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第53話 会談

 そ、側室!? たしかそれって……ハーレムのことだよな?


 俺はレイアの突然の言葉にただ茫然とする。

 王妃様もさすがに少し驚いた様子だ。


「まあ、そうでしたか……ちなみにこの国のご出身なのですか?」


 王妃様は俺に一瞥をくれるが、すぐにレイアへと視線を戻す。

 い、今の視線の意味を考えるのは怖い。

 だが、幸いと言っていいのかあまり怒っているようには見えない。


 えと……そもそもこの世界は一般的にハーレムが許されているのだろうか? もちろん今この場で尋ねる勇気はない。


「いいえ、私は隣国であるアール王国の出身です。カイト様には無理を言ってここに置いてもらっています」


 ん? いきなりすごい発言をかましたので、何かレイアには意図があるのかと思っていたが、『側室』という言葉以外に彼女の言葉に嘘はない。むしろただ、正直に話しているように感じられる。


 王妃様も表情を見る限り多少の疑問を感じたみたいだ。


「なるほど……それで『候補』なわけですか。何やら複雑な事情がありそうですね」


 その言葉にレイアは深く頷く。


「詳しい話を聞いてみたいですが、まずカイトさんと話すのが賢明でしょうね」


 そうだった。本来の目的は俺と王妃様の会談だ。彼女もそれが目的で来たのだろうからな。

 話の内容を考えると……二人には席を外してもらった方がいいだろうな。


「そうですね……ではすまないが大事な話があるから二人は隣室で待機していてくれないか?」


 俺がそう告げると、レイアは俺と王妃様に頭を下げ部屋の出口へと向かう。

 リヴは多少不満がそうだったが、さすがに王妃様の手前、退室する他ない。レイアの後を追って行く。

 まあ、リヴに関してはもう帰ってもらっても大丈夫だが……あの様子じゃ帰りそうもないな。


 二人が出て行ったことを確認し、俺はまず王妃様に尋ねる。


「まず王妃様、この状況が彼らに伝わっているという可能性はありますか?」


 もちろん彼らというのは、リヴやレイアではない。俺とエリザを襲った襲撃者のことだ。


 彼らという言葉だけで伝わるかはわからなかったが、無用の心配だったようだ。


「いいえ、私が個人的にカイトさんに会いに来ただけなので、彼らはこのことを知りません」

「尾行等の可能性は?」


 彼らの中にも転移魔法を使えるものがいた。それに過去にエリザが聴力を魔法で強化したこともある。念のため確認しておいて、損はないはずだ。


「心配ございません。周囲で魔法が使われているようなら探知できますし、なによりここには強力な結界が張られているようです。この結界を破れるような者は人間の中では私の知る限りいません。エルフでもいるかどうか……」


 なるほど。ルカの結界にはそういう効果もあるのか。それなら安心して会話ができる。

 俺はとりあえず、王妃様の最初の質問に答える。


「ここに人がいないのは、この城が私の個人的な所有物だからです」


 さすがにこの発言には王妃様も驚いた様子だ。


「そ、それは……一体どういう経緯で?」


 王妃様が興味深そうに聞いてくるので答えないわけにはいかない。


「たいしたことはないのですよ。たまたま売りに出ていたので買ったのです。一年は所属が変更できないとのことだったので」

「それで城を買ってしまうという発想が普通ではありませんね。さすがエリザが選んだ方と言うべきなのかしら」


 早々に売却してしまうかもしれないが、まだ契約が成立したわけではないので、現時点では説明を省く。突っ込まれる前に俺の方から本題に入るとする。


「王妃様が事情をどの程度把握されているかわかりませんが、私がエレノアに所属した経緯はご存知でしょうか?」

「ええ、大体理解しているつもりです。エリザと、そしてお二人を襲った者たちから聞き及んでいますので……カイトさんのこのたびのご判断によってエルフ国は救われたと言っても過言ではありません。王に代わってエルフ国を代表し、お礼を申し上げます」


 王妃様はそう言って頭を深く下げる。

 その光景に俺は驚きを隠せない。

 まさか一国の代表が冗談で頭を下げるとは思えない。 

 ということは当然と言えば当然だが、俺が戦争を避けるために彼らに従ったと理解しているということだ。


 しかし、それは俺にとってとても意外だった。

 奴らは俺がエルフ国と連絡を取ることを禁じた。そして実際の交渉の場面にエリザはいなかった。彼らの胸先三寸で自由に事実を捻じ曲げることもできたはずだ。つまりいくらでも俺を悪者に出来たということだ。というより事実そうなっていると思っていた。


 奴らの狙いは現時点ではなんともいえないな……。

 まあ、王妃様の話を聞けばわかるかもしれない。色々考えるのは後にしよう。

 王妃様はお礼を言ってくれたが、そもそも奴らのターゲットになっていたのは俺で、エリザは関係がないはずだ。お礼を言われるような筋合いはない。むしろ俺がエリザを巻き込んでしまったと考えるべきだろう。


「いえ、礼にはおよびません。結果的にエリザを巻き込んでしまったのは私の落ち度です」

 俺の言葉に王妃様は、少々困ったような顔を浮かべる。

「もしかして、カイトさんは自分のせいで戦争が起こるかもしれなかった……と思っているのではないですか?」


 王妃様の言葉は俺の図星をついた。

 もしかして違うのか……?

