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第52話 意外な人物

「お願い? 一体なんだ?」

「魔法を見せて欲しいんだ」


 俺のよくわからない突然の頼み事に、リヴは困惑の表情を見せる。


「そりゃあ見せるのは構わないが、どんな魔法でもいいのか?」

「ああ、なんでも大丈夫だ」


 なんでもいいと言われ腑に落ちない様子のリヴだったが、やがて付近の岩に手を向け、詠唱を開始する。

 するとリヴの手が青白く光り、一瞬にして岩に窪みが出来上がる。


 リブの使用した魔法は初めて見るものだったが、攻撃魔法であるのは俺でもすぐに理解できた。


 しかしたいした威力だ。

 当たったらと思うとぞっとするな。


 正直リヴの実力は未知数だったが、出会って最初に見せた高圧的な態度も実力に裏付けされたものだったらしい。魔法の威力はエリザと比べてもさほど遜色はないように感じられる。おそらくレベルも高いのだろう。


「それで、これにはどんな意味があったんだ?」


 リヴは自身の放った魔法の威力に満足だったのだろう。声色や表情がそれを物語っている。


「少しリヴと力比べがしたくてね」

「力比べ? それは魔法でか?」

「ああ」


 俺がそう答えると、リヴは笑い声を上げる。


「よせよせ、お前は人間だろ? そりゃ人間の中にも魔法が使える者はいるが、どう考えてもカイトが魔法を使えるようには見えないぞ」


 リヴの推察は的を射ている。たしかに俺は魔法を使うことはできないが……。


「まあ、見ておけ」


 俺は見よう見まねで、手の平を岩に向ける。リヴが狙ったのと同じ岩だ。


「おいおい本気かよ……」

「……」


 リヴは半信半疑の様子で、レイアはただ黙ってこの様子を見守っている。


 俺はリヴの魔法を頭の中でイメージし、発動しようとする。

 だが……俺の手から魔法が発動することはなかった。


 む……どうやらイメージだけでは無理なようだ。

 だとすると……もしや詠唱!?


