第56話 扉の奥
そこには広い空間があった。だが雰囲気は城内とは似ても似つかない。近代的とでも言おうか……。
そして白い。壁や天井、床に至るまでだ。
なんだが病院みたいだな。
材質は一見するとコンクリートに似ているような気もするが詳細はよくわからない。奥の方には扉らしきものがいくつか見える。一体どこに繋がっているんだろうか?
周囲を見回す限り、人や魔物の存在は見られない。俺は胸を撫で下ろす。この様相にはリューネ様も驚いたようだ。
「城の地下にこんな場所があるなんて……」
全くだ。店主はこんなことは一言も言っていなかった。まあ、単に知らなかっただけの可能性もあるが……。
しかし、扉以外に特に何もない部屋なので、俺とリューネ様の足は自然とそちらのほうへと向かって行く。
「カイトさん、あれは……扉でしょうか?」
「おそらく……」
そうとしか答えようがなかった。ただ、その扉とおぼしき壁の部分だけ装飾が施されているのだ。
「扉だとしたら、奥はどこへ続いているのでしょうね?」
俺もそれを考えていたが、結論が出るはずもない。
「……見当もつきませんね」
扉はいくつか並んでいたが、俺とリューネ様は入って来た扉からまっすぐ奥へ進み、ちょうど反
対側にある扉の前に立った。
するとどこからともなく声が響いてくる。
「推奨攻略レベル20以上です。三人まで同時参加できます。現在攻略資格はありません」
俺と、リューネ様は思わず顔を見合わせる。
付近で誰かが声を出したという感じではない。どちらかというとゲームのシステム音声のようだった。ギルドで聞いたのとは少し違う声だが、使われている技術は同じなのかもしれない。
「この扉は私でも開けられないようです」
さきほど魔力の結界に守られた扉を開けたリューネ様でも、この扉は無理らしい。
「それにしてもいくつか気になることを言っていました」
「たしかに……」
気になった点とはレベル20以上という部分と攻略資格がないという部分だろう。
攻略資格ということは扉の奥に何かしらの障害があるとみていいだろう。人数が三人以下なのは確認するまでもないしな。
だが、俺たちにその資格はないらしい。
俺は念のため扉を押してみる。だがビクともしない。取っ手なども存在せず。開けるのは不可能に思えた。
やはり俺たちに資格がないから開かないのだろうか?
俺には思い当たる節がある。それはレベルだ。音声ではたしか20以上と言っていたはずだ。まだまだ俺に届くレベルではない。おそらくリューネ様は条件を満たしているだろう。娘であるエリザのレベルが20だったはずだからな。
「妙ですね。推奨レベルが20以上で私たちは三人以下。一見条件は満たしているように思えますが攻略資格はないと断言されました。それにあくまでも『推奨』なのですからレベルに関しては条件に含まれていないとは思いますが……」
リューネ様は俺がレベル20以上であることを疑っていないようだ。娘よりも低いと知ったらどう反応するだろうか? もちろん試す勇気はない。
だが、リューネ様の言うことには一理ある。たしかに推奨と言っていたな。
「たしかにリューネ様のおっしゃる通り攻略資格にレベルは必要は関係なさそうですね。そもそも何を攻略するのかさえわかりませんが……」
リューネ様も考えているようだが、現状答えを出すのは難しいだろう。
「まだ情報が足りないように感じます。他の扉も調べてみませんか?」
「そうですね。それがいいと思います」
リューネ様の同意を取り付け、隣にある扉の前に二人で移動する。
するとふたたび音声が流れる。
「推奨攻略レベル30以上です。必要人数五人、現在攻略資格はありません」
これは……さっきより条件が厳しいな。
「30以上というのは……それを満たすのは世界を探してもそうそういないはずです。しかも今度は五人。さきほどの『三人まで』と比べると、おそらく五人じゃなきゃ資格さえ発生しないように聞こえます」
リューネ様の言葉に頷いてみせる。
「この条件を満たすのは容易ではないでしょうね……じゃあ今度は反対側の扉を調べてみませんか?」
まだこちら側にも扉はあるが、仮に難易度順に並んでいるのならさらに条件は厳しくなりそうだ。
逆方向の扉なら条件は易しくなるかもしれない。
「そうですね……そうしましょう」
今度は逆側へ向かって歩き出す。そして一番端まで行ってみる。
難易度順になっているのならここが一番簡単だということになる。
俺たちは扉の前に立つ。
「推奨攻略レベル5以上です。三人まで同時参加できます。現在攻略可能です」
攻略可能……つまり扉が開くということだろう。しかし、中は一体どうなっているんだ?
