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グローリ・ワーカ  作者: 川柳えむ
第2章:災難
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町の過去

「……凄いね……。前に来た、あの冒険者達とは違う……」


 目の前で起きた出来事に、リナがぽつりと呟いた。

 地獄耳マニュアはそれを聞き逃さず――


「何!?『あの冒険者達』って、誰の事!?」

「き、聞こえてたのっ!?」


 詰め寄るマニュアに驚くリナ。

 マニュアは人差し指を立て、ちっちっちっとポーズを取った。


「地獄耳マニュアちゃんを甘く見ちゃいけません。部屋の端から端まで、その真反対にいる人の声まで聞き取れるんだから!」

「そ、そうなんだ。凄いね……」

「で、昔、あの町で何かあったの? なんであんなに冒険者を毛嫌いしてるわけ? それって、もしかして『あの冒険者達』とかいうのに関係してるの?」


 マニュアの言葉に、リナは俯いた。

 そして……ゆっくりと頷いた。


「……何が、あったの?」


 ティルが静かに訊くと、リナはこの町で起こった過去の出来事をゆっくりと語り始めた――

 この町の住人が冒険者を嫌っている理由。それには、悲しい訳があった……。


   ***


 それは、今からおよそ10年前の事――。

 森の中にある町はいつも平和に暮らしていた。それは、人々も魔物も、お互いの住む領域を侵害せずにいたからだ。

 しかし、ある日。外から来た冒険者によって、それは崩れてしまった。

 迷いの森と呼ばれるこの森で、冒険者達は暴れた。

 それに怒った魔物達が、町に襲い掛かってきたのだ!

 襲い掛かってきた魔物は水に弱かった為、それを知っていた冒険者はその魔物に向かって水の魔法を放った。

 冒険者達は強かった。その力で、魔物達を一掃した。……だが、力が強すぎたのだ。

 強力な水の魔法は、魔物を含め、人を――町の一部を飲み込んだ。

 人々は叫び、もがき苦しみ、いくらかはどこかへと流されてしまった。

 冒険者達はそれを助けようともせず、そのままその場から去って行ってしまった。

 残された町の人は成す術もなく、ただただその光景に耐えていた……。

 ――そして、今も。そのときの出来事はトラウマとして町の人々の胸から消えることはなく、冒険者の姿に怯えているのだった。


   ***


「今は、町に住む強大な魔力を持った魔法使いのおかげで、強力な結界を張っているから――魔物が襲ってくる事はないんだけどね」


 その話を聞いた3人の反応は――


「……かわいそう……」

「はぁー? なんだそのクソ冒険者共は! でも……それじゃぁ、冒険者を嫌っててもしょーがねーな……」

「ってかさー。まず、なんでこんな場所に町を作ったのかってのが問題だよね?」


 1人だけKY(空気読めない)なマニュアだった。


「それは、ずっと昔からある町だから。最初に作った人に訊いて……」


 リナはそれに苦笑いを浮かべ、


「――とまぁ、そんな事があってから、この町のみんなは冒険者を嫌うようになっちゃったんだよね……」


 それから少し寂しそうにそう言った。


「リナちゃん……。その割に、君は私達に声を掛けてくれたよねぇ……。なぜ? 君は冒険者が怖くないの?」


 思わず疑問に思ったことを口にしてしまった。それを言えば、もしかしたらリナはもう近付いてきてくれないのかもしれないけれど。

 だが、マニュアの問いに、リナは微笑んだ。


「……私は、いつまでも冒険者を嫌ってちゃいけないと思うんだ。だって、あの人達とあなた達は違うでしょ?」

「…………そっか」

「それに、冒険者は怖い人ばかりじゃないって。それはきっと嘘じゃないって、知りたかった。今、それがはっきりと確信できたよ。ありがとう」

「まぁ、あれだ。そうじゃないって確信させたのはティルちゃんの力なんですがね……」


 照れたのか、それとも申し訳なく思ったのか、マニュアはそう言った。

 そんな様子に、リナは笑って言う。


「ううん。ホワちゃん達はちゃんと強い――というか、凄いよ」

「そ、そうかな? ……って『ホワちゃん』って、私の事?」


 マニュアが尋ねる。


「そーだよ? ホワイトのホワちゃん」

「あー……そう」

「じゃあ、私は『マー』って呼ぼう!」


 今度はティルがそう言った。


「なんで!? 何の張り合い!?」

「凄いか……まぁな! 俺だって、凄いぞ!!」


 先ほどのリナの言葉に、ストームも満足そうにしている。


「え? ストーム。凄かったっけ? っていうか、今まで活躍を見た記憶がない」


 それにあっさり酷い事を言うマニュア。


「ムキィ――――――ッ!! おまえ、むかつくな! おまえだって大した事してねーだろーがっ!」

「なぁにを――――――――っ!? してますぅー! ちゃんと魔物も倒してますぅー!!」

「俺達まで犠牲にしてな!?」

「あは……あはははは……」


 そんなマニュアとストームのやり取りに、苦笑いを浮かべるティル。

 リナの方は、本当に楽しそうに、その様子を見つめていた。


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