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グローリ・ワーカ  作者: 川柳えむ
第1章:出会い
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彼女の正体

「あ、自己紹介します。私、『ティル・オレンジ』といいます」


 その少女――ティルは言った。

 その時になって、マニュアは名乗り忘れていたことに気付き、慌てて自己紹介を始めた。


「私は『マニュア・ホワイト』です!」

「ホワイトさんですか……よろしくお願いします」

「あぁ、いえいえ。そんなご丁寧に」


 握手をして、マニュアはまっすぐとティルの顔を見つめた。

 眼鏡を掛けている彼女は知的で、魔物を助けてあげる姿は優しくて、かわいいなんて――


「まるで萌えキャラ……っ! 負けてる……っ!」

「え、な、何がですか!?」


 マニュアの突然の落胆ぶりに、慌てるティル。

 と、町人達が、


「そーですか!! ティルさんですか――!」

「なるほど、道理で凄いお方だと……!」

「優しいっすねー! 僕にも優しくして……」


 突然騒ぎ出した。

 もしかして、と思ったマニュアが、恐る恐るティルに尋ねてみる。


「――あの、あなた、有名人なの……?」


 ティルははにかみながら答えた。


「ま、まぁ……昔、1度新聞に載ったことがあるくらいで……なんか、魔物と心を通わせた少女とかなんとか……」

「ひぇー……すっごーい……」

「あの、私、魔物使いなんですよ」


 魔物使い――つまりは、魔物を呼び出せるということだ。そんな人間はとても珍しく、あまり聞いたことのない職業である。


「そっかー……魔物使い――なるほどね……」


 マニュアは素直に感心している裏で、含みがあるように呟いた。あるのかないのかは定かではないが。

 町人は興奮冷めやらぬ様子で、マニュアに言った。


「もう凄いなんてもんじゃないですよ! そりゃもうティルさんは星の数ほど魔物を従わせた――」

「なんかそう言うと、彼女が魔王みたいだな……」


 マニュアはちょっと引き気味である。


「やめてください! 従わせただなんて。――私は、ただ、お友達になっただけですよ」


 珍しく少しキツめの口調で言うティル。町人は驚いた様子で謝った。


「す、すいません……」

「あ、いえ、こちらこそ。急に怒鳴ってしまって……」


 ティルも顔を赤らめて謝った。

 と、そんな雰囲気ぶち壊しで、マニュアは言った。


「そんな事よりも、お礼は!?」


 場違いに、底抜けに明るい声。

 町人もはっとして、


「そ、そうでした! ささ、どうぞ。ティルさん、まずは宿でも――!」

「お礼といたしまして、5000C差し上げますので!」

「サインくれ~!」

「凄い! この町にいる間は、なーんでも言ってくださいね!」

「……あ、あの、私は…………?」


 マニュアは無視されている。

 それに気付いたティルは、


「あ、あの方も一緒に宿に泊めてくれませんか?」


 と言ってくれたものの――町人達は、一瞬わけのわからないといった顔をして、直後には笑い出した。


「あはははは! そうだ。このチビガキも一緒にいたんだ!」

「んな……ッ! チビガキ!?」

「さっきの、職業もわかってなかった、とっても音痴なヤツ!」

「音……っ!」

「ティルさんの足元にも及ばねぇ」

「そーだな。あははは!」


 町人達に笑われ、思わず言葉が詰まる。いくらなんでも酷い。

 それでも、一言何か言い返してやろうかとしたその時。


「彼女も宿にご一緒しても構いませんか!?」


 またもティルが怒鳴った。

 町人は一瞬で静まり返りばつが悪そうな表情したが、仕方のなさそうに言った。


「あ、どうぞ、どうぞ」

「全く……ティルさんは優しいねぇ」


 ティルは少し安心した表情。マニュアはなんとも複雑だった。


「運のいい奴だ。ティルさんもこんなガキに同情するとは、お人好しだな」


 その影で文句を言っている人間がいることも気付いていた。でも、マニュアは何も言えなかった。


 そうして、マニュアとティル、そしてピュウは宿へと案内された。


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