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第42話 初めての依頼

「知識のダンジョン?」


 何やら不穏な響きも聞こえたが、俺の興味は耳慣れないダンジョンの名前へと注がれる。

 物欲しそうな視線に気がついたのか、レイアが説明してくれる。


「……我が国のダンジョンは地元では知識のダンジョンと呼ばれているのです。その名が示す通り、攻略には力より頭脳が求められます」

「頭脳ね……」

「たとえ初級ダンジョンであっても、攻略に成功した者は高い評価を得られます」

「中級や上級ダンジョンまであるのか?」

「……はい、さすがに上級ダンジョンともなると難易度も高く、まだ攻略者が出たという話は聞いたことがありませんが……」


 なるほど。

 おもしろそうな話ではあるが……。


 俺は先程レイアが発言した言葉に、気になる点があった事を思い出す。


「さっき国政がどうとか言ってなかったか?」


 俺の問いかけに、レイアはほとんど表情を変えずに返答する。


「……はい、ダンジョン攻略に成功すれば……という条件付きではありますがカイト様にも国政に対し発言力が与えられる事になります」


 俺は内心で焦る。

 冗談ではない。

 俺に政治をできるような知識や才能はない。

 レイアには悪いがやんわりと拒否する方向に持って行くことにしたいが……。


 俺はハリーに視線を移し質問する。


「いや……さすがに俺のような若造を政治に参加させるのは周囲が納得しないんじゃないか?」


 その言葉にハリーは少し意外そうな表情で俺の質問に答える。


「いえ、たしかにどこの国民も年を重ねた指導者を求める傾向はあるのですが、大抵の国では世襲により高い身分を得ます。その結果、若くして政策に参画するのもさして珍しいことではございません」


 なるほど。

 どうやらこの世界では世襲制が一般的なようだ。


 いや、そもそもその程度の基本的なことも知らないようでは話にならないだろう。

 もしかして、今の質問によってハリーが考え直すかもしれない。

 少し期待してハリーの表情を窺う。


 だが、続けて発せられたハリーの言葉は俺の望んでいたものではなかった。


「ましてやカイト様なら資格十分と言えます。その立場や経歴を公表すれば国民を納得させるのにも全く問題はないでしょう。ダンジョン攻略を条件としたのはむしろ内部の人間を納得させるためです」


 意訳すると、実力者なのはわかるが頭のできは如何なもんか調べたいといった感じだろう。


 話はだいたい理解できた。

 しかし、ダンジョン攻略自体には魅力はあるが、政治の方には全くと言っていいほど興味はない。


 だが、今の話を聞いた感じでは、あくまでも政治に参加する権利をやるという程度に聞こえた。

 つまり自由意思で参加、不参加を決められるということだと思う。俺の行動の足枷になる可能性は低そうだ。

 それに口を出したい時は出せるわけだから、むしろメリットの方が大きいのかもしれないが……。


 なんとかポジティブな考えを持とうとしてみるが、俺の中ではやはり面倒だという気持ちも大きい。


「攻略するダンジョンは初級でいいのか?」


 ハリーに確認を取っておく。


「ええ、もちろんです。初級とはいえかなりの難易度を誇るという話ですからな」

「……その通りです。そのせいで我が国でもあるアール王国の順位は実際の国力よりかなり下になっていると聞きました。国内の冒険者は、あまり攻略できていないのが現状のようです」


