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第4話 レベリング

「そうだな、俺の個人的な意見だが……このパーティーはとても火力が高い。まさに驚異的と言っていいほどだ」


 とりあえず火力をべた褒めする。


「前衛のロイス、ライカ、おっさんの攻撃力はさすがだ。この国を代表する猛者なだけはある」

「ちょっと待て、なぜお前までおっさん……」


 おっさんが何か言いかけたが、言わせない。


「とにかく、お前たち3人が前衛として揃っていればよっぽどの事がなければ火力は不足しない筈だ」


 手放しで褒めておいたので3人とも悪い気はしていない様子だ。

 もちろんエリザに対する評価も忘れない。


「加えて後衛のエリザだ。やはり魔法で魔物が近付く前に先制できるのは大きい。結果として前衛の負担をかなり軽減している」

「ありがとうございます!!」


 エリザは嬉しそうに微笑んで頭を下げる。


 まあ、単に事実を言っているだけなんだけどな。


 一通り褒めたところで、俺は表情を真剣なものに変える。


「だが、気になるところもあった」

「どんな事だ?」


 ロイスが真剣な表情になり、聞いてくる。

 他の3人も身を乗り出して話を聞こうとしている。


「まず全員に言える事だが、連携がチグハグだった。前衛の3人もそうだし、エリザも単独の敵に攻撃するのはいいが、3人と交戦中の敵に対しては、遠慮というか……積極的な援護ができていなかったように見えたな」


 4人が4人とも思い当たる節があったのか、何とも言えず黙りこむ。

 続けて俺は畳みかける。


「あくまで予想だが、おまえら普段から一緒にパーティーなど組んではいないんじゃないか?」


 まあこれに関しては当たっている確信がある。

 常識的に考えて騎士団長2人に近衛隊長が組んでダンジョンの攻略をするというのは異常だ。

 そんなに頻繁に3人で帝都を留守にしていたら有事の際に、指揮系統が混乱してしまうだろう。

 エリザに関しても連携を取れていないのだから同じ事だ。


「さすがにわかるか……まあ見ての通り、俺達は即席のパーティーだ。もっとも、初めてというわけでもないけどな……」


 ロイスが神妙な顔で答える。


 まあ前回45階層まで行っているみたいだしな。


 ここで俺は、最初から気になっている事を聞いてみた。


「そもそもお前達は何故このダンジョンの攻略に?」

「ん……それはだな……」


 ロイスの歯切れが悪い。空気を読んで聞かなかった事にするかと思ったその時、エリザが声を上げた。


「それは……称号を得るためです」


 称号を? 一体何のために? 頭の中で考えていると、エリザが続きを語ってくれる。


「もちろん、カイトさんが持っている様な、最速記録保持者の称号が欲しい訳ではありません。私にはどうやっても無理だと思いますから」


(まあ俺のは初級の最速記録だけどな……)

 心の中で突っ込むことを忘れない俺。


「ですから私が欲しいのは中級ダンジョン攻略者の称号です」


 俺は知らなかったが、どうやら中級ダンジョンはクリアするだけで偉業と認められるらしい。

 まあここのダンジョンでさえ5年クリアされてないみたいだからある意味当然か。


「中級ダンジョンは未だに攻略できないダンジョンが多いと聞いてます。でもミルダンジョンはすでに攻略済みで、中級ダンジョンの中では比較的易しいと聞いて、挑戦しに来たという訳です」


 ……。

 説明は終わったのだろうか? まだ肝心な事を聞いていない気がする。

 つまり……どうして称号が欲しいかという説明だ。

 まあ言いたくないなら無理に聞く気も無いけどな。

 とりあえず、俺は説明に一定の理解を示したという意味を込めて、今後の方針を語り始める。


「話はわかった。とりあえずこのパーティーで俺は遊撃の立場でいようと思う」

「遊撃?」


 ロイスがオウム返しに聞いてくる。


「ああ、前衛3人は基本的にさっきの通り戦ってくれるだけでいい。当然今度は俺も参加させてもらうけどな……しかし後衛が一人だとさすがにエリザに敵の攻撃が集中してしまったらまずい。だから俺はエリザのフォローもするつもりだ」

