初めての仲間
次の日の朝。
私は早速、野うさぎを20体倒すクエストを受け、ルフニュの森を歩いていた。
このあたりの草は、比較的やわらかいが、音をたてても良いことはないのでゆっくりと進む。
夜中のうちに雨が降ったのか、朝露なのかは分からないが、葉に水滴が付いている。
街道を逸れ、背の低い木々が並ぶ草むらに入る。
そこで。
私は立ち止り、自分の防具を確認する。
袖のないグリーンのワンピースに、皮のプロテクター。その上には袖のないロングベストを羽織っている。
足元は皮のショートブーツ。
武器を含め、これらの装備はこちらに飛ばされた時のままだが、背中には。
昨日手に入れた、冒険者特典である新品の「マジックリュック」を背負っていた。
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「いた」
私はその場にしゃがみ込み、見つめる。
野うさぎだ。ふわふわの毛並みと、丸いしっぽ。
長い耳はなめらかそうで、なでてみたい欲にかられる。
「Lv3、野うさぎ」
スクリーンが小声でそう言う。
「よし」
と、私はホルスターから銃を抜き、音を立てないように木の陰にひそむ。
どんなに可愛くても狩るときは狩るのだ。
野うさぎは鼻をヒクヒクさせ、耳をプルプルとさせる。
「……」
まわりをキョロキョロっと見回している、……まだ早い。
「……」
納得いくまで安全を確認したのか、ゆったりと目を細め、その場に伏せた。
(いまだ)
私は銃のトリガーに指をかけ、打ち抜く。
パァン!!という大きな音と共に飛んでいく弾丸。「ピギィッ!」という、断末魔と共に、野うさぎの胴体に穴があき、乾いた土の上に血溜まりを作る。
「いけたわね」
スクリーンは無事狩りを行えたことを喜んでくれる。
「うん」
銃をホルスターに戻し、元・野うさぎだったものに近づく。
足元まで行くと、それは小さく「シュインッ」と音がし、血は消え死体は3枚の金貨と、野うさぎの毛皮だろうか?動物の皮に変化する。
皮を手にとってみると、見た目よりもずっしりと重い。
この前は焦りもあったため見落としていたのだが、モンスターを倒すとこのようにアイテムを手に入れることが出来る。
「……なるほど。」
私は、冒険者特典としてもらった「容量無制限」と刺繍されたマジックリュックをおろし、金貨と毛皮をいれる。
リュックの重さは変わらない。
「このリュック本当すごいよね。日本にいた頃にも欲しかったよ」
そう言い、また背中へと戻した。
「よし……、残り19体。行こう」
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暗くなってきた。町に戻るには丁度良い頃だろう。
クエスト分の野うさぎを狩った後も余力があったので、私は比較的レベルの低い、グリーンホビットや、スライム、マシュリー(キノコのモンスター)などを狩り続けた。
Lv3だったレベルも、6まであがり気分が良い。
「さて、そろそろ試してみようか」
帰る前に試したいこと。
それは「アンデット・ショット」だ。
「スクリーン。青いドラゴンの時はレベルが高すぎた。つまりは私のレベルが足りなかったってことだよね」
「えぇ、そうだと思うわ」
返事に対し、私は頷き。
「「アンデット・ショット」の第一ターゲットは野うさぎにしよう」
私は細い草が沢山生えている場所で、膝立ちになり待ち構える。
「……いた」
暗くなって若干見難いが、15mほど前方。
沢山の葉を身につけた、背の低い木々で出来た茂みのなかに野うさぎの耳が見える。
ガサゴソ……ガサゴソ……と、その茂みは野うさぎの動きに合わせて動く。
タイミングとしては、こちら側に身体を出したときだ。
銃をかまえ、その瞬間を待つ。
ガサゴソ……。
ガサゴソ……。
「……」
しかし、なかなか出てこない。……隠れる場所をミスッたかな。
ガサゴソ……ガサゴソ……。茂みからは尚も音がする。
「……」
神経を集中させる。
そして、野うさぎは転がってきた。
「アンデット・ショット!!」
出来るだけ小声に、でもしっかりとした発音でスキル名を言い、発泡する。
弾は出てきた野うさぎに向かって。
向かって?
