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第40話 質問

 あまり考えている時間もないな。


 役に立つという言葉を信じてみるか?

 ……だが、あっさり承諾するのも微妙な感じがする。

 俺は考えた末に、条件付きで彼女を雇うことに決めた。


「わかった。とりあえず君を城に置こうと思う」

「……ありがとうございます」


 表情の変化に乏しい姫だが、この時ばかりは嬉しそうな頬笑みを見せる。

 その笑顔に、俺は続く言葉が言いにくくなるが、心を鬼にして告げる。


「……ただし」

「ただし?」

「しばらくの間、様子を見る。それで何にも成果が上がらないようなら……」


 みなまで言わなくても伝わったらしく、彼女は黙って頷く。


 大臣と合流するまでに、レイア姫と軽く打ち合わせをしておく。

 多少の口裏合わせはしておいたほうがいいだろう。

 どう考えても、大臣から見て俺は乗り気じゃなかったと思うからな。

 心変わりの理由くらいは用意しておいた方がいいだろう。



 ――大臣たちと合流した俺は姫を城へ置く旨を伝える。


 予想通り心変わりの理由を勘ぐられたが、打ち合わせた通り怪しまれないように理由をつけておく。

 なぜ大臣への応対にこんなに慎重になるかというと、それは姫のリクエストだったからだ。

 なにか事情があるのだろう。

 後できっちり説明してもらわなければな。


 大臣は、さほど時間を要すること無く、姫を雇い入れることに関して納得してくれた。

 むしろ喜んでいたように感じた。

 まあ無理もないだろう。人選が大臣の手によるものだとしたら、選んだ者が責任をとらされる可能性もあるかもしれないしな。


 仕事を終え、ほっとした表情を見せた大臣は、何故かそのまま帰ろうとする。


 肝心な話がまだ済んでないが……。

 このまま、見過ごすのもありだが、もう一度訪ねて来られても面倒だ。


 俺は手持ちから金貨を少々取り出し、大臣の手に握らせる。


「……こんなものでいいか?」

「これはこれは……ありがとうございます」


 大臣は金額に満足そうな表情を浮かべる。

 どうやら、適正な金額だったらしい。

 むしろ払い過ぎたか?


 お礼を言って大臣は自分の国へと帰って行った。


 大臣たちを見送って、二人きりになると姫から意外な言葉をかけられる。


「……驚きました。政治的な判断もおできになるのですね」


 ……?

 どういう意味だ?

 俺は、彼女の言っている意味が理解できず、思わず聞き返したくなったが、思いとどまる。


 もしかして、自分が金で雇われることを知らないのか?

 ……その場合、正直に話すと姫は気分を害してしまうかもな。

 今は機嫌がいいみたいだし、あえて話す必要はないか。


「……カイト様はきっと近い将来名実ともにエレノアのトップになられる器だと思います」

「近い将来も何も現時点で世界のトップだけどな……」


 突然名前で呼ばれ少し動揺するが、一応突っ込みを入れておく。

 いつランキングから落ちるかわからないからな……。

 すでに知っている相手には、きっちりと主張しておこう。


「……カイト様はユーモアのセンスでもエレノアで一番になれそうですね……フフッ」


 そう言ってレイア姫は、肩を震わせている。


 ……彼女なりの冗談のつもりなのだろうか?

 俺のランキングを本当に知らなかったとしたら、先程までの話が、かなりおかしいことになるんだが……。

 もしかして、エレノア内でのランキングしか見ていない可能性もあるな。


 まあ、俺のことはおいおい知ってもらえばいいだろう。

 とりあえず俺は、姫の話に合わせておく。


「レイア姫の返しのうまさも、エレノアではトップクラスだと思うぞ」

「……ありがとうございます」


 軽く頬笑みながら姫は頭を下げる。

 ……相変わらず、どうにも考えていることが読みづらい。


 俺は表情やしぐさなどから姫の考えを理解しようとすることを諦める。

 ……仕方ないな、彼女のこともおいおい知っていけばいいだろう。もちろん彼女自身の口からな。


「城へ戻ったらいくつか説明してもらいたいことがある」

「……心得ております」


 淀みなくそう答える姫。

 さて、どんな話が飛び出すやら……。



 ほどなく俺と姫は城内へ戻る。


 レイア姫の様子を窺うとあたりをキョロキョロと見回している。

 何か気になる点でもあったのか?


