完全に思い出してしまった
「ホワさん、お昼ご飯は……」
震えるマニュアに、どこか遠慮がちにアリスが尋ねる。
瞬間、マニュアの震えは止まり、
「め――し――――――――――っっ!!」
と叫んで部屋を飛び出ようとするのだった。
(びっくりしちゃったけど……いつものホワさん、だよね?)
少し安心して、後をついていこうとするアリス。
と、そこでマニュアの動きが止まった。
「……ごめん。やっぱり、先に言ってて。1つやる事忘れてた」
「……ホワさん?」
アリスは訝しげに彼女を見つめたが、小さく溜め息を吐くと1人で部屋を出ていった。
その後ろ姿を見送ると、マニュアは先程机の上に置いたペンダントへと向かい、言った。
「聞こえてる? お父さん。私は魔王を倒す旅に出てるんだ。だから……クソ親父や――ミリアの言い成りになんてなれない!!」
『――なんだと?』
ペンダントの向こうから再び声がする。
その途端、また意識が薄れそうになる。
(――……っ! しっかり、意識を保たないと……!)
『それで……誰の言い成りにならないって??』
「クソ親父」
意識をしっかり保たせようとしつつ、あっさり暴言を吐くマニュア。
『ふ、ふざけるな!! いいか!! おまえは魔族の1人なんだぞ! この世界を魔の世界――魔界に変えるのだ! それには人間が邪魔なのだ!』
「へいへい」
『真面目に聞けっ!!』
ペンダントの声はぶち切れている。
マニュアは反論する。
「真面目に聞いてるよ。大体なんで人間に危害なんて加えなきゃいけないわけさ? 別に人間の世界――人間界に人間がする時、魔族に危害を加えたわけじゃないでしょうに」
『そ、そうだ……だが! 人間は魔物をどんどん殺しているんだぞ! 私等が動物を殺したわけではないのに、だぞ!』
「でも、その魔物は何人もの人間を殺してる。それに元々魔物は魔界の生物なのに人間界に出てきてる時点でおかしいっていうの。そもそも、神様からそれぞれの土地が与えられたんだから、そのままでいいじゃない」
『うるさい!!』
反論できなくなって、ペンダントの声はヒステリックに叫ぶ。
『とにかく! この世界から人間を消滅させるのだ! そして、人間界をなくして魔界にするのだ! いいな、わかったか!?』
「ほいほーい」
当然そんな事はやる気のないマニュア。正しく仲間達といる普段のマニュアのままで、ペンダントの声に答えた。
『聞いてるのか! おまえ人間の味方か!』
その言葉に、マニュアは力強く答えた。
「…………うん!」
『なっ……! なんだと……!?』
ペンダントの声はとうとう我慢できなくなり、
『許さんぞ、ミリア!! くそ、効果が切れてきたのか……!? こうなったら、またこのペンダントで……』
ペンダントの向こう側で何か仕掛けようとするかしないかの間に、マニュアは口から発した。
「ディストラクション アタック!」
『ミ、ミリアッ! 何をっ……!? うわあぁぁぁぁっ!!』
次の瞬間には、もう、ペンダントは壊れていた。
そのペンダントを見つめ、マニュアはぽつりと呟き、頭を掻く。
「……呪法、完全に思い出してしまった」




