朝の騒動
(……もう朝か)
私はぼーっとする頭で身体を起こし、ベッドの上から部屋を見渡す。
小さな窓からは、光りが差し込んできているが、まだ少し薄暗い。
私はドアの方を見る。
そこには、私の袖のないロングベストが脱ぎ捨てられていた。
「……」
ここは今、私が泊まっている格安の部屋だ。
「……」
まだ、頭が覚醒していない。
しかし、そんな意識のなか、ロングベストのシワが気になってくる。
……起きよう。
布団をめくり、身体を起こす。
そして四つんばいになりながら、ベッドから降りようとする。
そして、私は思い出した。
昨日の出来事を。
「そうだ……私」
視線の先、その床の上には。
毛布に包まり、少し寝苦しそうにしているカーミラ一族の"アンミラ"がいた。
昨夜、わたしは遂に仲間を作ることに成功したのだ。
私は再度アンミラを見る。
(寝苦しそう……)
昨晩は私も疲れきっていたため、そこまで気がまわらなかったが、次からはツイン部屋にしよう。
というか、「吸血鬼」というと、ベッドは棺。という、イメージがあるけれど……。
アンミラはどうなんだろう。
一瞬、大きな黒い棺を背負い、旅をする。そんな自分の姿を想像する。
「……いや。ないない。それはさすがに無理」
私は頭を振る。
「……あら。……おはよう」
カーミラが私の気配に気づいたのか、モゾモゾと起き出し、挨拶してくる。
髪は乱れ、少しボサっとしている。
「うん、おはよう。アンミラ」
私はベッドから降り、身支度を整える。
整えながら。
あ。食事を買いに行かないと……。と、思い立つ。
なんせこの部屋は、格安部屋なのである。故に、ホテルのような朝食は出ない。
そうだ、アンミラも仲間になったことだし、今日はちょっと奮発しよう。
そしてそこで、大事なことを忘れていたことに気づく。
「ねぇ、アンミラ。あなたはパンとか食べれるの?」
私は振り返り、まだ気だるそうに毛布に包まっているアンミラに声をかける。
「……。えぇ、もちろん食べれるわよ。……ただ、エネルギー変換としては、そこまで多くはないから、他のものも獲らなくちゃ、私倒れちゃうかも……☆」
アンミラは眠そうに、そう言う。
「そっか、じゃあ普段は何を食べてるの?」
私は気になり、そう聞いてみるが……。
「へぇ……」
アンミラはそう言うと、急に立ち上がり、腕をこちらに伸ばしてくる。
それは、昨日出会った時かのように。
しかし、その腕は。私の顔を横通り。
背後にある壁に手がそえられる形になる。
「あなた、意外と大胆なのね……?」
アンミラはそう至近距離で見つめながら言ってくる。
さっきまで、眠そうだったのに。突然、態度の変わったアンミラに私は驚いてしまう。
「……」
それにしても。
これはもしや「壁ドン」というやつなのでは?
もちろん、隣人がうるさくて壁を殴るほうではなく。片方のヒューマンが、片方のヒューマンを、腕で壁に閉じ込めてしまう方だ。
しかし。
私はアンミラの色仕掛けは2度目ということもあって、割と冷静だった。
「……吸血鬼さん。ということは、やっぱ血デスカ?」
しまった、やっぱり冷静じゃない。
私の身体は強張ってくる。
「ウフフッ……可愛い。もちろん血も美味しいけど、当然こっちの方が……」
アンミラは私の反応を気に入ったのかそう言う。
そして、ニヤリと笑ったかと思うと。
壁から手を離し、今度は両手で私のお尻を鷲づかみにした。
「……!!!」
エェェッ……○△◇■!?!?
「ちょ、ちょ……」
私は何か言おうとするが、混乱しすぎて言葉にならない。
「フフフ……。柔らかくて、なかなか良いお尻ね……☆」
対するアンミラは、そんなことを言いながら、私のお尻を揉みしだいている。
そして、私は。
「ウワァァァーーッ!!」
と、悲鳴を上げた。