第51話 スキル2
『アール王国ダンジョン単独攻略者(上級)』 スキル補正 S 複写
『アール王国ダンジョン単独低レベル攻略者(上級)』 スキル補正 S+ 創造
前回得たスキルは名前を見ただけで効果が予想できた。だが今回は少々わかりにくい。
俺は、はやる気持ちを抑えスキルの効果を確認する。
S 複写 :自身の見た魔法を一度だけ再現できる。
S+ 創造:自身の見た魔法を一度だけ再現できる。
……えっと。
全く同じ効果に見えるが……?
違うのはスキルのランクと、名前だけに思える。
試してみないことにはわかりようがないってやつか。
それにしても、効果の説明を鵜呑みにするなら、これは魔法が使えるスキルだ。
これはもしかしてすごいことなのでは……。
いや、ぬか喜びになるかもしれない。もしかすると魔法の才能がない俺のような者には扱えないスキルで、魔法使い専用という可能性もある。
……そういえば丁度魔法が使えるリヴがいるんだった。試練から戻ったら少し実験に付き合ってもらうか。
その他に取得した称号もチェックする。
『アール王国ダンジョン最速記録保持者(上級)』 ステータス補正 敏捷値 一段階、精神 三段階上昇
使えそうなのは……このあたりか。
だが、これだけ称号が増えてくると、称号の組み合わせは再考が必要だな。
状況により付け変えることはもちろんできるが、メインとなる組み合わせは考えた方がいいだろう。
現状四個しか付けられないわけだし……。
とりあえず最優先で新しいスキルは試してみたい。
俺は称号を一つ外して、S+のスキル『創造』の補正がある称号をつけようとする。
「ん? おかしいな」
称号は現在三個しか付けていない。しかし、選んだ称号が追加される気配はない。
付けられる称号が減った? そんなまさか……。
不安になり、外した称号を元に戻してみる。
すると、称号は元通り四個目の位置に収まった。
一体どういうことだ?
元に戻せたので内心安堵するが原因は不明だ。
最初に懸念した通り魔法が使えないと称号自体が付けられないということだろうか?
もしくは、スキル補正のかかる称号は、一つしか付けられないとか?
十分考えられる話だが……。
俺は半ば諦めかけていたが、念のためスキル『複写』の方も試してみる。
すると意外にも四個目の称号として、『アール王国ダンジョン単独攻略者(上級)』 スキル補正 S 複写
という文字列が表示される。
え?
たしかに称号は四個だし、スキルも二つになっている。
少々俺の頭は混乱する。
余計わからなくなった。
俺はもう一度、創造のスキルを付けてみようと試みる。そして再び失敗する。
「どうなってんだ……一体?」
独り言にしては俺の呟きは大きかったらしく、俺に合わせるように自分のステータスカードを眺めていたレイアが怪訝な表情を向ける。
俺は言葉を発さずに、なんでもないとジェスチャーで伝える。
さすがにこのステータスカードを見せて、すべて説明した後に意見を聞いてみるという勇気は俺にはない。
いや、別に俺のカードを見せる必要はないな。
もしかしたら俺が知らない情報を持っている可能性もある。限りなくゼロに近いと思うが……。
「レイア、やっぱり聞きたいことがある」
「……はい。なんでしょうか? 私で答えられることでしたらなんでもお答えしますが」
質問されるのが、嬉しいのだろうか? 心なしか頬笑みが浮かんでいるような気がする。
まあそれでもほぼ無表情なんだが。
「称号についてどんな知識を持っている? どんなことでもいいから聞かせてくれないか?」
「称号……ですか」
称号についての知識は俺も未だに手探りの状態だ。あえて質問の内容を絞らずに聞いてみることにした。
レイアはしばらく思案している様子を見せる。
「……私も、称号に関しては大した知識は持ち合わせていません。知っているといえば、偉業を達成した者に与えられる。金銭的な見返りがある。自身の能力値に補正がかかるものがあるといったことでしょうか……」
まあたいして期待していなかったが、本当に基礎的な知識だな。
俺はレイアの話に興味をなくしそうになるが、次に彼女の口から意外な言葉が発せられたことで、再び関心がわいてくる。
「そういえば、これは何かの文献で読んだ記憶があるのですが、先天的にスキルを所持していなくても、称号の補正により使えるようになる場合もあるそうです。但し、裏付けはありませんが」
他人から、初めてスキル補正の話が出たので俺は少し驚いた。
文献に出ているということは、一般的な知識なのだろうか?
詳しい内容が知りたいな……。
「その文献はレイアが持っているのか?」
「……持っていると言っていいものか、持っていないと言ったほうがいいのかもしれません」
何やら禅問答みたいな話だ。
「つまりどういうことだ?」
しびれを切らして回答を求める。
「私室の蔵書にあるのは間違いないのですが……いかんせん私の本ではありません。国の本というのが正しいでしょうね」
「……なるほど」
そういえば、部屋で本ばかり読んでいたと言っていたっけな。しかも王家所有の本か、やはり一般的な家庭で読める代物ではないのかもしれない。
講習でもスキルに補正が付くものがあるとは習わなかったしな。
しかし、私室か。レイアと一緒に行けば、持ち出せなくても見るくらいは可能だろうか?
