ヘルメットを被ったゾンビ
武器・防具屋を出ると、先ほどまでとは打って変わって。空が曇っている。
灰色の空だ。
「うわぁ……、雨降ってきそう」
私は空を見上げながら、そんなことを言う。
「……降りそうね」
アンミラも釣られて空を見ている。
しかし、その口調はどこか嬉しそうでもある。
先ほど「日光は平気」と言っていたが、やはり曇っているほうが楽なのかもしれない。
「……ん?」
それにしても、何だか。町の中が騒がしい?
割と活気があるこの町だ。気のせいかもしれないが……。
しかし突然。
遠くの方から。
「キャアアァァーーー!!」
という、女性の悲鳴が聞こえてくる。
これは……ラルザ平原側の門付近か。
私はアンミラに「行こう」と短く言うと、声のした方へ走った。
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その場へと到着すると、人の形をした"朽ちた者"。ゾンビが大量にいた。
町の人たちは力を持たないのか、抵抗も空しく、血を流し倒れていってしまう。
出血量からいって、もう助からないだろう……。
そして、それに合わせたかのように小雨が降ってくる。
「……」
雨により、倒れた町の人たちの血はどんどん広がっていく。
だが、その目を逸らしたくなる光景も暫く経つと、肉体と共に灰になり、消えてなくなってしまった。
「これは……」
どういう現象なのか? と、スクリーンに聞こうとしたその直後。
「……オデット!! 後ろっ!!」
慌てたスクリーンの声が聞こえ、私はその声に振り返る。
目の前には、一体の大きな「ヘルメットを被ったゾンビ」がいた。頭に被っているそれは、安全作業のものに見えるが、汚れていてよくは見えない。
そのゾンビは、私目掛けて飛び掛り。
鋭い爪で引っかいてやろうかと、大きく腕を振り下ろそうとしていた。
「……っ」
この敵、速い!
腕の振りも早いが、足取りも速い。
私は、その攻撃を何とかよけるが、銃を取り出している暇が無い。
しかも敵はこの一体だけじゃない。
そう思っていると。
「アイシクル・アロー!」
私の真横から声がする。
「……!?」
私は驚き、そちらを見る。
魔法スキルだ。
アンミラの足元から、水色のエフェクトが出ている。
その魔法スキルは、氷のつらら。
つららはヘルメットを被ったゾンビを中心に、円を描くように何本も現れる。
「行け……!」
アンミラはそう声を出し、腕を振り下ろす。
すると。
現れたつららは、ヘルメットを被ったゾンビ目掛けて、一斉に降り注ぐ。
「……ア゛ア"アァァ……ッ!!」
つらら。「アイシクル・アロー」はゾンビの全身にどんどん刺さっている。
そして、その身体からは血ではない、ドロドロしたものが、飛び散る。
「……マスター! 一気にいくわよっ!!」
アンミラがそう叫ぶ。
そうだった。
私は銃をホルスターから抜くと、かまえ。
ヘルメットを被ったゾンビの動きに注意をしながら、先にまわりの者達を倒す。
最初見たときより、数が増えている気がするが……。
一体。また一体と。確実に床に転していく。
「……よし。周りのは片付いた」
残るは、ヘルメットを被ったゾンビだけだ。
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安全ヘルメットを被ったゾンビは、ゆらゆらと動いていたかと思うと、突然素早く動く。
奇妙な動きをするゾンビだった。身体も他のものよりもでかい。
「アア"アアァァ……」
しかし、さきほど受けた「アイシクル・アロー」が効いているのだろうか。
それとも、私とアンミラ。どちらを攻撃しようか迷っているのか。
少しだけ動きがにぶくなった気がする。
「アイシクル・アロー!」
アンミラが再度、スキルを詠唱する。
「ウグア゛アアァ……ッ!!!」
何本ものつららを受け、ヘルメットを被ったゾンビは大きく仰け反る。
そして、私も負けじと銃を撃つ。
パァン!!
弾は顔の真正面に当たり、鼻から後頭部まで貫通したようだ。
「アア"アア"……!!」
私は一瞬倒したか?と思う。
ヘルメットを被ったゾンビが大きく、ドサッという音をあげ倒れたからだ。
「……」
しかし、まだ分からない。
他のゾンビ達と同じように、崩れていかないからだ。
「……」
私とアンミラは近づきながらも、警戒をする。
そして。
「……ッッグアアアァァァアアアアァァ!!!」
ヘルメットを被ったゾンビは。
人の。いや生命を持った者としての、動きを無視し。
膝が折れた状態から、私に飛び掛ってき……。
「……ッ!!……あ"ああぁぁッ!!」
私の肩に噛み付いた。
その力のある両手はガッシリと、私の両肩をつかむ。
「ウグググ……ッ」
私の肩には穴が開き。血が出ている。
痛い。
重い。
スクリーンを見ると「残りHP420/800」と表示している。
痛みはあるが、思ったよりはダメージを受けていない。
私は震える右手で、ヘルメットを被ったゾンビのこめかみに銃口を当てる。
しかし、私がトリガーを引く前に、それは起こる。
「……私の主様に何てことをっ!!」
アンミラの目が赤く充血し、背中からは妖気のようなものが出ている。
「グリフ・グロゥ……ッ」
アンミラは歩きながら、静かにそうスキルを唱えると、右手が赤く光り。
手の甲から、3本の長い爪が飛び出してくる。
そして、アンミラがこちらに近づき。
「……死ねッ!!」
そう叫ぶと、その3本の鋭い爪で、ヘルメットを被ったゾンビの側頭部に突き刺した。
「グア"ッ。……グギャア"ア"アァァッ!!!」
アンミラが爪を引き抜くと、その傷跡から血ではないドロのようなものが吹き出てくる。そのドロはアンミラの上半身を汚すが、アンミラはそんなこと気にも留めていないようだった。
ヘルメットを被ったゾンビは、その一撃で崩れ。
その場に残ったのは、安全ヘルメットだけだった。