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第9話 エルフ国

 ダンジョンへ入った俺は、早速奥へと向かう。


 事前にギルドで調べた情報によると、このダンジョンは全九階層で中級ダンジョンで出現するような強力な魔物もいない。


 つまり、攻略難易度は高くないという訳だ。


 今回のような時は、もちろん最速を目指す。

 元の世界でも常にトップを狙ってきた。

 ゲームだけどな……。


 だが、ゲームじゃなくリアルだとしても、ダンジョン攻略のタイムアタックで負けたくはない。

 俺は気を引き締める。


 二個付けられるようになった称号を、敏捷値に補正のかかるものに変え、スピードを強化する。


「さて……いくか!!」


 まずは、初心者用のダンジョンをクリアした時と同じように、2階層へと降りる階段に向けてダッシュする。もちろん敵が襲ってくるが、相手にはせずそのまま駆け抜ける。


 そして、一度も戦う事無く階段へ到着する。

 もちろん階段の位置はすべて頭の中に入っている。


 俺は同じ要領で次々と階層をパスしていく。


 このダンジョンには中ボスも存在しない。

 もしかして一度も戦闘にならないかもな。

 もちろん俺がそれを狙っている事は言うまでも無い。


 だが途中、2匹の魔物相手に苦戦していた冒険者がいたので通り過ぎる際、そのうちの1匹をエリザから借用中のメイスで全力で殴っておいた。

 もちろんタイムアタック中なので、立ち止まる事はしなかったが……。


 レベルアップと称号の効果は大きかったらしく、さほど苦労する事無く俺はあっさり9階層のボス部屋前までたどり着いた。


「たしかボスはいないって話だが……」


 ボス不在なら特に気にする必要は無しと判断した俺は、そのまま扉を開けて中に入る。


 部屋内にボスがいない事を確認した俺は、まずギルドカードをチェックする。

 するとダンジョンクリア済みの表示が出ていた。


 どうやら本当にボスはいないようだ。

 しかし、残念な事に女神様も見当たらない。


「ハズレだったか……」


 低確率とは聞いていただけにあまり期待しないようにしていたが、いざ駄目となると結構がっかりするもんだな。

 俺は仕方ないかと肩を落としながら、出口の魔法陣へと向かう。


「驚いたわね……」


 その時、背後から女性の声が聞こえた。

 俺は慌てて振りかえる。

 すると――そこには美しい女性がいた。


 だが一目見て普通の人間では無いことは理解できた。

 なにやら存在感が希薄なのだ。すぐに消えてしまいそうな気さえする。


 これが精霊というものか?

 もちろん見るのは初めてだ。


「まさかこんな短時間でダンジョンを攻略するなんて!! 思わず出てきてしまったじゃない。一体どんな魔法を使ったの!?」


 目の前の女性が驚きの表情で尋ねてくる。


 女神様らしき精霊が驚くということは最速クリアの可能性が高いなと心の中で喜んだが、表情には出さずに正直に答える。


「私はカイトと言います……以後お見知り置きを。ですが私は特別なことは何もしていません。ただ魔物と一切戦わずに、ここまで来ました」


 そういえば、他の冒険者が戦っている敵を一発殴ったな。まあ、特に気にする必要はないだろう。


 俺の言葉に女神様は目を丸くする。


「……あなたのような人は初めてね。人間の間ではダンジョンは通常、自己鍛錬かお金稼ぎに来る場所でしょう? 何が目的でそんなに急いでここまで来たわけ? 」


 たしかにその通りだ。一般冒険者がダンジョンに来る目的は鍛錬か、魔物を倒して素材等を集めて換金するのが主な目的だろう。

 称号が目当ての可能性もあるが、最速攻略の称号の存在も一般的にはほとんど知られていないようだからそれ目的でダンジョンに潜る奴は少数だろう。


 まあ未攻略のダンジョンならお宝も眠っている可能性が有るらしいが、このダンジョンには関係ない話だな。


 しかし、何と答えればいいものやら。

 女神様の言葉から察するに、このダンジョンでタイムアタックをしたのは俺が初めてのようだ。そもそもこの世界では、ダンジョンでのタイムアタックという概念が存在しないのかもしれない……となると色々と説明が難しいな。