 さすがにそれは無理だ。魔法の詠唱なんてどうやっているのかさえ理解していない。

 リヴに習うか? いや、そもそも魔法が使えないとこのスキルは使用できないんじゃ……。

 嫌な考えが頭をよぎるが、一つ試していないことを思い出す。


 体勢はそのままに、俺は心の中で唱える。


『創造』


 するとその瞬間俺の手の平から青白い光が放たれる。

 その大きさたるや、リヴが使用した魔法の優に二倍はありそうだ。


 俺の手から離れたそれは、リヴが穴を開けた岩を楽に砕き、さらに後ろにあった大きな岩さえも貫通していった。

 俺は、その様子をただ茫然と見つめることしか出来なかった。


 こ、これは想像以上だ……。

 スキルランクS+は伊達じゃないってことか。


 ただ、俺は同時にこのスキルの欠点も瞬間的に感じ取っていた。

 体が重い……この感覚には身に覚えがある。

 この感じは……魔力を大きく消費したのだろう。

 まあ、ある意味当然なのかもしれないが、魔力が少ない俺にとっては結構な制約になりそうだ。


「嘘だろ!?」


 リヴの驚きは俺の比ではない。

 レイアも絶句している様子だ。


「まあ、こんなものか。参考になったよリヴ」


 俺はあくまで平静を装う。


「お、おい今のは一体どういうことだ!? おかしいじゃないか。どうしてカイトが俺より強力な魔法が打てる!? それに詠唱すらしていなかったようにみえたが……」


 俺の言葉を無視し、リヴはひたすらに説明を求めてくる。

 レイアも表情を見る限りとても興味があるみたいだ、


「種明しをすると、スキルの力だな」


 俺がそう告げると、リヴは思案顔になる。


「スキルと言ったって……あの威力は……。それにわからないのは仮にスキルだとしても俺が見た光景のどれがスキルの力によるものなのかということだ」


 詠唱がなかったことがスキルなのか、強力な魔法を使えたのがスキルなのかわからないという意味だろう。


「そのスキルについて、詳しく教えてはくれないんだろうな」

「さすがにな……」


 リヴもその辺の冒険者事情は理解しているのか、それ以上尋ねてくることはなかった。ただ、思いっきり聞きたそうだったが……。


 一方でレイアの方は、俺の『スキル』という回答を聞いて、少々がっかりした様子だった。

 彼女は魔法の才能があったらしいし、もしかすると今でも習得を望んでいるのかもな。


 俺はもう一つのスキルである『複写』も試そうと称号の入れ替えを行ったが、思った以上に『創造』で魔力を使ったので、念のために今試すのはやめておくことにした。

 魔力の使い過ぎで動けなくなってもまずいからな……。


「じゃあ、一旦今日は引き揚げるか」

「おっ? もう帰るのか?」

「……カイト様? 今回は中級ダンジョンへは行かないのですか?」

「ああ、それなりに時間もかかったし、今日のところはやめておく」

「……そうですか」


 レイアは少々納得していなさそうに見える。彼女自身中級ダンジョンに興味があったのかもしれないな。

 だが仮に俺が行く場合でも、もちろん彼女を連れて行く気はなかったが……。


「リヴ、エレノアの王城前に転移できるか?」

「ん? 城か? 別に問題ないが、ギルドじゃなくていいのか?」

「ああ、その方が近いからな」

「ふーん。わかった」


 あまり深く考えていない様子で、リヴは転移魔法の詠唱を始める。

 そして俺たちはあっさりと、エレノアへと帰還する。


 周囲を簡単に見渡して確認すると、どうやら俺の要求通り、リヴは俺とレイアを王城前に運んでくれたようだ。


「助かったよ」

「……私の方からもお礼を申し上げます」

「ここで良かったのか?」

「……はい」

「十分だ」


 その時、突如前方の城門前に異変を察知する。


 な、なんだ? 空間が歪んでいる。こ、これは……魔法か!?

 以前にも見た記憶があるので瞬間的に察知する。これはたしか転移魔法だったはず。


 誰だ!?


 そこに現れたのは意外な人物だった。 


「カイトさん!!」


 あ、あの人は……どうしてこんな場所に? 本物なのか? 


 突如現れたその人物は、真っ直ぐに俺の元へと歩いてくる。

 さすがに目の前までその人物が来ると疑いは確信へと変わる。


「お、王妃様……? いや、似ているがさらに美しい気がする」


 俺はそう言って彼女の表情を見る。


「ふふ、ありがとうございます」


 彼女はニッコリと微笑む。

 こ、この反応……。どうやら本物のようだ。


 突如として目の前に現れた人物それは――エリザの母親である、エルフ国王妃様、その人だった。

 以前、エルフ国で会った時は、綺麗なドレス姿だったが、今は落ち着いた格好だ。だが、その身から溢れ出る気品は隠しようもない。

 リヴが驚いているのはもちろん、レイアも状況が良く分かっていないのか、この状況を静観している。


 俺は少し気になり、王妃様の周囲を改めて見回す。

 視線の意味を感じ取ったのか、王妃様は俺の欲しい答えをくれる。


「申し訳ありませんが、エリザ……あの子は来ていません」


 少々残念だが、表情には出さない。

 そしてとりあえず一番気になっていることを遠まわしに聞いてみる。


「わかりました。ですが王妃様も俺の前に現れてはマズイのでは?」


 エリザと離れた後の詳しい事情を聞きたかったが、この王妃様との接触すら、俺を拉致した彼らが仕込んだことかもしれない。現時点で彼らを刺激するような言動は控えることにした。


「そうですね……それも含めてお話したいことがたくさんあるのですが、今はどこに滞在しているのでしょうか?」


 たしかに外でするような類の話ではないな。


「今は目の前にある城に滞在中です……」

「城……ですか?」


 王妃様は周囲を見渡す。どうやら彼女は今その存在に気付いた様子だ。


「つまり、カイトさんは既にこの国の関係者の方と繋がりをもっているのでしょうか?」


 そう言って王妃様は俺の後ろへと視線を移す。

 突如、王妃様の興味が自分たちへと向いたので、リヴとレイアに緊張が見える。

 リブは言うまでもないが、レイアも俺の発言した『王妃』という敬称や、普段見せない丁寧な対応を見て彼女がどういう人物なのか想像がついたのだろう。


 だが、俺が城に住んでいることと彼らには特に接点はない。ハリーとは繋がりを持ったと言えなくもないが、正直微妙だな。とりあえず城内に案内をしてから軽く二人を紹介しておこう。