 だが事実として、エレノアに所属しなきゃ戦争になると脅されたのはたしかだ。

 そして、俺は結果的に最小限のリスクになる選択をしたつもりだ。俺の中ではあの時選んだ選択肢は最善で、その考えは今も変わってはいない。


「違うのですか?」


 その言葉に王妃様は深く頷く。


「ええ、元々エルフ国は近々攻め込まれる予定だったそうなのです」

「それは、今回の件とは関係なくという意味でしょうか?」

「その通りです。私も後から知ったことですが……」

「詳しくお聞かせ願えますか?」

「元よりそのつもりです。少しややこしい話かもしれませんが、わかりにくい部分がありましたらその都度おっしゃって下さい」


 俺は黙って頷く。


「まず、いくつかの国が協力して、帝都を攻め込むという計画を立てたようです。動機や賛同した国をすべて把握しているわけではありませんが……」


 エルフ国の王妃にわからないのなら、この世界に来たばかりの俺に見当がつくはずもない。


「そして、その計画は近日中に実行される予定であったとか」

「帝都が標的ならば、エルフ国には直接関係がないのでは?」

「私も知らなかったのですが、どうやら我が国にも計画に賛同するように要請があったようなのです」


 なるほど、少しだけわかってきた。つまり――。


「誘いを断ったわけですね」

「そうです。我が王と帝都の王は旧知の仲で、計画を聞きすぐに突っぱねたそうです」

「断ったとなれば、イコール反対勢力に付くという解釈になるのは自明の理ですね」

「はい……それで我が国も標的となったようです」


 だが、それだけでは俺の疑問をすべては解消できない。

 おおよそは理解できる。つまり俺が戦力になりそうだから、奴らはエレノアに送ろうとしたのだろう。そしてその試みは成功して、俺は現に今エレノアにいる。


 それなのになぜ俺の行動によってエルフ国が救われたという話になるのだろうか……。むしろ敵の策が成ったようにしか感じられないが……。


「私が役に立ったようには思えませんが……」

「彼らはカイトさんが誰も攻略出来ていないダンジョンをたった一人で攻略した事実を知っていました。もちろん帝都の方々とカイトさんが懇意にしていることも知っているでしょう。おそらく作戦に向けて帝都に密偵を派遣していたのだと思います」


 ここまでは俺も理解できる。たしかに隠していたわけではないし、情報の入手は可能だろう。おそらくこの段階で俺のエレノア送りが急遽決まったのだろう。帝都側に付かれてはたまらないだろうからな。もっとも俺一人が味方したところで、ほとんど戦力アップにはならないのが皮肉なところだが。


「みなまで言わなくてもわかっているかもしれませんが、この時点でカイトさんをエレノアに所属させる工作が始まったのだと思います」

「はい、私もその意見に同意します。ただ……」


 疑問が残ったので、意見を聞いてみる。


「私をエレノアに送るより、直接引きぬいて仲間に加えた方が戦力的にも申し分なかったと思うのですが……なぜか彼らからその時勧誘を受けた記憶がほとんどありません」


 王妃様は俺の疑問にも淀みなく返答してくれる。


「彼らは一枚岩ではありません、カイトさんのような人材はどの国も喉から手が出る程に欲しいでしょう。おそらく、取り合いになった末に、最下位のエレノアに行ってもらうことで落ち着いた……というところでしょう。正直なところ、カイトさんの所属先一つで戦争が起こっても不思議はありませんから」


 冗談だと思いたいが、どうやら本気で言っているらしい。

 たしかに王妃様の言う通り、彼らは一枚岩と言うには程遠かったな……。たしかに勧誘したくてもできないという空気があったような気もする。


「話を戻しますが、結果的に彼らの目論見は成功してカイトさんはエレノアの所属になりました」

「ええ、その通りです」


 問題はここからだ。


「しかし、彼らには一つ誤算があったのです」

「誤算?」


 俺は反射的に聞き返す。


「カイトさんをエレノアに送り込んだ翌日、とんでもない事実が発覚します」

 ん? 翌日? まさか……。

「精々中級ダンジョンを複数攻略した程度のポイントしか所持していないと思われていたカイトさんが、圧倒的なポイントで世界一の座に輝いていました」


 王妃はそこでニッコリと微笑む。


 あ……。なるほど、そういうことか。俺の疑問はほぼ氷解する。


「彼らは焦ったのだと思います。エレノアに送ったカイトさんが世界一のポイントを所持していたことに」

「ランキングのポイントとはそれほど重要な指標になりえるのですか?」

「ええ、ユーディア王国で一騎当千の誉れ高いシリウスの約五倍のポイントを所持している計算になりますから。正直、誤差の範囲内と言えるポイント差ではありません……既にランキングを見た各国は世界で一番の実力者はシリウスではなくエレノア所属のカイトさんだと考えていると思います」


 ハハハ……悪い冗談だ。とてつもなくな。

 冗談だと言って欲しかったが、王妃様はニッコリと微笑むだけで、いつまで経っても訂正してはくれなかった。


この作品、異世界ダンジョンでRTAの二巻である『最速勇者の神ダンジョン攻略 異世界リアルタイムアタック』本日発売です! どうぞよろしくお願いします(切実)

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