 

 とにかく、相手に理解してもらわなくちゃ話にならない。 

 シンプルに話そう……正直にな。


「通常の冒険者であれば、仰る通り、鍛錬等が目的でしょうが……」

「あなたは違うと言うの?」


 俺が喋り終える前に、質問を被せてくる。


 眼前の精霊は随分と俺に興味を持ってくれている様子だ。悪いことじゃない。


「……私がこんなにも急いでダンジョンを攻略したのは、あなたに早く会いたかったからです」


 これも、嘘ではない。純粋に精霊を見てみたかったというのもあるが、もし最速攻略をして目立てば、女神様が出現する可能性がアップするのではという読みもあった。


 まあ、会いたかった一番の理由はアイテムがもらえるという噂を聞いていたからだが……これは言わぬが花だろう。


 俺の言葉に対する、女神様のリアクションは予想外のものだった。


「そ、そんなこと言われたのは初めてだわ……」

 

 女神様は頬を染め、なにやらクネクネしている。

 こういった言葉にまるで免疫がなかったのか、女神様の反応は初々しい。


「ど、どうせそんなこと言って……あなたもアイテムが欲しいだけなんでしょう?」

 

 さすがに即答できない。本音を言えばイエスだが、そんなことを言ったら確実に機嫌を損ねてしまいそうだ。イコールアイテムをもらえないという可能性まであるだろう。


 本意ではないが、目的のためには手段を選ぶことはなるべくしないつもりだ。

 俺はいつものように頭の中にチャートを走らせ、最適な対処法を見つけようと試みる。

 

 今回はどう行動しようが命の危険はないと思う。

 よってリターンが大きい方法を取るのもありだ。

 もちろんその場合はリスクが増すが、この場合のリスクとはアイテムがもらえないということだ。

 それならダメ元で、もらえるアイテムの質のアップを狙ってみるのもいいだろう。

 

 俺は方針を固める。

 そして、女神様に向けて話し出す。 


「……それは心外ですね。たしかに今まで来た冒険者たちは、あなたから頂けるアイテムが目当てでここまで来たのかもしれません」

「……あなたは違うと言うの?」

「ええ、私は帝都で一番美しいと呼ばれる女神様に一目お会いしたかっただけです」

 

 どの口がそんなことを、と心の中で自分に突っ込みを入れるが、もう引き返すことはできない。

 引き返すつもりもないが。

 女神様は褒められることに慣れていないのか、再び頬を染め、視線が落ち着いていない。


 俺はそんな女神様を尻目に、尚も言葉を続ける。


「もちろんアイテムは頂きません。私には女神様に会えたことで十分な褒美になっています」


 俺は女神様に礼をしてから魔法陣へと身体を向ける。

 そして未練がましく思っていることを感じさせないように颯爽と歩き出す。

 

 やれることはやった。後は女神様次第だ。

 しかし、考えてみるとリスクばかりで、リターンの確率がかなり低い作戦だったかもな。

 仮に失敗したところで、ここでのリセットは俺の性には合わない。

 まあ、ゲームと違ってそもそもボタンがないけどな……。

 

 俺は結果への期待感から、鼓動が高鳴るが、あくまでポーカーフェイスに徹して魔法陣を目指す。

 なかなか女神様からお声がかからないので、失敗したかなと思い始めた時、女神様の美しい声で呼び止められる。


「カイトと言ったわね? お待ちなさい」


 女神様の声に俺は立ち止まる。


「あなたにはこれを渡しておきます」


 女神様が腕輪の様な物を差し出してきたので、とりあえず受け取る。


「こ、これは?」

「内緒です。ですけどきっと役立つはずよ」


 内緒……もしかしてすごいアイテムなのかも。

 

俺は内心の嬉しさを隠さずに言葉に出す。


「ま、まさかこのような立派な装飾が施された腕輪を賜たまわれるとは……我が家の家宝にさせて頂きます」

「家宝はともかく……カイトがちゃんと身につけておかないと、効果が発揮できないから注意なさい。それと、実は私もそれを人間に渡すのは初めてなの、大事にしてね」


 女神様の言葉に、ますますどんな効果なのか気になってきた。

 だが、当の本人は教えてくれる気はないみたいだ。


「名残惜しいけど、私がいたらいつまでも魔法陣で移動できないわね……また会いましょう、カイト」


 どうやら女神様は消えるらしい。だが――また?


