忠告
スクリーンと話し終え、そろそろ宿に入ろう。そう思ったころ。
「……アンタが、噂の「オデット」ね?」
突然、空の上からそんな声が聞こえてくる。
「えっ」
私は声のする方へと頭を上げた。
視線の先には……。
大きなコウモリ。
いや、少し違う。
悪魔のような翼を持った、少女だった。それが宙に浮いている。
肩まである黒い髪をツーサイドアップにし、まだまだ発展途上の胸は小さく、腰も細い。
しかし、その姿とは裏腹に、胸元のあいた妙にセクシーな赤いワンピースを身に着け、スカートの端からは、竜の尻尾のようなものが見えている。
「え?私が誰か分からないって?」
その少女はアハハッと笑いながら、そんなことを言う。
「当然よねぇ。なんせ、本来私とアンタは顔を合わせても良い、階級ですらないんですもの……」
階級?意味が分からない。
「私の名前はアルデベッセ。無能なアンタに有難~い、忠告をしに来たのよ? ……感謝して欲しいんだけど? いや、感謝しろっ。頭が高い!!」
少女は一歩的に喋り。空の上で仁王立ちになり、踏ん反り返っている。
「……いえ、あまりに唐突すぎて」
私は、本心を言う。唐突なのもそうだが、この子。話が脱線しまくるタイプな気がする。出来れば早く、話を切り上げたい。
「それで忠告って一体なんですか?」
そう踏ん反り返っている少女に、言う。
すると、少女はひらりと、身軽に一回転し、普通の姿勢に戻り、腕組をする。
「……もう本題に入っちゃうの?まぁ、いいけど」
アルデベッセと名乗る者は、そこで一度言葉を区切り。さらに続ける。
「アンタさっきまで首都に行ってたんでしょ? ……で、あのひょろっこい獣人に会った、と。」
私は頷いていいものか分からなかったが、行ったのは事実。
「えぇ、行ってきたわ」
そう言う。それを聞いた少女は「やっぱりね」と言い。
「アイツらには気をつけなさい。さっきだって、アンタの情報を得るだけで、な~んにもこの世界のこと。教えてくれなかったでしょ?」
そう言う。確かにそれはそうだが。至って普通な気がする。
「アンタさ、この世界でどう生きたいの?どう在りたいの?」
それは当然、無病息災な感じでお願いします。とは、声に出せず。
私は黙ったままでいた。
「とにかく、生き延びたいなら。あまり自分のスキルのこととか、その横にくっついてる白い板みたいなのの事は、言わない方が身のためだからね」
そして、アルデベッセはその言葉と共に、黒い影となり、渦のように消えていってしまった。
「……」
私は消えたあとも、暫くそこを見つめていた。
なんだろう。今のは。
信用する相手は選べということなのだろうか。
そして、それはギルド集会に出ていた人たちじゃない……?
いや。
そんなことより、あの人は……。
「スクリーンのことを認識していた……」