 なるほどな。

 冒険者が初級すらまともに攻略できないんじゃ国内でポイントなんて稼ぎようがない。

 他国で稼ぐか、それとも他の方法を考えるかしなくては自国の順位は低いままだ。


 ポイント制度が始まったばかりなのにアール王国の大臣がろくに下調べもしていない様子でエレノアに来た理由が少し理解できた気がする。

 格下と思っていた国が自分より遥かに上位に来たんだ。

 何かしら焦って行動を起こしたとしても無理はないのかもしれない……。

 この分じゃエレノアだけでなく他の周辺国にも友好のために使者を送っている可能性もあるな。


「仮にカイト様がアール王国の中級ダンジョンを攻略するようなことがあれば、むしろ積極的に国政に参加して頂きたいものですな」


 ハリーの言葉に、レイアが釘を刺す。


「……ハリー様、条件を違える事のないようにお願いします。あくまで条件は初級ダンジョンの攻略の筈です。中級ダンジョン攻略者はアール王国では現在三人しかおりません。その者たちは三賢者と呼ばれ国の重職を担っております。カイト様の年齢で彼らと同じレベルをお求めになるのは少々酷というものでしょう」

「わかっておりますとも。たとえばのお話です」


 ハリーはレイアをなだめるジェスチャーをしながら、俺へと視線を移す。


 挑発でもされているのだろうか?

 世界一の肩書きを持っているなら可能なのではと暗に言われている気がする。

 どういう反応をすべきだろうな。

 考えた末に言葉を返す。


「……俺も馬鹿にされたものだな」

「……カイト様?」


 レイアが不思議そうな声を上げる。

 気にせずに俺はさらに言葉を続ける。


「もちろん攻略するとしたら中級ダンジョン攻略も視野に入れるつもりでいる。事実、簡単に攻略できるだろうからな」

「ほう……」


 ハリーの鋭い視線を感じる。

 発言の真意を探ろうという意図だろうか。


 俺の発言に反応を示したのはもちろんハリーだけではない。


「……カイト様、御冗談ですよね?」

「本気さ、俺は冗談が何よりも嫌いだからな」


 レイアは俺に懐疑的な視線を向けてくる。僅かながら怒気も含まれている気がするのは気のせいではないだろう。

 彼女からしたら、せっかく自分でまとめた話を台無しにされたように感じただろうからな。


 だがレイアには悪いがこの展開は俺にデメリットはない。

 大口を叩いたことで、万が一初級ダンジョンを攻略したとしても、国政への参加なんてものは辞退しやすくなった。

 中級ダンジョンに関しても、三人しか攻略していないとなるとその難易度は相当なものだろう、タイムアタックなら負けたくはないが、レイアの話や知識のダンジョンという名前から察するに大事なのはスピードではなさそうだからな。