「そりゃ……前のこっちは楽になるけどな……でもまかせていいのか?」


 ロイスが俺ではなく、エリザを見ながら問う。

 なんかロイスがエリザにお伺いを立てている様にも見えるが。


 エリザが頷いて答える。


「はい、私はカイトさんの意見に賛成です」

「よし、じゃあカイトの案でいこう。二人ともいいな?」


 他の前衛二人にも声をかける。


 二人とも黙って頷く。


 それにしても。

 ライカは全くしゃべらないな。

 クールビューティーという感じか。

 まあ嫌いじゃないけどな。


 パーティーの方針も決まり四十階層の攻略を開始する。


 「あっ……」

 

 やば……武器のことをすっかり忘れていた。

 オリハルコンの剣は、実質役に立たない……ミスリルソードは売っちゃったし。

 これはマズイ。

 なんとか手を考えないと……。

 俺は頭を捻り、どうにか策を絞り出す。


「そういえばロイス、このパーティー火力は十分あるし、俺は剣以外のスキル上げを優先させていいか? それに俺が剣を使ってしまったらおまえらに経験値あんまり入らなくなるしな」

「よく言うよ。だがお前がそう判断したなら大丈夫なんだろう。手伝って貰う身だしな、文句はない」


 俺は全員を見渡しながら言った。

「誰か使ってない武器余ってないか? 何でもいいぞ」

(装備できるならな。)

