新しい国へ
「っていっても、まだ7人じゃないけどね!」
いきなりのセリフ。これは『マニュア・ホワイト』。
彼女は魔王を倒す為にたった1人、旅に出た。背が低く、薄いグレーのショートカットヘアが特徴の、まだまだ幼い少女である。幼いとはいえ、もう13歳ではあるが。
「今はまだ7人じゃなくて1人――いや、1人と1匹なのだよっ!」
先程からメタな独り言を喚く彼女は、今度は手の平に乗せたその『1匹』をよく見えるようにと(誰に向かって?)高々と掲げた。
「このコも一緒! ね、ピュウ」
「ピュウピュウ!」
『ピュウ』と呼ばれたその生き物は、黒い毛で覆われた丸い体に、ちょこんと覗く小さな猫のような耳。そして、細い尻尾の先には丸い毛玉。顔の真ん中につぶらな瞳と、茶色い鼻の横にはピンと張った髭。さらに、その真ん丸の体に、一体どうやって着けているのか? 蝶ネクタイをしている。
その手の平サイズの生き物は、かわいらしく鳴いた。
「このコね、この間、ラヌゴって町のペットショップで見つけたんだよ。今は、そこから次の町へ向かってるとこ。ねー」
「ピュウ! ピュピュウ!」
1人と1匹だというのに、賑やかに歩いていく。
しかし、「ピュウ」としか鳴かないピュウの言葉が、なぜマニュアにはわかるのだろうか?
「それは私のピュウへの愛だよ~」
今度は1人で悦った表情。
そんなこんなでワイワイしているうちに、森が見えてきた。
「地図によると、この森を抜けると次の町――新しい国だね! エレクトロニカっていう国のティロとかいう町だよ! エレクトロニカに入るのかー」
エレクトロニカとは大きく、工業で有名な国である。
人が多い所為か自然と魔物も寄ってきて、日々の争いは耐えないという――。
「うわー。新しい国、楽しみだなー」
はしゃぐマニュア。彼女は、完全にある事に気付いていなかった。
「ピュウー!」
「? ピュウ、何?」
ピュウは訴える。「マニュア、君は今からそこに行くんだよ?」と――。
「――はっ! 気付かなかった! ってことは……!」
待ち受ける未来は、マニュアVS魔物! である。
「やだー!!」
魔王を倒す為に旅に出たくせに、何を泣き言言っているのだろうか。
「うぅ……」
「ピュウ……」
諦めて、半べそで森へと踏み込むのであった……。