 自分でも全く攻略できる自信はない。


 だが、その結果攻略できずに俺に対する周囲の評価が下がるのもなんら問題はない。

 逆に今までの過大評価っぷりを返上して、なおかつ頭は少々弱い程度に思われていたほうが今後何かとやりやすくなるだろうしな。


 ただ、難しいと聞くと挑戦したくなるのが俺の本音だ。

 俺の心は既にダンジョン攻略へと向かっていた。


 城売却の話がまとまり、彼らが帰った後でさっそくレイアが俺に言葉を投げかけてくる。


「……カイト様、さきほど発言した内容ですが、どういう意図があったのか説明して頂けませんか?」


 参ったな。

 ハリー側ばっかり意識していたせいで、姫への言い訳は考えていなかった。

 たしかに姫から見れば俺が自分でハードルを上げたようなもんだからな。

 さすがにこのままじゃ姫は納得しないだろう。俺に評価してもらいたくてやったことだろうし……。


「少し、俺なりに考えがあってな。しかし……さすがレイア、見事な交渉術だった。まさかハリーからあんな条件を引き出すとは思わなかった」


 俺はさりげなく話題をずらしてみる。

 レイアも褒められてまんざらでもなかったのだろう、幾分優しい口調で、俺に問いかけてくる。


「……だったらなぜあんな挑発に乗るような真似を?」


 どうやら流してはくれないらしい。


「……少しだけ待ってくれないか? 後で必ず理由は明かす」

「……わかりました」


 表情からは読みとれないが、内心は不満に感じている可能性は高いだろう。

 だが現状で説明する訳にもいかない。俺がダンジョンを攻略できるかはまだ未知数だ。

 保留のままにしておけば、初級ダンジョンで失敗しようが、中級ダンジョンで失敗しようがいくらでも説明はできる。


 俺は話題を変え、彼女から知識のダンジョンについて詳しい話を聞いてみることにする。

 彼女から簡単な説明を受けた俺は適当なところで話を切り上げ、レイアに休むように促す。

 渋々といった感じだったが、その日は休むことになった。


 ――翌日


 俺は、早い時間にひとりでギルドへと向かう。


 ミントが既に受付にいたので、軽く挨拶をする。


「カイト様、今日は何のご用でしょうか?」


 ミントはどこか訝しげに俺を見つめる。

 まあ、昨日来たばかりだしな。


「依頼したいことがあるんだ」

「カイト様が依頼……ですか?」

「ああ」


 意外に思ったのか驚きの表情を見せる。

 ただ、すぐに思い当たることがあったのか、こちらに問いかけてくる。


「もしかして、何か情報を?」

「情報と言えばたしかに情報だな」


 その発想は前回のマリスの例があったからだろう。

 実力者が依頼をするというのはあまりないらしいからな。


「人を探して欲しいんだ」

「人探しですか……。詳しく説明して頂けますか?」

「ああ、探して欲しいのは、転移魔法を使用できる者だ。できればアール王国に飛べる方が助かる」


 昨日、ハリーが帰った後、レイアと今後の方針について話した結果、転移でアール王国へ向かうということになった。

 大臣を呼びつけることも考えたが、味方や中立である保証はない。

 できれば動きを悟られるのは避けたかった。

 そしてレイア曰く、なるべくなら早めに動いた方がいいとのことだったので、今日動き出すことに決めたのだった。


 なんか乗せられている気がしないでもないが……。


「転移魔法……そうなるとかなり人数が限られますね。ただし、どの場所まで転移できるかはギルドでは把握していません。アール王国は隣国なので、この国にいる方ならほぼ大丈夫だとは思いますが」

「とりあえず素早く連絡がつけられそうな相手を紹介してもらえるか?」

「わかりました。少々お待ち下さい」


 そう言って、ミントはギルドカードに似たようなものとにらめっこを始めた。


「条件通りの方で、現在依頼を受け付けているのは、一名だけですね」

「受付けている? そんな事がわかるのか?」


 疑問に感じて、思わず尋ねる。


「ええ、ギルドカードの設定で依頼受付可能に設定しておくと、リスト上に名前が載りますから。ですが、特殊な才能や技術のない方に指名依頼が来ることなんてほとんどないですけどね」


 なるほど。

 いずれ使用する機能かもしれないな、おぼえておこう。


 俺の考えを読みとったかのようにミントから警告される。


「受付可能に設定したら、様々な依頼を頼まれると思いますが……気をつけて下さいね」

「どういうことだ?」

「カイト様ですと国家規模の依頼を申し込まれる可能性高いと思います。基本的に強制ではないので断る事もできますが……けど国からの依頼は報酬も莫大だという話ですけどね」