うーん。だが、レイアは国に味方はいないと言っていたしな……。
まあ、とりあえず本人に内容を聞いてみてからでもいいだろう。
「他にその文献には称号に関して書かれていたのか?」
「他……ですか? 正直かなり記憶がおぼろげで……読んだのも随分と前のことなので」
「わかった。無理に思い出す必要はない」
それなら仕方ないな。
「……そういえば称号に関して、もう一つ思い出しました。あまり役に立ちそうにもない内容なのですが」
「念のため話してみてくれるか?」
「……わかりました。これは城で聞いた話なのですが、どうやら複数の称号を同時に付けることができる者もいるようです」
「……」
俺にとっては当たり前過ぎてあまり気にしていなかったが、そういえば教官も複数の称号を付けられるとは言っていなかったような……。
「だけど普通二個の称号を持っていたら二個付けられるものじゃないのか?」
俺は少なくとも四個目までは普通に付けることができた。
「普通は付けられないと聞きました。そもそも複数の称号を持つ人さえ冒険者の中でも少ないようですから」
だとすると、条件は一体……?
「そういえば、これも文献で読んだのですが過去に、一つだけ称号を手に入れてなおかつそれが付けられなかったという者もいたそうです」
「つまり一個目から駄目だったということか?」
「はい……そうだと思います」
待てよ……。
レイアの発言がきっかけで頭の中に一つの仮説が浮かぶ。
俺は目の前のレイアのことも気にせず、再び視線をステータスカードへと戻す。
そして、称号の入れ替えを行う。
結果意外な事実が判明する。
「なるほどな……」
「……一体何がですか?」
俺の独り言にレイアはすかさず反応を見せる。
「称号に関して一つわかったことがある。まだ絶対とは言えないけどな」
「……それは何でしょうか?」
説明するのは構わないが、レイアにとってさほど意味のあることとは思えない。
「教えるのは全く問題ないが、あまり意味はないと思うぞ?」
「……それでも構いません」
目が輝いている。
知的探究心が旺盛なのだろう。それとも称号に関しての興味か? まあどちらでも構わないか。
「称号の付け外しに関してわかったことがあるんだ。先程レイアの話を聞いてもしかしたらと思ったんだが、どうやら称号には個別にコストが設定されているらしい」
「……コストが設定?」
レイアは首をかしげる。
いかん、さすがに通じる訳がない。
「いや、すまん忘れてくれ。つまり……なんて言っていいか、称号の種類によって付けられるか付けられないかが決まるというか……」
ってこれじゃあ全く理解できないか?
何て説明すればわかりやすいんだ?
「どういった称号が付けられる称号でどういった称号が付けられないんでしょうか?」
どうやらこちらが気にするでもなく、わからないことはどんどん質問してきそうだ。
「付けることで、大きい恩恵が得られる称号が付けられない称号だ。いや、付けにくいと言った方が正しいな」
「付けにくい……ですか?」
「ああ、称号を所持している本人に資格があれば付けられるし、なければつけられない。シンプルな話だ」
レイアの表情を見るとまだまだ質問が出てきそうだ。無理もないが……。
「資格? どうすれば恩恵の大きい称号が付けられるようになるのですか?」
「実は、その点に関してはまだわかってない」
もちろん本当のことだ。レベルなのか、攻略したダンジョンなのか……現段階では全くわからない。
俺は続けて補足する。
「ただし、得られる恩恵の低い称号ならば複数つけられる可能性がある」
「……」
レイアは黙って聞いている。
「わかりやすく数字で説明しようか。たとえばレイアの称号を付けられる資格を10と設定しよう。その場合11の資格が必要な称号は付けられない。わかるな?」
「……なるほど。つまり、5の資格が必要な称号は2個付けられて、3の資格が必要な称号は3個まで付けられるということですか?」
「……そうだ」
どうやら今の説明で理解してくれたらしい。
だが、さらにレイアの言葉は続く。
「ですが、実際カイト様はどうやってそれを確かめ……」
レイアは言葉を途中で飲み込む。
「……愚問でしたね。カイト様は上級ダンジョンですら攻略しているお方、それを確かめるだけの資格も、称号も持ち合わせているのは当然ですね」
「……一応な」
レイアにごまかしはもう無理だろう。
まあ、さすがに補正の効果やら、スキルの話を自分からするつもりはないが……。
「待たせたな」
レイアと話し込んでいるところを唐突に声がかけられる。
声色から、待ち望んでいた人物であることを察する。
俺は自分のスキル欄に『S+ 創造』が表示されていることを確認してから、声の主に返事を返す。
「待ってたよ。少々お願いがあるんだが……」




