夜の宿屋にて
部屋に帰ると、アンミラはまだ起きていた。
2つあるベッドの片方に、腰をかけ本を読んでいる。
アンミラは、私に気が付くと。
「あら……、おかえりなさい☆」
そう笑顔で迎えてくれる。
「ただいまっ」
私も出来るだけ、愛想よく返す。
首都パルメシアに行ったり、慣れない会話をしたので、それなりに疲れたが顔に出しても仕方が無い。
私は、サイドテーブルに置いてあった水差しから、コップに水をそそぎ飲む。
(あ……まだ冷えてる)
多少ぬるくなっているのかと思ったら、そんなことはなかった。
どうやらこの水差しには、中の温度が変化しない特別な魔法がかかっているらしい。
「これ」
と、アンミラが言うので、水を飲みながらそちらを見る。
「うん?」
「受付のロビーにあったから、借りてきたの♪」
アンミラはそう言い、軽く本を上げ、私に見せる。そして、本を一度ベッドの上におくと、こちらに近づいてくる。
(へぇ、この世界にも本ってあるんだ……?)
私はその本が気になり。
表紙を見る。
「”アルドレイド神話~神々の戯れ~”」
アルドレイド。……それは確か、この世界の名前だった気がする。
「ねぇ、それ。私もあとで見せてもらってもいいかな?」
私は神話に興味がわき聞いてみる。
アンミラは「えぇ、もちろん☆」と、快く言ってくれる。
……が。
「それじゃあ、私も貰えるもの貰っちゃおうかしら?」
アンミラはそう言うと片手で。
私の両手首を軽々とつかみ、ベッドの上へと押し倒した。
「……えっ!?」
そして、うつ伏せに倒れこんだ私の上に覆いかぶさり。
アンミラは私のお尻へと。
……熱い、何かを押し付けてきた。
○△□◇!!?
「うぁっ……!?ちょ、ちょっと!?」
いやいやいや。
アンミラさん!?
今は寝ぼけてるわけじゃないんですよねっ?
「……今は朝じゃないよねっ!? 夜だよねッ!?」
そう訴えるが。
私は色々な事が重なり、頭が回ってなかったらしい。
「そうよ。だから私、頑張っちゃう☆」
しまった!完全に墓穴だ。
アンミラはきっと夜行性なのだ。
つまり、お食事のお時間!?……ということに!?
「ア……アンミラ? 流石にこれは、嫌なんだけど? ……落ち着こう? ね?」
というか、私が捕食対象ってどうなの?
一応これでもあなたの主なんだけど。忘れてないかなぁ!?
アンミラはそんな言葉により気を良くしたのか、「ウフフ……」と笑いながら、止める気配がない。
そして、アンミラの長くやわらかい髪は、私の身体へとからみつき。
カプっと。
私のうなじに歯が当たる。
まずい。
このままでは……、私の貞操が危ない!!
そして、「いいかげんにしろ!!」と、強く叫ぼうとした刹那。それは起こる。
「アハハハッ!チャ~オ」
私の視線の先。より枕に近い、ベッドの上だ。
黒い渦が現れ。
天井スレスレの位置に現れた、悪魔の翼を持った少女は。
「アルデベッセ……?」
私は見覚えのある姿に驚いてしまう。
何もないところから、現れたが。どうなっているのだろう。特殊な魔法スキル?
「……え。ちょっと待って。アンタそんな趣味だったの?」
アルデベッセは、私たちのこの体勢を見るなり、引きつった顔で、ドン引きしている。
いや。違う。断じて違う。
「……誤解を解きたいのですが、聞いてくれますか?」
喋りにくい姿勢ながら、私は必死に声を出すのだった。