 俺はげんなりする。

 高額な依頼は受けないようにしよう。


 おっと、そういえば依頼話の途中だった。


「すまない、話の腰を折ったな。リストアップできた一名について教えてくれ」

「はい、ただし一部の情報は守秘義務がありますのでお伝えできません。あらかじめご了承ください」


 俺は黙って話に耳を傾ける。


 ――ミントから得た情報を頭の中でまとめる。


 名前はリヴ。

 種族はエルフの男性……まあ高等な魔法を使う者といったらエルフの可能性が高いとは思っていた。

 レベルやスキルの類はどうやら秘密らしい。ただ知らないだけかもしれないが……。


 ギルドカードでエレノア国内のランキングを調べてみるとリヴという名前は三位に表示されていた。

 かなりの使い手だ。戦ったら負けそうだな……。


 ギルドで連絡をつけてくれるというので、しばらく待つことにする。


 ――ミントと雑談を交わしていると、耳慣れた機械音声が響く。


「エレノアランキング三位、リヴ様がギルドに入られました」


 まさか本人がいきなりギルドへ来るとは思わず、少し驚く。

 姿を確認するために、ギルドの入口へ視線を向ける。


 エルフだけあって美形……そして若く見えるが、エルフの年齢はわかりずらい。

 もしかして結構な年だという可能性も有る。本人に確かめてみないとなんとも言えないだろう。


 エルフの男は既に事情は知っているのか、真っすぐこちらに向かってくる。


「あんたか……俺に転移魔法を使って欲しいというのは」


 あまり乗り気ではない口調で話しかけられる。


「そうだ。隣国であるアール王国まで頼みたい」

「要人だと聞いたから急いで来たというのに……まさか実力もコネも大したことなさそうな子供だとはな……」


 いきなりご挨拶だな。

 まあ、たしかに要人とは程遠いけどな。

 ギルドの奴らがなんて説明したかはわからない。俺がそうだったように名前や種族、その他簡単な情報以外は与えられていないのかもしれない。


 ただこんな程度で腹を立てていてもしょうがない。

 気にせず本題に入ることにする。


「俺ともうひとりを連れて行って欲しいんだが、料金はどれくらいかかる?」


 リヴという男は少し考える素振りをみせてから答える。


「……ひとりにつき金貨十枚ってところだな」


 転移魔法を利用した依頼の相場がいくらなのかは俺の知識にはない。だが……随分と法外じゃないか?


「さすがにその値段は……」


 ミントが会話に入ってこようとするが、リヴがそれを制して言葉を続ける。


「こいつがどこのボンボンかは知らないが、金は持ってるんだろう? つまらん依頼だしそのくらい貰ってもバチは当たらないと思うがな」


 俺が年下ということもあってか言葉に遠慮がない。

 さすがに気分は良くない。

 俺は、ミントが何か言い返してくれるのではないかと期待を込めた視線を送る。


「えと……そうかもしれませんね」


 だがミントは俺のフォローをしてくれるなんて事はない。

 彼女の俺を見る視線は、どうせお金なんて腐るほど持ってますよね? とでも言いたげだ。


 おいおい。

 こっちの懐事情も知らないで……。

 普通ギルド職員なら、法外な依頼料だったら是正して然るべきだろう。


 さすがに今の俺ではひとりにつき金貨十枚なんて払えない。

 だが、転移を使えそうなのがこのエルフくらいしかいないとなるとなんとかして頼むしかない。

 本意ではないが、ランキングを明かして反応を……。


 いや……待てよ。

 エルフ……エルフか。

 もしかすると……。


 俺は大げさにため息をついて、独り言を言う。


「……エリザには残念な報告をしなくてはいけないな」


 その言葉にリブは激しい反応をみせる。

 予想通りエルフの彼には重要な名前らしい。


「何だと? 今なんて言った!?」

「ん? 別に……」

「とぼけるなよ。もう一度言ってみろ」

「残念な報告をしなくてはいけないな……だったか?」

「違う! その前だ!!」


 リヴという男はだんだんとイラつきを見せ始める。

 先程の彼の発言を考えると、まあお互い様だろう。


「何か言ったかな……」

「いまエリザと言っただろう?」

「そうだったか?」

「たしかに言った。エリザとはエルフ国の姫であるエリザ様のことか?」

「さて……どうだったかな」

「おいおい、とぼけるなよ。エリザ様がどうしたって?」

「いや、別に……」


 俺がすっとぼけているとリヴは少々の笑顔を浮かべ、強引に肩を組んでくる。

 すごい変わり身だな。


「ま、まさか会ったことがあるとか?」


 興奮気味に問いかけてくる。

 俺は平然とした口調で返答をする。


「……まあな」


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