嫌な予感しかしない
「やったー!! 無事着いたぁぁぁぁ!!」
町へ着くなり、大声を上げるマニュア。
結局森ではなんとも運が良く、魔物1匹すら遭わずに、無事ティロまで辿り着いたのだった。
「しかし、疲れたー! さぁー宿行こ宿ー!」
そう元気に言いながら、財布の中を覗いた。途端に固まる笑顔。
「お、お金ないや、少ししか……! 50Cしかないっすよ……」
Cとはこの世界でのお金の単位だ。国ごとに違わないか? と訊かれても、違わないのである。
大体1C=10円くらいだと思ってもらえるといい。
「こんなんじゃ泊まれないよね……」
がっくりと膝をつく。
もしかしたら、ボロボロ廃屋のお化け屋敷みたいな宿くらいなら泊まれるかもしれないが。当然そんなものに泊まろうとは思わない。
「あぁ、どうすりゃいいんだ……」
また、宿に泊まれなくても手段はある。野宿だ。
しかし、野宿ということは、いつ魔物に襲われてもおかしくはない。
数人いるパーティーならば1人ずつ交代で見張りをすればいいものだが、マニュアはまだピュウしか連れていない。
「ピュウ、ピュー……」
「ん? 野宿するなら見張りしてくれるって? いいよ、大丈夫。ありがとうねー」
励ますように鳴くピュウの頭を、マニュアはポンポンと優しく撫でた。
「さて、どうしたもんか……。あと、あるとしたら――」
他の手段といえば、お金を稼いで宿に泊まることだ。これが1番現実的か。
日払いのバイトなんてのもあるかもしれないが、ここは冒険者らしく懸賞金の懸けられた魔物退治がベターだろう。
「日払いのバイトするかー」
全く冒険者らしくないマニュアだった。
***
さて、いいバイトでもないかと町の入口にあった掲示板を覗く。掲示板の前に突っ立ってあーだこーだ考えていると、町の奥の方から何やら地響きが聞こえてきた。
「ん?」
ドドドドドド……。
なんだかだんだんと近付いてきているようだが……。
「何?」
砂煙を上げ、奥から姿を現したものは――
「あ、あそこにいるお方は!? 見るからに冒険者っぽい!」
「だが、まだまだガキんちょじゃないか!?」
「いやいや、背に腹は変えられんじゃろ!!」
「助けてくだされ~~~~!」
「え? なんか嫌な予感」
マニュアの視線の先、そこには……どう見ても非力なただの町の人。町人Aとか名前が付いていそうなタイプの人々が見えた。
「こ、この展開は……」
町人は突進してきたかと思うと、あっという間にマニュアを取り囲んだ。
「ヒィッ!! すいません! 宿にタダで泊まる気なんて、ちょこっとしかありません!!」
思わず謝ってしまうマニュア。今、とんでもない事を白状した気もするが……。
そんな言葉は耳に入っておらず、町人は一気に捲し立てた。
「冒険者の方ですね!?」
「え、あ」
「魔物が町を襲うんです!!」
「な」
「どうか助けてください!」
「ちょ」
「さぁ、こちらです!!」
「はい!? ま、待っ…………!!」
所々に入っている情けない声は、当然マニュアの声。
町人は返事をする間も与えず、マニュアを魔物の所まで引き摺っていくのだった。
「たーすーけーてぇぇ~~~~」