 俺は心の中でそう付け足す。


「あっ、私メイスなら所持しています。使います?」


 俺はエリザからメイスを借りることにした。

 筋力値が足りない為、オリハルコンの剣を使いこなせない。

 苦肉の策だった。


 そう考えるとミスリルソードは売らなくてもよかったな。

 俺の頭の中のチャートではもう不要だったんだが。


 まさかこんな上の階層でレベル上げするとは思わなかったしな。


 もう少し前の階層でアイテムを利用したレベル上げを目論んでいた俺のアテは見事に外れた訳だ。

 わざわざ道具屋で色々買ったのにな。


 まあアイテムは次に有効利用する事にしよう。

 チャートの変更はRTAにはつきものだしな。

 俺はすばやく気持を切り替える。


 そしてついに俺を交えての40階層での初戦闘が始まった。


 魔物は一匹だ。チャンスとみるや俺も攻撃に参加する。


 俺は筋力値が低く武器も高性能とは言えないメイスを使っている。

 だが、称号で強化された敏捷値による攻撃回数の増加や、予習により魔物の弱点を熟知していた俺は地味ながらも確実にダメージを与えていった。


 ほどなく敵が倒れる。

 偶然にもラストアタックも取れた。これは幸先いいな。

 今回の戦闘ではとりあえず魔物の攻撃が俺に向く事はなかった。


 俺はみんなから見えない様に隠れて自分のステータスをチェックする。


 レベルが1上がって3になっていた。


「おお、上がってるぞ……」


 つい独り言を呟いてしまうが、誰も聞いていなかったようだ。


 俺は、一瞬1レベルしか上がってない事を少ないなと感じたが、すぐそれは間違いだと思い直す。

 この世界で1レベル上げるのはたしか1年くらいかかるという話だった筈だ。

 1回の戦闘で1年分と考えればかなり稼いだと言えるだろうな。

 俺は成果に満足気に頷いた。


 とりあえず、俺の戦い振りに疑問を抱いた奴はいなかったようだ。


 俺の動きに関しては、称号によって、彼らと遜色ないところまで強化されてるので問題無い。

 しかし、俺の戦闘経験は浅い。

 攻撃にぎこちなさが出るのは否めない。


 どうやら、そのぎこちなさは俺がメイスを使っていて、しかもそれが借り物だという事で、逆にカモフラージュになったようだ。


 やっぱりミスリルソードは売って正解だったな。俺は考えを改めた。


 だが、早速次の戦闘では俺の異常さが、彼らにバレてしまう事になった。

 複数の敵がいた事もあって、俺は一度攻撃を受けてしまう。


 40階層クラスの魔物の攻撃をまともに受ければロイスやおっさん、ライカでも倒れたりぐらいはする。

 だが攻撃を受けた俺はその場から一歩も動く事無く、そのまま魔物を攻撃し続けた。


 戦闘終了後。


「なんというか、規格外の守備力じゃのう」


 おっさんの素直な感想が漏れる。ロイスとライカ、エリザの反応も似たようなものだ。


 レベルは4に上がっていた。


 演技で倒れたり、吹っ飛んだりなんかしてる暇はない。

 なにせ大金がかかっている。少しでも経験値を稼がないと。


 今受けた魔物の攻撃で、俺は金貨1枚以上失った計算だ。もちろん魔物に袖の下を渡したわけでもない。


 俺はギルドに来る前に道具屋で、身代わりの指輪を買い占めていた。

 もちろんレベリングを見越しての事だ。

 なぜ金の無い俺が高価な身代わりの指輪を買い占められたかというと、前回のダンジョンで取得した称号が関係している。


 この世界では俺の元の世界であった電子マネーに似たものがある。ステータスカードにチャージする事で、現金を持ち歩かずカードで買い物ができるといったシステムだ。


 教官から称号のメリットのひとつとして説明された時は本当かどうか疑ったが、しっかりと俺のストレージには金貨二十枚分のチャージがされていた。


 偉業をひとつ達成するごとに金貨十枚分ってことらしい。

 まさか教官も俺が同時にふたつの称号をもらっているとは思っていなかったと思うけどな……。


 そんなわけで、このお金のほぼすべてを使い今回のレベリングに使う予定のアイテムを買ったというわけだ。


 身代わりの指輪の効果は、致死のダメージが与えられた時にダメージをすべてカットしてしまうという優秀なアイテムだが、ロイス達や普通の人であれば瀕死の時に一回身を守ってくれるアイテムだという認識だと思う。


 だが今回の俺と40階層の魔物とではレベル差が有りすぎる。攻撃をくらえば一撃死は確実だ。

 つまり一撃死だから俺は攻撃をくらってもすべてのダメージをカットされる為、無傷だ。


 ロイス達もさすがにあんだけ偉そうにしゃべってた奴がまさか攻撃をくらえば一撃死をするとは思ってはいまい。身代わりの指輪のおかげでダメージが無い事には気付いていない様だ。


 俺は彼らが、守備力が高いと勘違いしているのをとりあえず利用しておく事にした。


「まあな、このクラスの魔物ならこんなもんだ」

「このクラスって……並みの冒険者じゃ数分と持たないと思うがな……」


 ロイスが驚きながらも、感心したような視線を俺に向ける。ライカもコクコク頷いている。


 俺はその視線を軽く受け流し、先を急ごうと促した。


 その後も順調に攻略を進め、誰も大きな怪我を負う事無く、ロイス達にとって未知の階層でもある四十六階層へ到達した。


 痛んだのは俺の懐だけってな。……ハハハ。


 レベルは7にまで上昇している。

 さすがにもう一回だけの戦闘ではレベルが上がらなくなっていた。


 四十六階層以降の魔物はロイス達にとっては、完全に初見らしく弱点等の知識も全くと言っていいほど持っていなかった。

 下調べをしていないのか? かなり迂闊だな。

 このダンジョンは攻略済みのダンジョンだ、ギルドで情報は公開されているはずなんだが。

 

 それなりに高レベルな冒険者であるロイスたちがこの体たらくということは、そもそもこの世界にあまりそういう習慣がないのかもしれない。

 仕方ないので俺が魔物との戦い方を指示しながら46階層を抜ける。


「カイトさんがいてくれて助かりました」


 そう言って、エリザは微笑んだ。他の三人もそれに同意する。


「パーティーなら助け合うのは当然の事だろ」


 似合わない事を言ってみる。

 だいたい元の世界でRPGのRTAをやった時は俺のパーティーメンバーは棺桶に入ってる事が多いしな。

 特に経験値分配方式のゲームではよくあることだ。一人が棺桶に入っていればそれだけで経験値が倍になったりするからな。通称『間引き』と呼ばれる行為だ。

 

