第50話 新たな称号
初級ダンジョン入口の前まで戻って来たが、二人の姿は確認できない。
おそらくまだ試練を受けている最中だろう。
上級ダンジョンは思ったよりも時間がかからなかったしな。
ということは、魔法陣の前で待っていた方が確実か……。
俺は二人を出迎えるために、ダンジョン内へと移動する。
しばらく待っていると、魔法陣からレイアが登場する。
その表情には多少の疲れが滲んでいる。
「おつかれさん。随分と早かったな」
彼女へ労いの言葉をかける。
もちろんお世辞を言ったつもりはない。精霊から聞いていた時間より大分早いからな。それだけ彼女は優秀だということだろう。
「ありがとうございます。多少時間はかかりましたがなんとか攻略できました」
俺はボス部屋の試練がどのような内容だったのか興味が沸いたが、試練を受けたはずの俺がそれを聞いたら明らかに変なので、言葉を飲み込む。
「……カイト様」
レイアがおずおずと口を開く。
「ハリー様に宣言していた通り、この後は中級ダンジョン攻略を目指すのですか?」
ハリーか。
エレノア女王の側近という話だったが……。
そういえばハリーには中級ダンジョンを攻略すると言ったんだった。
攻略に成功しても、失敗しても俺にとってマイナスはほとんどなかったからな。
結果的に中級ダンジョンは攻略していないが、上級ダンジョンの攻略には成功している。
イコール、目的は達成したとみてもいいだろう。まあ、運によるところが大きいが……。
あえて中級ダンジョンを攻略するメリットは感じられない。
「中級ダンジョンの攻略だがな……やめることにした」
レイアは意外そうな顔で俺を見つめる。
「……なぜですか? 今回のダンジョン攻略でカイト様が発揮された実力は私の想像以上のものでした。中級ダンジョン攻略は簡単なものではないでしょうが、カイト様ならもしかしたら――とも思っています」
たしかに初級ダンジョンの攻略っぷりを見てたらそう思われても仕方ないのかもしれないが、それはとんでもない過大評価だ。
しかし、レイアに上級ダンジョンを攻略したと素直に言っていいものか判断に迷った。
話したところで信用してもらえるかという問題もある。
考えた末に、冗談と受け取られてもかまわないので話してみることにする。
「中級ダンジョンの攻略をしない理由……それは既に上級ダンジョンを攻略済みだからだ」
「……? 御冗談を、一体いつそんな時間があったと言うのですか?」
レイアの口調から俺の言葉を全く信じていないことがうかがえる。
予想はしていたが、説明に骨が折れそうだ。
「いや、初級ダンジョンを攻略した後に……」
「それこそ信じられません。私たちがボス部屋の前で別れてからまだそんなに時間が経っていません。その間に上級ダンジョンを攻略したなどと……」
完全に冗談だと思っているらしく、レイアの表情に疑問と若干の怒りが垣間見える。
まずいな……。どうすれば信じてもらえるか、頭の中でシミュレートしてみる。
――その結果。
無理だ。どう考えても無理だ。
精霊を脅して上級ダンジョンをクリアしたなんて話、誰が信じるんだよ。
精霊が人間やエルフとは比較にならない程の実力を持っているというのはこの世界では周知の事実だ。
もしかすると、俺が称号により魔法攻撃を吸収できるスキルを持っていると告げれば、話に信憑性は出るかもしれないが、正直それは避けたかった。
スキルの情報が漏れたら冒険者にとっては死活問題だ。講習でも口を酸っぱくして言われたからな。
レイアは信用できるとは思うが、情報は本人の意思とは関係なく漏れる可能性もあるしな……。
だが、他にうまい説明も思いつかない。
迷った挙句正直に、起こった出来事を話し、レイアの反応を見てみることにする。
俺はボス部屋でのことをレイアに順を追って話す。
もちろんスキルに関しては触れない。
普段、感情が表情に出ないレイアでさえも、さすがに驚ているように見えた。
「カイト様、質問をよろしいでしょうか?」
「……許可する」
「部屋に現れた精霊を脅したとおっしゃっていましたが、精霊がカイト様に従う道理はないように思えるのですが……」
まあ、当然の疑問か……。レイアがその部分をスルーしてくれるはずもなかったみたいだ。
俺は仕方なく、用意していた言葉を告げる。
「残念ながら、それは秘密だ」
俺の言葉に、何やら思案しているレイア。
「……なるほど。話せないとおっしゃるのならこれ以上は聞けませんね」
思った以上にあっさりと引き下がるレイアに疑問を感じずにはいられない。
「随分と簡単に諦めるんだな」
「……おおよその事情は理解できたつもりです」
おいおい。本当かよ……。
察しが良すぎるなんてもんじゃないぞ。
まあ、本当にせよそうじゃないにせよ、引いてくれたことに関しては助かった。
あえて蒸し返す必要もないだろう。
だが、ひとつの疑問が残る。
「俺の話を信用したと思っていいのか?」
「ええ、もちろんです」
何が彼女にそう思わせたのだろうか……?
「……カイト様、私に信用させるだけなら言葉を使わずとももっと簡単な方法があると思いますが」
ん?
どういう意味だ?
少し考え、理解する。
なるほど、ギルドカードがあったな……失念していた。
レイアは信用してくれたらしいが、見せておけば確実だな。
自分でもアール王国の上級ダンジョンが攻略済みになっているのを確認してから、カードをレイアに見せる。
「ほら、ちゃんと攻略済みになっているだろう?」
カードを真剣に見つめるレイア、意外にもその表情は驚きに満ちている。
信用していると言っていたが、半信半疑だったということか?
「……そうですね。たしかにカイト様がおっしゃった通り、アール王国上級ダンジョンは攻略済みになっています。ですがそれより私が気になるのは、帝都の上級ダンジョン攻略済みと記載されている方ですね」
げっ!
いらぬ情報を与えてしまった……。
どうやってごまかそう。いや、ごまかす必要はないか? だが、むしろ帝都の上級ダンジョン攻略に関しての方が説明に手間取りそうだ。
というかこれは俺の方が聞きたいくらいだからな。
「……たしか、風の噂で帝都のダンジョンは難易度が高く、中級ダンジョンですら攻略者が出なかったと聞いたことがあります」
良くご存知で……。
仕方がないな。もう攻略したと開き直ってしまうか。
「攻略したのはつい最近だからな。まだ情報が広まってないんだろう」
「ということは、立て続けに二つの上級ダンジョンを攻略したというわけですね……私はすごい方に仕えようとしているのかもしれません」
……。
気にしない。気にしない。
いや、やはり一言くらい言っておくべきか。
「俺はそんなにすごい奴じゃない」
「……それはご謙遜が過ぎると思われます。カイト様以外に上級ダンジョンを攻略した者など聞いたことがないのですから、十分誇って良いと思いますが……」
何を言っても無理そうだ。
甚だ不本意だが、今のところは甘んじて評価を受けておこう。
俺は他人から評価されるのは嫌いではないが、それは評価に対し実力が伴っている場合だけだ。
レイアからの称賛、追及をかわしつつ、リヴがダンジョンから出てくるのを待つ。
そうだ、今の内にステータスカードをチェックしておこう。
上級ダンジョンを攻略したのだから、また称号を得たのは間違いないはず。
俺はステータスカードを出し、称号欄のチェックを始める。
俺の目に一番に飛び込んできたのは新たなスキル補正が付く称号だった。
10月7日に宝島社より『異世界ダンジョンでRTA』一巻が発売!!
是非よろしくお願いします。