ウルフ戦
シュイーン。シュイーン。という音と共に、再度現れた魔法陣。
今度は一体なんだ……?
どんな敵が現れる……?
そして、魔法陣は光り。その中央にモンスターが召還された。
「……!!!」
私は驚く。
なんせ、そこに現れたのは。
現実世界の狼と、とてもよく似た姿をしていたのだから。
「Lv10、ウルフ」
スクリーンは情報を教えてくれる。
ウルフ。
その姿は茶色と灰色の混ざった、まだらな毛並みで、鼻の先と、足先だけが黒い。
瞳は赤く、体長は1.2m程度だろうか。
「……グルルル……」
獲物を目の前にしたウルフは唸り声を出し、こちらに威嚇をしてくる。
……これと戦わなくてはいけないのか。
そう考えていると、ウルフは軽快な歩みで走り出し。
いきなり加速を上げ、飛び掛ってくる。
……しまった!先制攻撃だ!
「うっ……!」
私はその攻撃を、回転を加えたサイドステップでよける。
しかし大きく体勢をくずしてしまい、床に片手と片膝をつく。
……素早く、大きな獣。
武器を変えたいが、その隙はあるだろうか……。
私は手に持っていたナイフを強く握り、立ち上がる。
ウルフもまた、体勢を整え、再度食らい付こうとしている。
しかし、今度は私も負けていられない。
「!!……」
そんな強い意志を感じ取ったのか、ウルフは少しだけ距離をとり、するどい二本のキバを見せながら、私のまわりをグルグルと回りだす。
……。
私はバックアタックに注意しながら、目で追うように睨みつける。
ウルフは三週ほどしただろうか。
私の左側面を通りすぎるあたり。
ウルフは再度、私に飛び掛かる。
「ウアッ……!!」
私は、床に倒れこむ。
そして、それと同時に左腕に激痛が走る。
「ウグアァァァ……ッッ!!!」
噛み付かれた!!
大きな二本のキバが二の腕に食い込む。
痛い……っ!!
「……グルルル!!!」
ウルフは唸り声を出し、アゴに力をいれ顔を大きく振る。
「……グアアァ……ッ!!」
私はその痛みでまた叫ぶ。
こいつ。
食いちぎろうとしてるのか?私の腕を!!
スクリーンが「残りHP90/520。」と表示する。しかも、その数値は痛みに合わせてどんどん減っていく。
まずい、このままでは死んでしまう。
嫌だ!!
私・・・私が。……こんなただの獣に殺されてしまう?
そんなことは、許さない、許せない。
……殺す。
殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す!!!!!
私は右手のナイフを強く握りしめる。
「この……!!!クソがぁっ……!!」
そう声を絞り出し。
暴れるウルフの首め掛けて、ナイフを振り下ろす。
しかし、それは首ではなく、肩に突き刺さる。
「……ギャウゥッッ!!」
目を見開き、大きな悲鳴を上げるウルフ。
そして、その痛みに怯んだのか、尻尾を巻いて後ずさりしようとする。
だが、そんなことは許さない。
私は痛む左腕で、ウルフの首根っこを掴むと、その場に叩きつける。
ウルフは「ギャンッ!!」と鳴き。
手足をバタバタさせる。
私はその暴れる身体からナイフを一度引き抜き。
そして一気に首を掻き切った。
「……グギャッ!!!」
ウルフの首から大量の血がビューーッと噴出し、その返り血は私の腕や顔を汚す。
血は、残りHPを表すかのように、止まらない。
ぐったりとしたその身体を押さえつけたまま。
暫く待つと「フシュゥ……」と音をたて。
「……」
グランド・ウルフは血と共に消えてなくなった。
「……ハ……ハハッ……!!」
支えを失った私の身体からは、急に力が抜け。
その場にへたりこむ。
口からは笑いがこみ上げてくる。
倒した。
倒した……。
興奮する頭で、そう繰り返す。
グランド・ウルフを倒したんだ……。
そんなぼーっとした状態の私に、突然、背後から声がかかる。
「おめでとうございます」
振り返ると、扉の前にはミネッサ・エンペンド。
そして先ほどの男性。
後は見たことのない者も何名か立っていた。
「すぐに回復しますね」
白いローブを着た線の細い男性が、私のそばに近づきしゃがむ。
「……ハイ・ヒール」
静かにそう唱えると、黄色いエフェクトが私の身体を包む。
暖かい。
血が消え、キズは完全に塞がっている。
痛みもない。
「あ……ありがとうございます」
私は男性にお礼を言う。
「オデット様。良い動きをされていましたね」
その声に顔を上げると、ミネッサが私を見つめる。
「いえ……」
私はもう痛くない足で立ち上がり、次の言葉を待った。
「オデット様は本日より、当ギルド会館公認の冒険者となられました。さぁ、……これをお受け取り下さい」
ミネッサは横の者から、ひとつの箱を受け取ったかと思うと、それを私に手渡した。
「これはギルド公認の冒険者の証。今後、クエストを受注される際には必ず、ご提示下さい」
箱を開けると、中にはカードが入っていた。
手の平に乗るそれは、名刺より少し大きい、ツルっとした素材のカードだ。
表にはドラゴンと剣のエンブレムが描かれ、裏面には私の名前などが書かれている。
「はい。分かりました」
私はそう言い。
もう一度カードを見つめ、箱に戻した。
「それでは、1階のカウンターにて、特典と書類をお渡しします。本日はお疲れ様でした」
一礼をし、ミネッサと周りの者達は、去って行った。
「……私も帰ろう」
もちろん、特典を受け取ってから。