「実は……先程から気になっていたのですが、城内に人が少な過ぎませんか?」


 ……なるほど。

 当然の疑問だな。


 もちろん現時点で俺の城であることは間違いないので俺がひとりで住んでても問題はない。

 だが確定はしていないが、ある意味では売約済みとも言える。

 説明もややこしくなりそうなので俺は城を王家に売り払い、人が戻ってくるという前提で話すことにする。


「……少し外に出ているんだ」

「……なにかあったのですか?」

「ああ……ちょっとな」


 俺は即答できずに言葉を濁す。

 姫は俺が言いにくそうにしているのを察知したのかそれ以上の追及はしてこない。


 だが、さすがに何の説明もしないわけにもいくまい。

 俺は細部までは事情を話さず、ただ事実のみを伝えることにする。

 姫の人物像を見極めたい思いもある。

 すべてを話すのは時期尚早と結論づけた。


「他の者は城を出ている。ここ数日中に戻るはずだ」


 だが、本当に王家の者が戻ってくるのかは定かではない。まあ戻らなかった場合は、そのときにまた考えればいいだろう。


「他の者は出ているってまさか全員ですか?」

「……そうだ」


 その返答にはさすがのレイア姫も驚きを隠せなかった様子だ。


「……そ、そういえば外にも全く警備の兵がいませんでした。本当に?」


 俺は黙って頷く。

 姫はしばし考え込む態度を見せる。


 普通ならありえないと思うところだが、この国の経済状況を知っている姫のことだ、エレノアならあり得るかもと思っているのかもしれない。

 実際に人手不足という理由で俺が大臣に人材を要請していることも信憑性も高めるのに一役買っている可能性もあるな。


「……も、もしもですよ? いま城が何者かに襲撃を受けたらどうなさるのですか?」


 姫の心配はもっともな話だ。

 ただ正直に答えるとなると、ルカの事も説明しなければならない。

 ルカには俺が不在時には誰も城に入れないように魔法で結界を張ってもらっている。

 ルカ以上の魔力を持つ者なら結界を破れる可能性があるらしいが、そんな人物がいるのかは怪しいところだ。


 だが、さすがにこれもまだ話せることではない。

 姫にはなんて説明したものか……。

 俺は迷った挙句、自分が結界を張ったことにしようと決める。

 姫も安心できるだろうと踏んだからだ。


「……俺が魔法で結界を張っている。心配はいらない」

「ま、魔法をつかえるのですか? それもこの城を覆うほどの結界魔法を?」


 表情の変化で姫の驚きがさらに大きくなったことがわかる。

 その反応から察するに、結界魔法は難しいのかもしれない。


 だが、いまさら冗談と言うつもりもない。

 それに、実際に俺が頼んで結界を張ってもらっているんだ。

 あながち嘘とも言えないだろう。たぶん……。


「多少は魔法の心得がある」

「……多少ですか」


 姫は納得していない様子で首を捻っている。


「……仮に結界が破られたら?」


 ルカの実力を把握していないレイア姫が必要のない心配をする。


「その可能性は極めて低いが……だが、そうだな……仮に結界が破られたら俺が戦うしかないな」

「……カイト様がですか?」


 姫の反応は半信半疑といったところだ。


 妙だな……。

 姫はひいき目に見ても俺の実力を信頼しているようには見えない。

 もちろんその点で姫はまったくもって正しいのだが……。


 たしかにランキングと強さは直結しないということは俺も理解しているが、仮にも世界一の肩書きを持っているんだ。それなりに信頼してもらえてもいいと思うが。


 やはり姫は、エレノアで一番という情報しか持ってないのだろうか?

 その確証はないが、こちらから何か聞いてヤブヘビになるのも避けたい。

 俺は、とりあえず疑問は置いといて姫を安心させるように心がける。


「まあ俺が戦わなくとも結界は強力だ。万にひとつも破られる恐れはないさ」


 俺がそう保証すると、姫も安心したらしくほっと息をつく。


 さて、今度はこっちが説明してもらうか。

 いくつか訊きたい事があるからな。


「姫、今度はこちらから質問させてもらうぞ」

「……はい」



 ――さて、どんな話が聞けるのかな。

 俺は、姫の表情を注視しながら質問を投げかけた。


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