ぶつかってこなかっただけ良し
日が昇り、新しい朝が訪れた。
朝食を取ってから、マニュアとティル、そしてピュウの2人と1匹は町へと繰り出してみた。ついでに買出しも兼ねている。
イグニスの町を歩きながら、マニュアは言った。
「なぁんか……新しい仲間に出会いそうだなぁ」
「え? なんで?」
ティルの問いに、マニュアは自信あり気に答えた。
「だーって、今まで、外に行ったタイミングで仲間になったのっていっぱいいるじゃん」
「あ、そっかぁ」
考え方がなんとも安直である。
と、その時。
「ファイアー!」
ボウッ!
広場で魔法を使う少年が1人。
それを囲むようにして大勢の少年達が口々に言った。
「凄いっ! 流石ヤンさん!」
「魔法ではヤンさんが1番だ」
「まだ他に使えるんですかっ!?」
「あぁ。四大元素の基本の魔法は使えるな。あと……」
『ヤン』と呼ばれた少年……背がとても高くすらりとしているが、歳はマニュア達と同じくらいだろうか? ……少年は、得意気にそう答えていた。
――マニュアの安直な考えは、当たったかもしれない。
(こいつ……! 魔法使い……)
マニュアは何を思ったのか、突然ヤンの前に飛び出すと、
「魔法なら、私だって……! ファイアー!!」
と、格好だけ付けてみた。
……しかし、何も起こらなかった。
「……ふっ。まぁわかってたけどね」
広場にいた少年達は、呆気に取られた様子でマニュアを見ていた。
ヤンだけがマニュアに向かって、
「なんだ? オメー」
マニュアはすかさず答えた。
「よくぞ聞いてくれました! 私は『マニュア・ホワイト』!!」
「……。俺は『ヤン・サンド』」
少年――ヤンも名乗る。
それに、ティルやピュウも横から割って入った。
「私も聞いて! 私は『ティル・オレンジ』だよー!」
「『ピュウ』ピュウ!」
見たこともないピュウの姿に驚き、ヤンは訊く。
「な……なんだ? こいつ……」
「『ピュウ』だよー! 毛玉族なんだ!」
「なんだそりゃ?」
マニュアの返答にもよくわからないといった様子のヤン。
そんなヤンを無視して、マニュアは自分の要求を言い放った。
「とにかく聞いて! あんた、力になるかも!?」
「は?」
「さ、ついてこい~~~~~~~~っ!!」
「おい――――――――――――――――っ!?」
ヤンの都合などお構い無しに、マニュアはその腕を掴むと、宿まで引っ張っていってしまった。
その後ろで、ティル他少年達はただ呆然とその光景を見ていた。一瞬の出来事に、瞳には驚きの色を浮かべて……。