「この場ではなんですので、詳しくは城内でお話しましょう」


 王妃様もここでの問答は不要と感じたのだろう。素直に従ってくれる。




 応接間に通した王妃様が我慢できないといった様子で口を開く。 


「カイトさん、なぜこの城には誰もいないのでしょうか?」


 リヴも不思議に思ったのだろう、コクコクと頷いている。


「そのへんは後でじっくりと説明するとして、先に二人を紹介しておきましょう。リヴとレイアです」


 王妃様は二人の存在にも興味津々な様子だ。


 リブは直立不動のまま頭を下げる。

 レイアの方はさすがは王族なだけあって、見事な立ち振る舞いで挨拶をする。

 王妃様は二人に優しげな視線を向けたまま話しかける。


「リヴ、あなたはこの国で国務を?」


 まず、同郷のリヴへの質問に対し、緊張した面持ちで本人が答える。

 質問から察するに、どうやら二人は直接面識はなかったようだ。


「そ、そうです! 一年程前からこの国で国務に従事ています」

「そうですか。いつも国のために御苦労様です」


 そう言って王妃様は微笑む。


「大変もったいないお言葉……国のために働くことが私の喜びなのです」


 最初にリヴと出会った時にはそんなことを考えているとはとても思えない言動だったような気もするが、言わぬが花だろう。リヴはとても嬉しそうだしな。まあ、王妃様のファンみたいだから無理もない。


「リヴに仕事を頼んだのですが、とても協力的でしかも無料で引き受けてくれました。何か報いる方法があれば良いのですが……」


 俺の突然の発言に王妃様が反応を示す。


「そうなのですか!?」

「いや……その」


 言い淀むリヴに対し俺ははっきりと頷いて示してやる。


「わかりました……リヴ。あなたには一つ自由に褒美を取らせます。何が良いか考えておくといいでしょう」


 俺の報酬として、王妃様の中でのリヴの評価を上げてやろうとしたつもりが、そこまでの話になるとは……。


 リヴは俺に複雑な視線を向けてくるが、なんとなくその意味は理解できる。

 一つの意味は感謝だろう。もう一つは――。


「カ、カイトはエルフ王家においてどういう人物なのでしょうか?」


 リヴは気になったのだろう、思わず王妃様に問いかける。

 王妃様は少し考える素振りを見せてから答える。


「そうですね……『家族』でしょうか」

「か、家族ですか?」


 リヴが驚いた様子で、そのまま聞き返す。


 た、たしかに将来的にという前置きをすれば間違ってはいないのかもしれないが……。

 認められているというのは嬉しいが、俺の胸中も複雑だ。


 リヴとしてはその答えは予想していなかったのだろう。表情が困惑に染まっている。


「カイトさんに関して今言えるのはそれくらいです。意味は後々わかることでしょう」


 王妃様は逆にリヴの困惑を楽しんでいるかの様子でそう発言する。


 リヴの方もそう言われては深く聞くことができない。

 続いて王妃様の興味はレイアへと移る。


「レイアさんとおっしゃっいましたね。あなたは……」


 王妃様の視線が俺とレイアを往復する。

 その様子を察してレイアは自ら自己紹介を始める。


「……お初にお目にかかります王妃様。私はカイト様の『側室』候補のレイアと申します」


 淀みない口調でレイアがとんでもない発言をする。


 えっと……何の話? 

※重要な報告


異世界ダンジョンでRTA1巻の続きに当たる本が4/20(水)に宝島社より発売予定です。


今回の話はweb版の内容から変更が多々あるので、既にweb版を読んでいただいた方も新鮮に楽しめるかと思います。


ただし!!(ここ重要) 本のタイトルが若干変更になっております。変更後のタイトルは以下の通りです。


『最速勇者の神ダンジョン攻略 異世界リアルタイムアタック』


変わらずお読みいただければ幸いです。

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