「女神様とは1度しか会えないと聞きましたが?」

「きっとまた会えるわ。そうそう、私の名前はルカよ。次に会うときはそう呼んで。じゃあね」


 そう言い残し、女神様は消えてしまう。

 また会えると言っていたな、もしかして、この貰った腕輪絡みの事なのだろうか……?


 俺は自然と貰った腕輪に目を向ける。

 俺はアクセサリの事などまるで分からないが、施された装飾を見る限り、普通のアイテムとは思えない。


 売ったらいくらぐらいに……。


 一瞬邪な考えが頭に浮かぶが、無理やり打ち消す。


 女神様のアイテムだ。きっとなにやらすごい効果を秘めているに違いない。

 とりあえず自分で使うとしよう。

 腕輪の効果についてはいくら考えていてもここでは答えは出ないだろう。


 諦めてダンジョンの外へ向かう事にした。

 とりあえず腕輪は身につけておいた。


 魔法陣に乗り1階層に戻る。

 出口に向かうと、不意に声がかけられる。


「あ、あの」


 俺は、声のした方を向き、声の主を確認する。

 誰だ?

 知らない男だ。年は若いな、俺と同じくらいか。


「先程は助けて頂き、ありがとうございます」


 なるほど。

 どうやらダンジョン攻略中に2匹の魔物と戦っていた冒険者のようだ。

 さすがに急いでいたので冒険者の姿形はよく確認していなかったな。


「いや、かまわないさ。手を出していいものか迷ったんだが、助けられたみたいで良かったよ」

「おかげで助かりました。まだ私にはあの階層を一人で行くのは早かったようです。助けてもらった後引き返してきたら丁度あなたがダンジョンから出て行くところだったんで、お礼をと思って」


 助けたのはたしか、5階層くらいだったか?

 だとするとレベル的には5以下といったところか。


「それにしても、先程はすごい勢いで走り去って行きましたけど、何をしていたんです?」


 正直にタイムアタックと言うのも微妙な気がしたので、ごまかす事にした。


「まあちょっとした実験をな……」

「実験ですか?」


 男は気にしてた様子だが俺に話す気が無い事を悟ると、深くは聞いてこなかった。

 だが俺に多少興味を持ったようだ。引き続き質問をしてくる。


「そういえば、一人で5階層より奥まで行っていましたが、まだお若いのにすごいですね」

「若いと言っても17歳だからな、おそらくあんたとそう変わらないんじゃないか?」

「17歳!? 僕と同じ年です。失礼かもしれませんがもっと若いかと思ってました」


 まあ元の世界でも童顔と言われていたからな。


「よく言われるからな……気にする事はないさ。じゃあ俺はそろそろ行くな」

「よかったら一緒に食事でもどうですか? 先程のお礼ですので代金はこっちで持ちますよ」

「生憎、さっきすませたばかりでね。気持ちだけ受け取っておくよ」


 男は残念そうにしていたが、これ以上引きとめようとはしなかった。


「せめて、お名前を聞かせてもらえますか? 私の名前はアキームと申します」

「カイトだ……たぶん覚えておいても良い事ないけどな」


 俺はアキームと別れダンジョンを出る。


 そして人目の付かない場所でステータスカードを見てみる事にする。


 予想通り、俺は帝都の初級ダンジョン最速記録の称号を取得していた。

 ステータス補正は無いか。

 予想通りだな。

 おそらく初級ダンジョンは基本的に補正は無いんだろう。


 しかし俺がこのダンジョンの攻略を目指した本当の理由は女神様のアイテムでも称号による補正狙いでもない。


 俺は本来の目的を実験してみる事にする。


 やっぱりか。

 称号が3個付けられるようになってる。


 だとするとダンジョンを1つ攻略する毎に付けられる称号が1個増えるのか?

