買い物するぞ!
(あ。もしかして――)
ふとマニュアは気付いた。ティルが町の人達に言えば、アイテムすら貰えそうな気がする。
「でもいっか! さっきオレンジさんが貰ったお金もある事だし! なんか道具屋で買い物してみたいし!」
他人が受け取ったお金だというのに、マニュアは遠慮がない。
ティルはその様子を見ても穏やかに微笑んでいる。本当に人が好いようだ。
そうこうしているうちに、町の一角にある道具屋の前へと辿り着いた。
「お嬢ちゃん、何にするの? お嬢ちゃん、かわいいからおじさんまけてあげよう!」
店主らしき男が2人に声をかけた。
「え? ほんと~?」
ぶりっ子しながら言うマニュア。だが、男はマニュアには目もくれず、ティルに向けて言っていた。
「どれが欲しいの?」
「え、えっと……」
ヒュルリラ~。
…………そんな木枯らしが吹く効果音が似合いそうな状況。まるで、マニュアの1人芝居である。
「この町の人は本当ひでーな!」
マニュアは吐き捨てるように言った。
「え、えっと、ホワイトさん、何買います?」
「あ、うん……そうだなー」
道具屋に並べてあるアイテムを端から見ていく。
とりあえず、今のマニュアに必要そうなものは、薬草、毒消し草、復活の粉、魔力草くらいだった。
薬草や毒消し草は特に説明するまでもなく、怪我の回復アイテムだったり、毒を消すアイテムだったりするわけだが。
復活の粉とは、名前の通り、気絶した仲間を復活させるアイテムである。気を失っている仲間の目にこの粉をかけると、たちまち仲間が目を覚ますという代物なのだが――もしかしたら、それは単純に、僅かに目に入った粉が痛いだけなのでは? という噂もある。
魔力草もその名の通り、魔力を回復させるアイテムだ。
この世界には『魔法』と呼ばれる不思議な術が存在している。全ての人間が持っているわけではないのだが、人間が魔法を扱う時に必要とされるものが魔力である。魔力が尽きてしまうと魔法は使えない。暫く休めば回復するものの、急な時にはこういったアイテムが役に立つのだ。ただし、魔力草はさほど回復しないのが難点であるが。
しかし、このアイテムが本当に必要かと言われると、今の時点では魔法も特には使っていないので不要と言えるのかもしれない。
「う~ん。ねぇねぇ、オレンジさんって魔法とか使う? さっきの魔物呼ぶのじゃなくてさ。魔力ってあるの?」
「え? えぇと、わかりません……」
「そっかぁ。じゃぁどうしよう。薬草は当然いるよね。毒消し草は念の為……。復活の粉もあった方がいいかな」
色々と物色するマニュア。ティルはそれを後ろから眺めていた。
「魔力草かー。うーん。まぁ魔王を倒しに行くっていうストーリーなら今後魔法使う仲間もできるよな、きっと。よし、一応買っていこう」
安易な考え方で買う物を決めるのだった。
「おじさーん! 薬草10個と毒消し草5個、それから復活の粉を5個に魔力草も5個ください」
「あいよ! 全部で1100Cだよ」
その男の言葉に、マニュアの瞳の奥が燃えた。そして、ぶつぶつと何かを呟き始めた。
「お、お客さん、突然どうしたんですか!? こんなとこで呪詛吐かないでくださいよ……!?」
「ほ、ホワイトさん、怖い……」
男とティルは引いている。
だが、まだマニュアは止めない。一体何を言っているのかというと――
「薬草1個10C……10×10=100C……」
――計算していた……。
「毒消し草1個20C、20×5=100C……。復活の粉1個100C、100×5=500C。魔力草1個80C、80×5=400……あわせて1100……。おじさーん……まけてくれるって――言ったよね?」
男に詰め寄るマニュア。迫力があってとても怖い。
「わわわわわわわかりましたよ。1000Cにまけてあげましょう!」
「よっしゃ! 正義は勝つ!!」
マニュア、ガッツポーズ。
「正義……かなぁ……?」
ティルはそれを汗だくで眺めていた。
これをカツアゲと言います。良い子のみんなは真似しないように。