いや、違う。
あれは野うさぎじゃない!
少なくとも、野うさぎはあんなに大きくないし、人の形もしていない。
「!!」
何かは違和感に気が付いたのか、はっ!!と、顔をこちらに向ける。
しかし。それが悪かった。
私の放った「アンデット・ショット」は、その何かの眉間に命中した。
「アァ~ッ!!」
何かの悲鳴が森の中にこだまし。
「モンスター "カーミラ" の捕獲に成功しました」
スクリーンはそう表示した。
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ところ変わって。
私たちは森の中にある、川辺の丸太の上に腰を下ろしていた。
手ごろな丸太は一本しかないので、並んで座る。
「……」
さて、私はどう話を切り出したものかと、川の方に目をやる。
川は、森の奥から町の方へと流れ、その水面には月が映っている。
すると。
「もうっ。モフモフちゃんが居たから、モフモフしてたのにん。こんなことになるなんて☆ ……まいっちゃう☆」
腕の中に、途中つかまえた野うさぎを抱きかかえ、のん気に撫で回している人物はそう言う。
その姿は、魚のひれのような耳をし、肌は雪かと思うほど白い。
髪はゆるいウェーブのかかったブロンドのロングヘアー。
その身体は吸血鬼一族の名に恥じず、ムチムチのボンキュッボン。ナイスバディー。
同性の私から見ても。女性らしい、魅惑的な姿をしている。
「あの……」
何だか話しづらい。
相手がモンスターっていうのもあるけど、目線のやり場に困るのだ。
「なぁに☆」
笑顔で返してくる。
「えぇと……。カーミラさんは私にテイミングされ、私のPTメンバーの一員になったのですが、了承はしてもらえますか?」
スキルの関係上、モンスター側に拒否権はないのだろうが、人の言葉を話す以上説明しなくてはいけない。
一応、ここに来るまでの間に「アンデット・ショット」による効果で、私に攻撃することは出来ない。
元仲間であろうモンスター達と戦うことになること。
女性の顔にキズをつけてすみませんでした、等など……軽くは説明したが。
歩き出すまで気絶していたカーミラには、疲れる話だったかもしれない。
「う~ん。そうねぇ……」
何か考えるそぶりを見せる。
そしてこちらをチラッと見ると、片腕をのばし、私の頬に手をそえる。
「フフッ……あなた結構、可愛い顔してるわよね。これなら、我が主としてお傍で仕えても悪くはないかしら?」
そう、妖艶に笑い、手を離す。
私は内心動揺しながらも、顔には出ないように気をつける。
「私、カーミラ族の「アンミラ」っていうの。得意は水と氷の魔法スキルよ。コウモリなんかを使役することも出来るわ。これからよろしくね。マスターさん☆」
笑顔でそう言う。
「こちらこそ。こっちは仲間のスクリーンと、私はオデット。あなたを歓迎するわ」
スクリーンは喋りこそしないが、きちんとこの場にいる。
見えてなかったらどうしよう。そう思いながらも、私は手振りでスクリーンのことを紹介する。
アンミラはスクリーンの方を見つめ「よろしくね☆」と言う。
良かった、見えているようだ、ホッとする。
「それで、ひとつ訂正があるんだけど♪」
んん? 何だろう?
「はい?」
「ごめんなさいね。私、女じゃないの。女でもあるんだけど、男でもある。
一族の中でも特殊なんだけどね」
え? 一瞬なにを言ってるか分からなかった。……このナイスバディが女性じゃない?
「それは肉体的? 精神的に?」
ここで、ようやくスクリーンが会話に参加する。
「……あら? お話出来るのね。びっくりしちゃった!」
少し驚いた顔をするアンミラ。
一呼吸おき、そして続ける。
「ふふっ……両方ね。まぁ、精神的には女性のが強いとは言われていたけれど。どう? ……マスターさん。私の身体見る?」
アンミラは野うさぎ抱きかかえたまま、しなを作る。
「見ませんよ……」
私はその姿を見て、これから大変になるかも……と、小さくため息をついた。
ようやく一人目の仲間を登場させることが出来ました。
長かった……。
次回あたりは、物語を置いて。主人公とアンミラのキャラ紹介を入れようと思ってます。