 いや。

 まだ称号を3種類取得する毎に1個増える線も有るか。

 今取得した称号で6個目だしな。


 とりあえずまだ結論を出すには早そうだ。

 引き続き、要検証だな。


 満足のいく成果が出た俺は、城への帰路に就く。


 門番に止められるかとも思ったがさすがに覚えていたらしく、そのまま通してくれる。

 俺は兵士にロイスを呼んでもらう。


 座ってしばらく待っているとロイスがやってくる。


「よお、たしかめたい事とやらはうまくいったのか?」

「まあな。ついでにクリアしてきたよ」

「へ~」


 ロイスは特に興味は無いようだ。

 まあ当然か、初級だしな。


「そういえば俺の泊まる部屋って?」

「ああ、今から案内するよ」

「エリザやライカは部屋で休んでいるのか?」

「もう部屋に行ってると思うが……会いに行くか?」


 俺は少し考えやめておくとロイスに伝える。

 一人で考えたい事もあるしな。



 俺は部屋に通された後、今日あった事を振り返って色々考えていたが、途中で頭が痛くなってきたので早々にベッドに入る。


「色々ありすぎだよ……全く」


 しかし、ベッド入ってもなかなか眠気は訪れず俺は、眠れぬ夜を過ごす事となった。


 翌日、あまり休んだ気がしなかったが、部屋をノックされたので仕方なくベッドを出る。


 俺を起こしに来た使用人に連れられ、エリザ達のいる場所に向かう。

 それにしてもこんな朝早くに集まって何をするんだ?


「よお、起きたか。まあ詳しい話は姫さんに聞いてくれ」


 ロイスの発言を聞き、俺はエリザの方へ向き直る。


「まだ、早朝ですけど私は国に帰ろうかと思いまして……」


 なるほど、俺達は見送りって訳か。

 見送る気まんまんだった俺は、次のエリザの言葉に衝撃を受ける。


「それで、カイト様も一緒に来て下さいませんか? 家族に紹介したいですし、よろしければそこで朝食でも……」


 エリザはモジモジしている。


「えっ!?」


 俺の眠気は一気に吹っ飛んだ。

 家族!? まだ心の準備が――いや、そういう問題でも無い気が。


 俺は頭をフル回転させる。

 とりあえず余り考えて良い場面じゃない、即答しないと。


「わかった。俺も御両親に挨拶しないとな……」

「ありがとうございます!!」


 エリザが満面の笑みでそう答える。


 もう後戻りできん。まあなるようになるさ。

 とりあえず俺は開き直って覚悟を決めた。


 俺はロイスやライカやおっさんに近いうちにまた帝都に来る事を約束し、一旦の別れを告げた。


「それでは行きますね」


 エリザが転移の詠唱を始める。


「二人ともまた来いよ」

「エリザ、カイト殿。近いうちにまた会おう」

「困った事があったら言うんじゃぞ」


 3人と挨拶を交わした瞬間、丁度周りの景色が変わる。


 石造りの壁に豪華な装飾品の数々、帝都の城も造りがすごかったが、こちらも負けてはいない。

 もしかしなくても、いきなり城の中なのか?


 俺はキョロキョロと辺りを見回す。


「おお、エリザ帰ったのか!!」


 大きな声が響く。


 えっ? あれってもしかしてエルフの王様なんじゃ?


 ちょ、ちょっとエリザさん?

 いきなり対面とは聞いていないんですが?

 俺はエリザに文句の一つも言いたくなったが、すでにそんな事はできる空気では無い。


 王様が視線を脇にずらすと俺と目が合う。


「エリザ、隣にいるのは何者だ?」


「彼は……カイト様は、私の初めてを捧げた人です!!」


 俺はギョッとした顔をエリザの方へ向ける。


 俺は大きな声で、キスの事だと思います!!


 と言って王様に補足しようとしたが、それはそれでマズイかなと思い直し、何も言う事ができなかった――


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