首都パルメシアへ
ヘルメットを被ったゾンビを倒した、その日の夕方。
とっぷりと日が暮れるころ。
私はホルト町の「ギルド会館」の前で待っていた。
アンミラは連れて行かない方がいいだろうと思い、宿で待機させている。
部屋には少しお金をおいてきたので、何かあってもとりあえず大丈夫だろう。
「……」
予定の時間より、私が早く着すぎてしまったのか、それともクキが遅れているのか。
なかなか現れない。
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そうして10分ほど経ったころ。私のもとへ一人の男が近づいてきた。
クキだ。
頭には何も無い。鎧は胸と肩が繋がっているものに、深緑のマント。
下はグレーのパンツに。金属のロングブーツを履いている。
そして、腰にはロングソード。
実に剣士らしい格好だ。
「待たせたな。少し段通りに手間取ってしまってな。すまない」
そう謝ってくる。
「いえ、問題ないです」
「……無事、冒険者登録できたんだな、おめでとう」
クキは、私の背負っている、冒険者特典のマジックリュックに目をやり、そう言ってくる。
「はい。何とか……」
色々と大変ではあったが、その分の収穫は大きかった。
「ところで、今のレベルはいくつだ」
クキはそう聞いてくる。
「6まで上がりました」
私は答える。が……。
ゲートの利用にはレベルが関係していた。
レベル3であった以前と比べると少しは上がった方だが・・・パルメシア行きに足りなかったらどうしよう。
「あぁ、それなら大丈夫だな。さて、行くか」
クキは頷き。中へと入っていく。
私は「よ、良かった……」と、胸をひと撫でした。
ちなみにあとで、調べたことだが、首都パルメシアにはレベル5から行けるようだった。
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ホルトの町。
ギルド会館の2F。転送陣・ゲート部屋についた。私は部屋を見渡す。
壁は赤茶のレンガ。
そして、それを覆うかのように、小さな葉が沢山ついたツタが這っている。室内だというのに、わざとなのだろうか。
天井。そこには照明のようなものが吊るされ、中には石が入っているようだった。
その石は淡い黄色の光りを放ち、部屋全体を照らしている。どことなく神秘的な空間だった。
「あれはどういう原理で光ってるんですか」
私は、その光が気になって、クキに話しかける。
「……あれの中には、「発光石」が入っているんだ」
クキは天井を見上げると、視線をこちらに戻し、そう言う。
「発光石?」
私はもう一度聞く。
「……魔法が身体や物に触れると、回復したり、ダメージを受けたりするよな。あれは、それだけのエネルギーが「魔法」というものにあるからなんだ。基本的にそのエネルギーを受ければ、大抵のものは壊れたり、死んだりするが、中にはそれに耐えきるものもある。……この発光石は、そんな大量のエネルギーに耐え、保管し、少しずつ放出しているんだ。」
クキは言葉を選びながら、ゆっくり説明してくれるが。
正直難しい。
「つまりは、魔力を蓄えた石ってことですか?」
私はそう聞いてみる。
「……まぁ、そんな感じだ」
クキはそう言って、歩き出した。
目的地についたその先には。
「あれが、ワープゲート……」
大きな魔方陣がある。
モンスターが召還されるものと似ているが、模様が大分違う上、蛍のような白い光が舞っている。
私とクキはその魔法陣の近くまで行く。
「行き方は簡単だ。これに乗って、はっきりと行き先を口に出すんだ。
今回はパルメシアだ。間違えるなよ」
クキは「まずは君から行くんだ」そう言い、促してくる。
「はい」
私は恐る恐る、魔方陣の上にのる。
下からは風が感じられる。どういう仕組みなのだろう。
そして、私は今教えてもらったように、はっきりと口に出す。
「……パルメシア!」
すると、目の前が一度暗くなり。明るくなる。
そして。
なんだか、頭を頭上から引っ張られているような感覚がする。
「……っ」
あれ?この感覚……。どこかで経験したことがあるような……?
次の瞬間。
私は、見慣れぬ町。パルメシアに飛んでいた。
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着いた先は、パルメシアの中。城門前だ。
目の前すぐのところに、馬にのった騎士だろうか?戦士の銅像が建っている。
「行けたな」
暫くすると、クキもやってくる。そして。
「さぁギルド本部へ案内する」
と、続けた。
町の中を進むと、そこはとても広い街並みだった。
地面は石のようなもので固められ、歩きやすく。綺麗だ。
建物は白く、屋根はオレンジ、青、緑。中々にカラフルな色をしており、昔見た海外の写真。
ドイツの城塞都市に近い。
あちらこちらに、木や植物も生えているようだが、今は夜なのでよく見えない。
少し観光したい気分になったが、仕方が無い。また次の機会にしよう。
「綺麗なところですね」
私は素直に感想を伝える。
「……首都だからな」
クキはそう短く答える。
暫く歩き、大きな建物を3つ4つ過ぎると、クキは立ち止まった。
「ここがそうだ」
本部と、ギルド会館が分けられている事にも驚いたが、この建物にも驚いた。
濃い灰色のしっかりとした外壁に、沢山の窓がついており。あちらこちらに美しい装飾が施されている。
重厚感のある大きな扉は、来る者の気を引き締める。そんな効果がありそうだ。
しかし、クキには見慣れた光景なのだろう。
緊張した様子は見せない。
「さぁ、入るぞ」
クキはそう言うと扉を開ける。