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グローリ・ワーカ  作者: 川柳えむ
第5章:ペンダント
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2人だけ通じる世界

 翌日――。


「あー! 気持ちいい!」


 宿を出てすぐ。アリスが空に向かって大きく伸びをした。


「うーん……」

「まだ唸ってるな」


 ティルは納得のいかない表情で唸っていた。

 ニールや他の皆は全く気にしていない様子。


「もうちょっと気にしてよぉー!」

「あー?」

「だってだって、マーを呼びに行って、その後何があったか思い出せないんだもん」

「ま、まだ言ってんの? ほら、まぁ、確かに思い出せないとイラつくけど。ホ、ホラ! 時には諦めも肝心でしょ! それに、相当疲れてたみたいで寝ちゃったって言ってるじゃないかぁ」


 マニュアがティルに言う。

 ティルはそれでも納得がいかないようだ。眉間に皺を寄せてブツブツと何か呟いている。


「おい、おまえらー! 早く。そろそろ買い物行くぞー!!」


 道の少し先の方からストームの声がする。


「あ、ちょっと待って~!」


 アリスがそっちに向かって駆け出す。

 ティルも慌てて走り出した。


「なんだかんだでティルちゃんも元気だなぁ」

「おい、ホワイトもさっさと行くぞ!」


 ニールに促され、マニュアは大きく頷いた。


「あ……うん!」


 駆け出し、ストーム達に追いついた丁度その時。


「わぁっ! 魔物だぁっ!」

「お助けぇ!」

「また出たの!?」


 昨日の魔物なのか、どうやらまた姿を現したらしい。

 町の外れの、裏の通りから叫び声が上がっている。


「10000C返してくれとか言われちゃ敵わない! よし。私の歌で……!」


 声の方へ向かいながら、マニュアはマイクを取り出した。


「それだけはやめてくれっ! 魔物がかわいそうだ!」

「ストーム!? どうしてそんな事言うの!?」

「とにかく、やめてくれ」


 ストームは泣いている。


「じゃあどうするの? 近付いたら、またブレスの餌食だよ?」


 そんな会話をしていると、裏の通りに出た。

 ――魔物とご対面か!?

 そう身構えた瞬間!


 パシュン……!!


「うをっ!?」


 ストームの前を、1本の矢が通り過ぎていった。


「あ、危ねぇ……!」


 その矢は、魔物の額に見事突き刺さった。


「ギャアアアアアアァァァァ!!」


 魔物の叫び声が響き渡る。

 その様子を目の前で見てしまったティル。


「!! あっ…!」


 ティルにはショックが大きかったのか、暫くの間、口の聞けない状態だった。


(ティルちゃん……もしかして、自分が一部魔族だと知った時よりショックが大きかったりする!?)

「昨日は手こずりましたが……もう少しで倒せますね!」


 その矢を放ったであろう人物が姿を現した。


「おぉ!? か、かわいいっ!!」


 その人物は、1人の女の子だった。

 大きな瞳を持った可愛らしい顔立ちをした子で、髪を1つに結わえ、先程の矢を放ったのであろう弓をその手に持っていた。

 ストームの反応に、


「って、ストーム!!」


 思わず頬を抓り上げるティルだった。


「いてててててて!!」

(……でも、簡単に元に戻るんだな、ティルちゃん……)

「……ア、アルト!?」

「って、えぇぇ!?」


 アリスが少女の姿を見て、その名を呼んだ。

 そう。それは、どうやらアリスの探していたその人だったようだ。


「面影が残ってる……アルト、そう、アルトだよ!!」

「え……? 誰……!?」


 驚いた様子でアリスを見る少女。

 アリスは続けた。


「アルト……! あなた、アルトでしょ!? 私の事、覚えてる……?」

「あなた、私の事をどうして……? ……もしかして……!」


 そう小さな声で呟いたかと思った次の瞬間! 少女は両手を広げ、


「アイ・ラブ・ダーリン!?」


 意味のわからない言葉を発したかと思うと、それに反応するかのようにアリスも手を広げ、


「あんた、だーりん!?」

「イエス! マイ・ラブ!!」

「「グッ!!」」


 最後は、2人共お互いに親指を突き立てた。

 ――2人だけ通じる世界に、他の皆は固まっていた……。


「え、これ、挨拶……!?」

「い、意味わかんねぇ……」

「私も……」

「何だ、この世界……!」


 驚愕して、恐ろしいものでも見ているかのような、リアルな表情だ。


「もしかして、アリスちゃん!?」

「そうだよ、アルト!! 思い出してくれたんだ!」


 2人の世界から戻ってきたように、少女がアリスに向かって名を呼ぶ。

 アリスは嬉しそうに頷いた。


「グァ――――!!」


 皆に忘れ去られた魔物が声を上げた。


「うぉ! マジで忘れてたよ!」

「……と、詳しい話は後! やっつけるよ!」


 アリスの探していた友達であるアルトらしき少女は、矢を再び構えると、躊躇なくそれを魔物に向けて何本も放った。


「あ、だ、駄目っ!!」


 ティルが口を開いた。が、時既に遅し。


「ぐぁぁ……!!」


 ドォォォォン……!!


 その矢は見事胸に突き刺さると、魔物はその場に鈍い音を立てて倒れた。


「そんな……魔物だって……きっと、理由があったんだと、思う……」


 ティルは涙を流しながら座り込んだ。

 見兼ねたマニュアは、ティルに手を差し伸べると、


「ティルちゃん……私、思ったんだけど。確かに魔物にも何か理由があったのかもしれない。けど、このままじゃ町の皆が困るでしょ? やっぱり人に迷惑を掛けられっぱなしじゃ、こっちだって何か対策を考えなけりゃならないの。そうでしょ?」


 ティルはゆっくりと頷いた。


「それに……もう過ぎちゃった事はどうしようもない……。魂が幸せな場所に行けるのを願う事しかできない。ね、今度生まれてくる時は人間で、幸せに暮らしてくれるといいね」

「……うん!」


 ティルは涙目でも笑いながら再び頷いた。


「さてと」


 マニュアは切り替えが早い。


「で、えーっと、アルトさん……だっけ? アリちゃんの探してた? 間違いない?」

「あ、そうなのだけど……」


 アルトの代わりにアリスが答える。


「でも……ここじゃなんだから、詳しい話は、あそこの宿で! 後で来てくれる?」

「はい。良いですよ」


 アルトが頷く。

 そうして、再び宿に向かう事となった。


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