第6話 ギルドへの報告
俺は称号欄を見つめその異常に気がつくと、つい声を出してしまうが、誰も気にしていないようだ。
みんな熱心に自分のステータスカードを覗いている。
また増えてる。
前回の初級ダンジョン攻略では称号を2個貰えたが今度は同時に3個だ。
『中級ダンジョン攻略者』 ステータス補正 精神 1段階上昇
『中級ダンジョン低レベル攻略者』 ステータス補正 筋力値 2段階上昇
『ミルダンジョン最速記録保持者(中級)』 ステータス補正 敏捷値 2段階上昇
低レベルで攻略すると偉業と認められるらしい。
なるほど。
俺は二度とやりたくないけどな。
あとは、中級の最速記録も取得できたようだ。
まあ累計時間で最速が決まるなら、40階層からスタートした俺は反則みたいなもんだな。
ラッキーだったと思っておこう。
だけど結局はダンジョン最速記録保持者の方が補正値がでかいな。
まあ状況を見て使い分けるか。
俺は最終的にレベルがどこまで上がったのか確認してなかった事を思い出し、早速見てみる事にする。
レベルは9まで上がっていた。
レベル2スタートと考えれば大躍進だろうが、俺は少しだけ不満だった。やはりボス戦で俺だけ経験値が稼げなかったのが痛かったな。
痛いと言えば、まさか身代わりの指輪も全部使う事になろうとは。
無くなった金額の大きさに眩暈がしたが、ふとある事に気が付き、ステータスカードに目を向けストレージの欄を確認する。
よっし! 思わず小さくガッツポーズをしてしまうが誰にも見咎められなかった様だ。
ストレージには金貨30枚分がチャージされていた。
助かった。
これでしばらくはお金に困ることは無さそうだ。ダンジョンの神様に感謝だな。
俺はステータスカードから目を離し、皆を見渡す。
おっさんだけがステータスカードを見ていなかったので近づいて話しかける。
「ステータスカードのチェックはいいのか?」
「わしは以前中級ダンジョンを1度クリアした事があるんじゃよ」
「なるほどな……俺とおっさんだけが中級攻略済みだったわけか」
もはや意味のない設定だがとりあえずゴリ押す。
理由は無い。
ただなんとなくだ。
「それはそうとお前さん、どうするつもりじゃ?」
おっさんがなにやら小声で話しかけてくる。
「どうするとは?」
「さっきの事じゃ。エリザとその……あったじゃろ?」
「ああ、キスの事か。彼女……俺の事好きなのかな?」
「仮にそうだったらどうするんじゃ?」
「結婚を申し込む」
俺は即答する。
おっさんがあんぐりと口を開けている。
コブシが入りそうだな。
結婚はもちろん冗談だ。
おっさんに冗談である事を告げようとする。
その時ロイスが声を上げる。
「おい、そろそろギルドに行かないか? 報告をしなきゃならん」
ロイスとライカとエリザはもうステータスカードの確認は終わったようだ。
そこで再びエリザの視線を感じた。
どうにも気になるな。
後でちゃんと話した方がいいなと俺は思った。
ギルドに到着した俺達は、拍手と歓声を持って迎えられた。
5年振りに攻略者が出てギルドも嬉しいのだろう。
中級以上のダンジョンで攻略者が出た場合は世界中のギルドに通達される。
そのことにより中級攻略を夢見たパーティーがこの街のギルドに多少なりとも集まって来るらしい。
まああまり人の多くない街だからな、多少でも賑わう事は嬉しいのだろう。
それにここにやってくる冒険者にしても誰も攻略したことのないダンジョンよりは前に攻略者がいたほうが情報も集めやすく攻略もやりやすいのだろう。どちらにもメリットがあるということか。
その時、ギルドの奥から教官が出てきた。
「よくダンジョンを攻略してくれました。ギルドを代表して礼を言います」
教官がロイスに手を差し出してくる。
「いえ、こちらにも必要な事でしたので」
ロイスと教官ががっちり握手を交わした。
「それにまさか、お荷物を抱えてダンジョンを攻略するとは……」
教官がちらりと俺の方を見る。まあ言いたい事はわかるけどな。
だけど一応教え子なのにその発言はどうなんだろう。
「荷物?」
ロイスが何の事かわからないという風に考え込む。
俺たちの顔を見渡し、そして最後にエリザの方をじっと見た。
「さすがにそれは言葉が過ぎませんか? ギルド長」
おそらくロイスは勘違いしている。そして教官はギルド長だったのか?
知らなかった。
だが、どうやらロイスの中では俺の事がお荷物とは認識できなかったようだ。
ロイスの反応に教官は少し青くなる。
教官としてはレベル2の俺を連れて行って攻略した事を褒めたつもりだったのだろうが、ヤブヘビだった様だ。
教官がロイスに謝罪をして、何とか事無きを得たようだ。
ロイスと教官が話している間、俺にはギルドの冒険者達が話しかけてきた。
「おまえ、本当にダンジョンに入ったらしいな」
「どうやって生き残ったんだ?」
「絶対俺らを笑わせる為だけにやったんだと思ってたよ」
俺は彼らの相手を適当にすませ、ライカ達が待っている場所へ戻る。
ライカが俺に何か言いたそうに見ている。
「どうした?」
「彼らにはカイト殿に対する敬意が足りないんじゃないかと思ってな。まるで馬鹿にしてる様に感じた。彼らの中にカイト殿に勝てるような者がいるようには思えんが……」
あいつらのレベルはたしか10ちょいだった筈だ。
称号がなければ普通に負けるだろうな。
称号の補正が有っても2、3人いたらかなり厳しくなるはずだ。
まあライカが納得する筈も無いので、適当に言っておく。
「たしかに奴らを俺1人でねじ伏せるのは簡単だ。だが俺はそれがいい事だとは思えない。今は、この街にいる以上緊急の討伐等も発生する事もあり得る。その時は、彼らと連携して事に当たらなければならない。余計な遺恨は無い方がいいさ……まあ奴らもなんだかんだ言っても困った時はいつも俺を頼ってくる。かわいい奴らさ」
最後に余計な一言を付け足す俺。
まさか聞かれてないよな?
キョロキョロ周りを見回す。
「そこまで考えていたのか……私の方が間違っていたようだ。カイト殿といるとこちらも学ぶ事が多いな」
「さすがカイト様です」
エリザが言う。
だが聞きなれない響きが有ったな。
様? いつの間に変わったんだ?
だけど俺は様ってガラじゃない。
少しエリザと話した方がいいな。
「エリザ、少しこっちに来てくれるか?」
「え? はい、わかりました」
俺はエリザをギルドの外へ連れ出す。
さて、連れ出したはいいがなんて言っていいものかな。
俺が考えていると、ギルドからこっそりおっさんとライカがこちらを覗いているのが見えた。
あいつら。
よく見るとロイスも来てるぞ、さっきまで教官と話してただろうが。
だが呼び出してしまった以上腹を括って話す事にする。
「あのな……」
だが俺は言い淀む。
なんて言えばいいんだ? キスの事を引っ張りだすのもなんか違う気がするが。
しばらく俺が困っていると、エリザの方から意外な言葉が発せられた。
「私、実は分かってるんです……これから何の話をされるのか」
分かってる?
俺でさえ何を言うか決めかねているのに?
「私、結婚の話お受け致します」
俺はおっさんに殺意を抱くまでに、それから数秒の時間を要したのだった――
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