ピンチとか。笑えない。
私は震える手で銃をかまえる。
ドラゴンはこちらに向かって走ってきている。
私は、一か八かで試すことにした。
「アンデット・ショット……!」
弾は、ドラゴンの目に向かって一直線に飛んでいく。
そして命中した。
「グアゥアァァ!!」
ドラゴンの悲鳴。動きが止まる。しかしスクリーンの声は
「対象モンスターのLvが高すぎます。捕獲に失敗しました。」
実に無慈悲なものだった。
ドラゴンの目の穴からは、血がドバドバと溢れでてくる。
「ハァ……ハァ……」
私は肩で息をし、次の手を考える。
アンデット・ショットが使えないとなると、通常の方法で仕留めるしかない。
銃を再び構え、今度は心臓を狙い撃つ。
ドラゴンの胸に、赤い花が数輪咲く。
しかし……、数秒。数十秒経っても微動だにしない。
どうなっている?倒したのか?
それとも油断させて、奇襲をかけてくる気か……?
「グ……」
「グギギギィィィッッ……!!!」
少し離れたところで様子を見る。
何か苦しんでいるように見えるが。銃で撃たれた痛みで……とは、思えない。
「ッグ……グアアァ……」
その後。
全く動かなくなった。
私は恐る恐る。腕で脇腹をかばいながら、ドラゴンの前に足を進める。
「……!!」
私は息を飲み込んだ。
ドラゴンの顔は、ドロドロドロとただれ、肌は紫の赤褐色に色が変化していく。
「これは……何?」
いきなり何が起こってるのだろう。
私は途方にくれる。
その間にも、腐敗は進み。ボトリ。ボトリ。と重い音を立て、肉塊は地面に落ちていく。
「ゥゥゥゥ……」
息も絶え絶え。小さく呻くドラゴン。
苦しそうだ。
顔の一部が完全に朽ち、骨があらわになる。
意味が分からない。
何故急にこんなことに……。
「スクリーン……これは一体?」
「私にも分からないわ……」
何だか嫌な予感がする。
私は暫くその場から動くことが出来なかった。