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グローリ・ワーカ  作者: 川柳えむ
第4章:人間と魔族
32/46

満場一致で5番以外

 ザシュッ……!!


 思い切り目を瞑った2人の耳に、何かを切り裂く音が届いた。

 恐る恐る目を開けると、そこには――


「お母さん……っ!!」

「ヘリオドールッ!!」


 2人の子供を庇ったのであろうヘリオドールが、肩から胸に掛けて斜めに血を流していた。

 メテオが慌てて駆け寄り、倒れるヘリオドールを抱え上げる。


「ヘリオドール! ヘリオドール……!!」

「ヘリオドールさん……!」


 マニュア達も慌てて駆け寄る。

 そこへ再度魔物の爪が振り下ろされる!

 それを、マニュアが手に持っていたマイクで受け、何とか防いだ。


「くぅっ! マイクに傷がぁ」

「任せろ!」


 ニールが魔物に向かって殴り掛かる。ストームも一緒だ。

 ストームは上着の内側からナイフを何本か取り出すと、それを魔物目掛けて一気に投げ付ける!


「えい! 短剣3本一気投げ!!」


 安直な名前をつけた技で、少しずつ、だが確実に魔物に怪我を負わせていく。

 ニールも、盗賊団にいたと言う割には力技担当なのか、魔物を殴り続け、魔物の体力を削っていく。


「よし! 任せた!」


 その様子を見たマニュアはあっさりとその場を2人に任せ、後ろを振り返った。

 その視線の先では、


「ヘリオドール……!」


 ヘリオドールが血を流したまま動かない。このままではまずいかもしれない。

 そんな時、突然アリスが踊り始めた。


「アリス、ちゃん……!?」


 皆が驚いてアリスを見る。

 不思議な事に、皆の体力が少しずつ漲ってくる感じがした。


「これは――」


 暫くアリスは踊り続け、周りの者はそれをぼうっと見ていた。

 アリスの踊りが終わる。


「癒しの舞い。気休め程度ですけど、少しは楽になったと思います」


 アリスは言った。

 癒しの舞い――何か魔力でも付加されているのであろう。その名の通り、癒されるように体が少し楽になった。

 だが、ヘリオドールの状態が危険な事には変わりない。


「お母さん……! お母さん……っ!! ごめんなさい……!!」


 ノアが泣きながら母にしがみ付く。トーンはそれを青い顔で見ていた。

 今度は、突然ティルが何かを召喚した。


「セクアナ!!」


 現れたそれはヘリオドールの周囲を浮遊し始めた。すると、ヘリオドールの傷が少しずつ消えていく。


「これは――?」


 呆然と見つめるメテオ。

 マニュアは驚いた様子で言った。


「これは……セクアナ――治癒の精霊!? ティルちゃん、精霊も呼び出せたの!?」


 思わずティルに詰め寄る。

 ティルは何が何だかわからない様子で、


「え、えっと、何か……魔物と違うの?」

「え、えぇ!?」

(ティルちゃん、魔物も精霊も区別付かずに呼び出してるのか……)


 何だか呆れてしまうマニュアだった。だが、すぐに真面目な顔になり、


(それにしても、精霊まで……。すごい魔力だな……。いや――)

「マ、マー。どしたのー?」


 ティルがマニュアの顔を覗き込む。マニュアは驚き、慌てて、両手を左右に振る。


「あぁ、いやいや。何でもない」


 その間に、ヘリオドールの傷はすっかり癒えていた。

『セクアナ』と呼ばれた精霊は役目が終わるとすぅっと姿を消していった。


「ヘリオドール……」


 青褪めたまま、目は覚まさないが、何とか生きているようだ。力強い鼓動が聞こえる。

 ティルが言う。


「えっと、一応、傷を治してくれる――その、精霊だったの? ――呼んだから、多分大丈夫」


 メテオはヘリオドールをぎゅぅっと力強く抱き締めると、


「ありがとう……ございます……っ!」


 そう言って、涙を流した。


「お母さん……!!」


 ノアも母にしがみ付き、今度は安堵の涙を流した。

 親子3人の間に、温かい空気が流れていた。


   ***


「和んでる場合じゃねーぞ!!」


 ストームが叫ぶ。


「どうすりゃいいんだ!?」


 ストームとニールは体に傷や痣を作りながらも、戦闘を続けていた。

 魔物も、お互い相当体力を消費しているようだ。


「どうすればいいか!? そりゃぁ……ヘリオドールさんをこんな目に遭わせたんだ、倒してしまえっ!!」


 マニュアが言う。


「え、でも……!」


 異議あり! と言わんばかりのティル。

 マニュアは少し考え、


「じゃあ選んでくれ!

 1.ストームとニールが頑張って倒す。

 2.アリスちゃんが踊りで何とかする。

 3.ティルちゃんがどーにかする。

 4.誰か囮になってどっか連れてく。

 5.歌う。

 さぁどれだ!?」

「「「「とりあえず、5番以外」」」」


 満場一致。


「ナゼっっっっ!?」


 涙目のマニュアだった。


「私に良い考えがあります」


 メテオが突然言った。


「良い考え?」


 メテオが頷いて言うには、


「皆さん、出口まで走れますか?」


 洞窟の出口は魔物の後ろ側。ダッシュで走って切り抜けられるかどうか。

 だが、やるしかない。

 皆は頷き、タイミングを見計らう。


「今だ!!」


 魔物が隙を見せた一瞬、メテオの掛け声に合わせ駆け出す。メテオもヘリオドールを抱きかかえながら走り出す。

 その後ろを魔物が追ってくるが、それよりも少し早く洞窟を抜け出した。

 洞窟の前で立ち止まって振り返り、


「ニール君、そちら側の洞窟の天井を破壊してくれ!」

「おぅ!」


 ニールとメテオが2人掛かりで洞窟の入口を壊す。

 天井が崩れ、魔物は洞窟へと閉じ込められてしまった。


「ふぅ……これで暫くは出てこられないだろう」

「た、助かったぁ……」


 皆はその場にぐったりとへたり込んだ。なんとか、助かったんだ。

 ――そうして、夜が明ける前には町へと戻る事ができた。


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