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グローリ・ワーカ  作者: 川柳えむ
第3章:災難・その後
23/46

出会いはお約束の

 ――結局。

 ピュウが「任せて!」と言わんばかりに、1匹宿屋へ跳ねて行く。暫くすると戻ってきて、一声鳴くと、尻尾から全ての荷物を取り出した(勿論部屋の鍵もそっと置いてきている)。


「ピュウ! でかした!!」

「ピュゥ~!」


 嬉しそうに鳴くピュウ。


「そ、その生き物は一体……?」


 アリスが不思議そうに見る。ティルも、


「尻尾が四次元空間でたくさんの荷物収納可能? ど、どうなってるんだろう……」


 呆然とピュウを見つめるのだった。


   ***


 そんな色々な出来事のあった翌日――。


「あまり表立って歩けないから、今日にでも町を出ないとねー。アリスちゃんも親から許可貰えた事だし!」

「まぁちょっと大変だったけどね……」


 流石に年頃の女の子。危険な旅には行かせられないと、最初は反対されていたものの――アリスの必死の訴えに、両親は渋々承諾したのだった。

 そんな風に昨日の事を話しながら、人通りの少ない道を4人と1匹は歩いていた。

 ……と。


 ドドドドドド……。


「ん? なんかこの音を聞くのは3回目くらいな気がするぞ」

「まさか……」


 そう。その『まさか』である。


 ドッシーン!!


