ある町外れでの出来事
「皆さん、ありがとうございました」
メテオがマニュア達に深々と頭を下げる。
マニュア達は慌てて、
「いえいえ。元はと言えば、私達が目を離したのが原因ですから!」
「でも、皆さんのおかげで無事に戻る事ができました。特に、ヘリオドールを助けてもらった事に関しては――感謝してもし切れない」
メテオが笑顔で言う。
意識を取り戻したヘリオドールも頭を下げた。
「本当にありがとうございました」
慣れない応対に、マニュア達はとにかく照れるしかなかったのだった。
「――ノア」
トーンが、ノアに声を掛けた。
ノアが振り返る。
「トーン君……」
「あ――……」
トーンが何かを言いかけ、躊躇い、そして言ったのは――
「お、俺は謝らないからな! おまえも行くって言ったんだからな!」
「う、うん……」
トーンの迫力に圧され、ノアが頷いたその瞬間。
ゴン!!
なんとも良い音が響いた。
最初はメテオに文句を言っていた、トーンの父親であるその男が、トーンの頭を思い切り拳固で殴っていた。
「――――ッ……!! 痛ぇな! クソオヤジッ!! 何するんだよ!」
「何するんだよじゃない!! あれだけ山には近付くなと言ってあったのに! おまえの我儘がどれだけ人様に迷惑掛けたと思ってるんだ! ノア君に謝るんだ!!」
男が怒鳴る。
思い掛けない行動に、皆唖然としてしまった。
あれだけ最初に文句を言っていた男が、こんな事を言うなんて。
男は、トーンの頭を無理矢理押さえて下げさせ、自分も深く頭を下げた。
「こいつの我儘、更にこちらの勘違いで大変な迷惑を掛けてしまい、本当に申し訳ありませんでした」
「…………」
「トーンも謝るんだ」
「……ごめんなさい」
頭を下げたまま上げようとしない男。メテオは慌てて、
「い、いえいえ! そんな! こちらこそ、ノアが着いていってしまったのはトーン君だけの所為ではないので! ……どうか、頭を上げてください」
「本当に――」
男は頭を上げて、申し訳なさそうに笑った。
「――魔族は悪い奴ばかりだと決め付けていたが、そうじゃないんだな。今まですまなかった」
メテオとヘリオドールは一瞬驚いた顔をして、互いに顔を見合わせて微笑んだ。
その後ろでは、
「ノア……ごめん」
「トーン君……でも、僕、ちょっとだけ楽しかったよ」
「――そうかっ!」
ノアとトーンが笑顔で話していた。
こうして、少しずつでも、人間と魔族の距離が縮まればいい。それを少し離れた場所から見ていた5人は、そう感じた。
***
「本当に、お世話になりました」
その翌日。また旅立つマニュア達に、メテオとヘリオドールが頭を下げる。
「いえ! それはこちらのセリフです!!」
思わず恐縮してしまう。
なんて人間のできた人達なんだ。いや、魔族だが。
ヘリオドールの後ろに隠れたノアが5人を見上げ、恥ずかしそうに言った。
「あ、あの……」
「ん?」
「……あの――また、遊びに来てくれる?」
なんとも可愛らしいお願い。
5人は笑顔になって、
「勿論! また遊びに来るよっ!! だって、友達でしょう?」
ノアの表情が明るくなる。
そして、笑顔で答えた。
「うんっ!!」
それは、ある日、ある時。旅の途中。ある町外れでの出来事であった――。
***
「ピュウピュ……」
(出番なかった……)




