見知らぬ少女と新たな魔物
「やめてください!」
マニュアの歌がクライマックスに差し掛かった時、その声は聞こえた。
声の方向を振り返ると、そこには1人の少女がいた。
歳は、マニュアと同じくらいか。明るいオレンジ色の髪をツインテールにしていて、度の強い眼鏡の奥には垂れ気味のかわいらしい瞳を覗かせている。
「ダメよぉ、いじめちゃ!」
彼女は言った。マニュアは慌てて、
「いじめてないよ! この魔物が町を襲うから……!」
「違うよぉ! 怯えてるだけなの! 迷子になって1人ぼっちで怯えてるだけなの……だから――!」
魔物を庇うようにして立ち、そう叫んだ時、背中を向けた彼女に魔物が襲い掛かった。
魔物の噛みついた肩が、赤く染まっていく。
「い、痛……っ」
「……!! ――大丈夫!?」
しかし、彼女は魔物を倒そうとはせず、反対に、魔物を静かに抱き締めた。
「大丈夫……今、君の故郷を探しに行ってるよ……」
彼女がそう呟いた時、空に大きな黒い鳥が現れた。
「あ、あれは……!」
「魔物だ、うわあー!!」
新たな魔物の出現に、また慌てる町人。
「新しい魔物!? あれは――『ガ・ガアー』か」
魔物を見て呟くマニュア。自分の職業すらわからなかった彼女だが、意外と魔物は知っていた。
「そこの彼女に噛みついたのは『ウィシュプーシュ』って魔物だね。確かに棲み処的には、こんな場所にいるのはおかしいけど……いや、こっちのガ・ガアーも……っと、それよりも、新しい魔物っ!」
マニュアも再度、攻撃態勢(歌)に入る。
「違いますよ。あれは、私の友達です」
「…………へ?」
少女の思い掛けない言葉に、思わず間抜けな声を漏らすマニュア。みんながパニック状態の中で、少女は1人冷静だった。
彼女は現れた鳥型の魔物――ガ・ガアーに言った。
「ありがとう。見つかったの?」
ガ・ガアーは静かに頷いた動作を見せると、空を旋回し、着いてこいと言わんばかりに首を振った。
それに、少女に噛みついた魔物――ウィシュプーシュは迷った様子を見せたが、決意したようにだっとガ・ガアーの後について走り出した。
そして、一瞬立ち止まると振り返り、一声鳴いた。「ありがとう」とでも言っているように――。
やがて、2匹の魔物の姿は見えなくなった……。