「入ってみますか?」
俺の問いかけにリューネ様はすぐさま頷く。彼女も扉の奥が気になっているのだろう。
「そうですね、何があるかはわかりませんがレベル5以上が推奨と言っていました。私たち二人なら問題があるとは思えません」
たしかに5以上なら安全マージンはかなりあるとみていい。先程の音声が必ず本当のことを告げているとは言えないが、状況的に嘘という可能性は低そうに思えた。
どちらにせよ俺も今は不安より好奇心の方が勝っている。彼女を止めるつもりは毛頭なかった。
「ではまず、私が先に入りますので、リューネ様は後ろからついてきて下さい」
俺は扉を見る。
どうやって開けるのだろうか? 俺は扉を押そうと手を伸ばす。
すると、扉に触れた瞬間にまたあの音声が流れる。
「攻略資格を有していますが、本当に挑戦しますか?」
警告? 最終確認ってやつか? リューネ様に視線を移すと、黙ってこちらに向けて頷いた。どうやら気持ちは同じらしい。
俺は音声を無視するように扉を押す。すると先程はビクともしなかった扉がいとも簡単に開く。そして、俺たちは中へと入り込む。
まず目に入ったのは黒、今度は視界一面が真っ黒に染まっていた。
リューネ様の方を見るとどうやら彼女も混乱している様子だ。
「これは……どうなっているのでしょうか?」
俺としても答えようがない。ただ、俺は一言感想を述べる。
「不思議な場所ですね」
そう、造りは先程の場所とは違い、天井や床、一面黒っぽく鈍い光を放っていた。こちらも材質はよくわからない。しゃがみ込んで床に触れてみるが、俺に理解できたのはただとても固いということだけだった。
それに、先程までいた部屋は広い空間だったが、こちらは通路のように狭い。やや圧迫感さえある。
「不思議……そうですね。私としてもその言葉がしっくりきます。ただ……」
ただ? なんだ?
「そんなことも言っていられないようです……」
そう言ってリューネ様は俺の後ろに視線を送る。
振り向くとそこには、俺たちが入って来たはずの扉がなくなっていた。
「なっ!」
俺はさっきまで扉が存在したはずの箇所を触って見るが、その感触はただの壁だ。
「そんな……」
これじゃあ元の部屋に戻れない。
もしかすると警告はこれも意味していたのかもしれない……。
「先へ進め。ということでしょうね」
リューネ様のその言葉に冷静さを少し取り戻す。
「そのようですね……先に進めばどこかへ通じているかもしれませんし」
それにしても……退路が塞がれるというのは思っていた以上に精神的にくるものだな。
俺は少し心配になりリューネ様の様子を見てみるが、彼女はいたって普通だ。焦っている様子は微塵も感じられない。
ふう……情けないな。王妃様が冷静なのに俺が取り乱してどうする。RTAでは冷静さが大事だ。あの感覚を思い出すんだ。
俺は一つ深呼吸をする。
よし、これで大丈夫。自分に言い聞かせる。
その時、俺の視界に妙なものが映った気がした。
ん? 今のはなんだ?
視線を動かし確認する。するとリューネ様の普段と違う箇所を見つける。
俺には彼女の手の甲が少しだけ光っているように見えた。
「リューネ様、その手は?」
「手……ですか?」
彼女は自分の手に視線を向ける。どうやら反応を見る限り彼女自身が使用した魔法の類ではないようだ。
「これは、文字ですね……なるほど、おそらくカイトさんの手にも出ているのではないですか?」
その言葉に、俺は自分の手を見る。
彼女の言葉に偽りはなく、俺の手にも鈍く光る文字が表示されていた。
内容を確認してみる。
すると、そこには――。
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誤字脱字等に関しての指摘もとても助かっております。
時間をみて徐々に直していこうと思います。
引き続き頑張っていくので、お付き合いいただけたら幸いです。