 今だったら笑えないが……。

 ゲームのキャラからしたら、お前が言うな! と総突っ込みを入れたくなるだろうな。


 ふと気付くと、エリザが敬意の眼差しを向けていた。

 誤解なんだけどな……。


 豊富なデータや先程までに得た信頼でなんとかごまかせているようだが、内心いつかボロを出してしまうんじゃないかという思いが拭いきれないでいた。

 再び攻略を開始した俺達だったが、四十八階層を攻略中にそれは起こった。


 エリザが魔物の召喚スイッチを踏んでしまったらしい。


 エリザはいきなり四体の魔物に囲まれる。

 彼女は自分の死を覚悟したのか目をつぶる。


 おいおい諦め良すぎだろ。俺は一瞬でエリザが助かる方法を三つほど思いついたが、一番確実そうな方法をエリザに叫ぶ。


「転移!!」


 エリザは、はっと我に返り、短い詠唱を唱える。間一髪でエリザの体が消え、離れた場所に現れる。


「ふう、間に合ったか……さすがにヒヤッとしたぜ」


 魔物に囲まれながら、冷静に詠唱ができるかは正直分からなかったがなんとか大丈夫だったようだ。エリザは精神的にタフなのかもしれないな。


 魔物の討伐が終わった後、エリザが申し訳なさそうに言った。


「ごめんなさい、足を引っ張ってしまって……」


 エリザの身体は少し震えている。

 死の恐怖を覚悟した事をおもいだしたのだろうか。


 全員がエリザを気遣う言葉をかける。


 俺もエリザに声をかける。


「エリザのフォローは俺がするって言ってあったろ」


 気にするなよ。と言い、頭をローブの上からグニグニ撫でてやった。

 心なしかエリザの顔が赤く染まっている。


 無駄にポイント稼いでるな俺。


 そんなトラブルを乗り越えて俺たちはついに50階層へ到達する。


 ボス部屋の前で俺は全員に言う。


「ボスは大型の鳥種の魔物だ。攻撃力とスピードに特化したタイプで、特にくちばしでの攻撃は強力だ。おそらく前衛の3人でも2発は耐えられないだろう。エリザがくらったら一撃で命を落とすかもしれない」


 ゴクリと誰かが生唾を飲み込む音が聞こえる。

 もちろん俺は構わずに続ける。


「それで作戦だが、一番守備力が高い俺が盾役をやる。俺が耐えている間に、全員は持てる火力を振り絞ってボスを倒してほしい」


 できればこれ以上危ない橋を渡りたくはない。

 だが、ボスに勝つ方法はそれしか思いつけなかった。


 他のみんなもそれしか無いと思ったのか反対意見も出ずに一様に頷く。


 俺は最後に装備を確認する。

 身代わりの指輪も両手の指に合計8個付けてある。上から皮手袋をしているから周りからは分からない。


 本来であれば指輪の特殊能力は両手1つづつしか効果は出ないが、身代わりの指輪は一度使えば効果は消滅するためにあらかじめ多く付けておいても問題は無い。


 全員装備の確認は終わったのか、みんな俺の方を見ていた。


「よし……いくぞ!」 


 俺たちはボス部屋に突入した。


 ボス戦は苛烈を極めた。


 俺はボスを引きつけた後はひたすら、攻撃を回避する事に集中する。

 だが、早速ボスの攻撃をもらってしまう。くっ……思った以上に敵は速いな。


 攻撃をもらってもピンピンしている俺を見て、みんな目を丸くしているが、俺にはそんな余裕などは無い。

 刻一刻と死へのカウントダウンが近付いている。


 他のメンバーは必死にボスに攻撃を入れ続けている。

 間に合うのか? 俺は数発の攻撃を受けながら必死に攻撃を回避し続ける。


 必死に回避行動を繰り返してた俺だが、ついに身代わりの指輪が残り1つになってしまう。


「やべえ……」


 つい本音が漏れるが他のメンバーも必死だ、聞こえて無いだろう。


 その時ボスが急に俺からエリザにターゲットを変えた。

 直前に当たった魔法の所為だろう。


 俺は焦り、エリザに向かって走り出す。


「くっ、間に合え……エリザ!」


 一瞬エリザと目が合ったような気がした。


 くちばしで攻撃しようとしてるボスとエリザの間に割って入る。

 俺はなんとか間に合うが、クチバシでの攻撃が直撃する。


 ついに身代わりの指輪が切れた……。


 俺は死を覚悟した。

 死にたくないとは思っても体が動かない。

 ボスの攻撃が目の前に来る……。

 もう、駄目だ。たまらず目を閉じる。


 しかし、攻撃がこない。


 再び目をあけると、エリザの放った魔法がボスに直撃していた。


 その一撃でなんとかボスの生命力を削り取ったようだ。


 俺はたまらずエリザをきつく抱きしめる。


「ありがとう!! (俺が)生きててよかった!!!」


 俺は恥も外聞も関係なく、涙を流した。恐怖と助かった安堵によってだ。本当に死ぬかと思った。


 エリザは顔を真っ赤にしている。


「私の為に……涙を?」


 エリザが何やら小声で言ったが俺は声を出して泣いているので聞こえなかった。

 気がつくとエリザも涙を流していた。


 次の瞬間、俺はエリザにキスをされていた。



 え、なんで? 俺の頭では「?」マークが大量に浮かぶ。




 どうやらポイントはカンストしてしまったようだ――




読んで頂けた方、ブックマークして頂けた方、ありがとうございます。

引き続き頑張っていきたいです。

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