ブルー・ベルベット・ドラゴン
ドラゴンなんてものはマンガ。ゲーム。アニメ。そんな空想の中だけの存在であって現実にはいない。
私はこの15年。そう思って生きていた。だって、リアルに見たことなんてなかったから。
それが、今目の前にいる。
鱗の少ない、ベルベットのような青い皮膚が月の光でしっとりと輝き、とんがった角が2本。頭から生えている。
背中には大きな翼。
「Lv48、ブルー・ベルベット・ドラゴン」
スクリーンはそう小声で言う。
遠目なので、正確な大きさはわからないが、少なくとも5mはあるだろうか。
時間は夜。満月の美しい夜。
あんな怖そうなドラゴンさんの前じゃなければ、団子のひとつでも食したいところである。
私とドラゴンの距離は40mほどだろうか。
草の陰に倒れこんでいたおかげで、あちらには未だ気づかれていないようだ。
「ギー・・・ィ」
「ギャッギャッ」
暫く様子を見ていると、横の大木から1mほどの大きさのものが数匹出てくる。
ドラゴンの赤ちゃんだ。
やばい。
子育て中のドラゴンが、初めて対峙する相手っていうのはかなりやばい。
普段より気が立っているはずだ。
ただでさえ、こんな世界に降り立ったばかりのプレイヤーが、ラスボス手前のダンジョンにいるモンスターを狩れるわけがないというのに。
隙を見て。
あるのかは分からないが。逃げるしかない。
「ギィーッ」
「ギィギィー」
口の中に保管していたのであろう、何かの肉を子供に分け与えている。
赤ちゃんドラゴンは喜びの声をあげ食べだした。
隙、としては今しかないかもしれない。音を立てないように膝立ちになる。
腰に手を回すと、ポーチのようなものが。
そして、武器だ。左の腰には銃器が。腰の後ろにはナイフのようなものが。試しにホルスターから銃を抜き出し、握りしめてみる。
私の手には少し大きいが、思ったよりも軽い。
一瞬、これならいけるんじゃないか?と、思ってしまう。
しかし……。
「ところで、今の私のレベルはいくつ?」
「Lv3」
スクリーンは短くそう答える。
やっぱりそうか。ちょっとだけ”強くなってコンティニュー”みたいなチートが起きてないか期待してしまった。
「「アンデット・ショット」の詳細を教えて」
名前だけで予想すると、アンデット・不死にしか効果はなさそうだが。
「OK。「アンデット・ショット」……捕獲スキルの一種。物理・遠距離攻撃を敵に当てることで発動。<※このスキルは捕まえたモンスターを属性「不死」に変えます>」
前半分は理解ができる。……しかし後半。赤文字で表示された文は何なんだ。
属性を不死にするって、強制的に?
「はぁ……」
ため息をつく。思った以上にややこしいスキルかもしれない。
「なるほど。行こう」
スキルのことは後で考えよう。
運よく町の近くに出れれば、人もいるはずだ。
銃を右手に握り、足を踏み出した刹那。
「ギャアアオオオオォォ!!!」
見つかった。
ドラゴンの咆哮。戦闘開始の合図だ。
耳がビリビリと痛い。
とにかく逃げなくては。
「……くぅっ。」
草の葉はするどく、身体のいたるところにキズを作る。
ドラゴンの攻撃を避けるように、木をバリゲードにしながら走っては隠れ、走っては隠れ。
かなり格好の悪いことではあるが、あんなの相手にできるか!
ときたま、ドラゴンは赤いエフェクトと共に火炎をはき、もうもうと草は燃え煙をだす。
少しの量ならば、それほどでもないが、もくもくと煙が一面に広がって気が付く。
これは天然の目潰しだ。
前も見えない、進むべき道も分からない。
ドラゴンの体格、Lvの差からみて、蹴りの一撃でももらえば死んでしまうだろう。
「ゴホゴホッ……」
地面の空気を吸おうと、しゃがむ。
危ないことではあるが、煙を吸うのも危険だ。
煙。
「……」
……急に気分が沈み、そして高揚してくる。
ドシッドシッ。ドラゴンの足音が聞こえる。まだ少し距離があるようだ。
「……スクリーン」
「なに……?」
「私ね、ここでやられるのは絶対にイヤ。炎……煙。どちらも大嫌い」
何故なのかは分からないが、妙に腹が立った。
「あなたまさか!」
スクリーンは小さく悲鳴をあげるかのように、言う。
こんなとき言葉にしなくても通じるっていいな。
私は次の瞬間、ドラゴンの前へとかけ出した。
スキル説明に間違いがあったので修正をしました。10月12日。