「なんでいつも私がぶつかるの……」


 マニュア、2度目の激突。


「いってーな! ぼーっと歩いてんじゃね――って、げ!! 昨日の奴等!!」

「あーっ!? 昨日の泥棒集団――っ!?」

「泥棒!?」

「泥棒って言うな! 俺達は盗賊団だ!」

「おい! 盗賊と泥棒を一緒にすんじゃねーよ!」

「どうやって抜け出したのぉ!?」


 各々驚いたり言い合ったりしている。

 盗賊団(?)のボスらしき少年は偉そうに笑って言った。


「ふんっ。あんなの物の10分もあれば抜け出せるぜ!!」

「威張れる事か! ……って、あれ、あらら? あーっ!! もしかして!」


 突然マニュアが奇妙な声を上げた。


「どーしたの? マー……」

「やっぱり――ニール!!」


 盗賊団の中にいる1人の男を見て、その名を呼んだ。

 男は驚いた表情で、


「は? え? なんで俺の事知ってんの?」

「ニール、ドラコって町から引っ越してったでしょ!!」


 ドラコ――それは、ここからおよそ100キロメートル程離れた、隣国にある町。マニュアの故郷だ。

 ニールと呼ばれた男は惚けた表情で、


「え? おめー……? いたっけ??」

「忘れてるのかい!! 私の事、変なあだ名で呼んでたくせに!」


 マニュアがそう口走る。

 ニールは少し考えた後――


「あぁ。おまえ――」

「うわー!! あだ名は言わなくていいよ!」


 慌てて言葉を遮る。

 ティルが不思議そうに――というよりは、興味津々で、


「え? あだ名? なにナニ!?」

「聞かなくていいし!」

「えー?」

「んで、誰なんだ?」


 ストームに聞かれ、仕切り直す。


「こいつは『ニール・クラベット』。昔の知り合い」


 マニュアが紹介した。

 ニールは軽く頭を下げる。


「おまえも来てよ!」


 いとも簡単に、マニュアはニールに言った。

 ニールは何の事だかわからず、


「え? 俺も? 何しに行くんだ?」


 マニュアは満面の笑顔で天に向かって人差し指を突き立てると、


「魔王を倒しに!」

「「「「えぇぇぇぇぇ――――っ!?」」」」


 その言葉に、マニュア以外の全員が叫んだ。


「……ナゼにティルちゃん達まで騒ぐの?」


 マニュアは不思議そうな顔。

 ティルは慌てた様子で手をぱたぱたさせていた。


「聞いてないよ!?」

「あれ? 言ってなかったっけ??」

「私は魔物と人間を仲良くする為に旅してるだけだしぃ!」

「俺はオレンジにくっついてきただけだ!」

「わ、私は幼馴染を探す為です」


 皆がそれぞれ別の理由を口走る。

 各々にわーわーと騒ぐものだから、さっぱり収拾がつかない。

 それをマニュアが制止した。


「まーまーまーまー……」

「おまえが変な事言い出したんだろ!」


 ストームがツッコむ。それを無視して、


「まずはティルちゃん、考えてみてもくれ。魔王がいなくなれば、この人間と魔物の隔たりも、多少はなくなるとは思わないかね?」

「た、確かに……」


 ティルはゆっくりと頷いた。

 マニュアは次にストームの方を向き、


「ストーム。魔王を倒せば有名になれるぞ」

「俺、行くわ」


 あっさりした返事を返すストームだった。

 その返事を確認し、最後にアリスの方を向くと、


「そして、アリスちゃん。君はお友達を探しに行くって事だけど、見つかるまでは一緒だからね。見つからなかったら、そのままついてくる事になるわけ」

「うー……」


 アリスは少し迷っている様子。

 それを無視して、元気良く。


「というわけで、魔王を倒しに行くのだ!」


 ぐっ! と拳を突き上げる。


「でもさ……なんで魔王を倒しに? そりゃ勿論、魔王なんていない方がいいけど……」


 ティルが尋ねる。


「それは――」


 言葉に詰まる。マニュアは視線をどこか宙に泳がせた。


「どうせ、かっこいーとかおもしろそーだとか、そんなだろ?」


 ストームが言う。が。


「ストームに言われたくないな、それ」

「というか……私達なんかで倒せるものなの……?」


 アリスの核心を突いた質問。

 マニュアは心に1000のダメージ!


「うぐ……っ!! そ、それは、これからレベル上げるよ!」


 その横で、


「てか、こいつら冒険者かよ」

「でも――な、なんか……面白そうだな……」

「おい! 俺達も連れてってくれよ!」


 残りの盗賊がそう言い出した。

 マニュアは驚いた顔をしてから、少し考えて――


「じゃあさ。このトランシーバー……」


 と、ピュウの尻尾からトランシーバーを取り出した。

 この世界のトランシーバーとは、かなりの遠方でも会話ができる――いわば、携帯電話のような物である。

 それが何故ピュウの尻尾に入っていたのかは謎である。


「これで必要な時に呼ぶから。待ってて」


 そう言い、そっと盗賊団のボスらしき男の手に置いた。

 男は少し不満そうな表情ながらも、


「わかった」


 と大人しく頷いた。

 今までと比べたら、随分素直である。


「実はな――」


 突然盗賊団の1人が言い出した。


「この人は冒険者に憧れているんだ」

「あぁ……そーゆー……」


 その言葉を聞き、マニュアは盗賊団のボスの突然の態度の変わりようになるほどと納得したのだった。


「あ、そうだ! 冒険の足しになるかもしれない!!」


 盗賊団のボスはポケットをごそごそとやると、そこから何かを取り出した。


「これ、やる」


 そう言って、マニュアの手に置かれた物は――


「これは――1000C?」


「そうだ」

「ありが――」


 ――とう。と言いかけて、はた。と気付いた。


「……お~ま~え~ら~」

「へ?」


 盗賊団のボスは、何が何やら。わけがわからないといった顔。


「そのお金――宿屋で盗んだ物じゃぁないだろうな?」

「あ……そういえば……」


 その言葉に、ティルは思い出した。

 彼らが夕べ宿屋で盗みを働いた際に、そのまま放置してしまっていた事に――。


「そうだが……。はっ! まさか!!」

「お~れ~ら~の~か~ね~」


 マニュア、怒りのあまり男言葉になっている。


「お、『俺』? 人格変わってるよぉ!?」


 他の皆も引いている。


「このやろー! 昨日、結局泊まれなかったんだぞ!!」

「それは俺等の所為じゃねー!!」


 一触即発。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴ……。


 マニュアからは殺気が溢れている。


「わ、わかった! 金は返す! でも冒険の足しはナシだー!」

「なんだと――――!?」

「いや、それは別にいいと思うよぉ!? とりあえずお金返してもらったんだし!」


 マニュアの人を殺しかねない勢いに、盗賊達は物凄い勢いで逃げていった……。


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