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第38話 拒否

 大臣の説明は俺を満足させるものではなかった。


 それもそのはず、大臣が強くアピールしているのは、いかにレイアが美しく、そして人気があるかという点だ。

 どこぞの大物貴族に求婚されたことや、ひと月に届く恋文の数などを俺に説明してもしょうがないだろう。


 この大臣のプレゼン能力はたしかに目を見張るものがあるが、ポイントがずれていたのでは聴衆には響かない。良いインテリアを探している俺に対して、エクステリアがいかに優れているかを説明しているようなもんだからな。


 いい加減、大臣の話に退屈になってきた俺は、自分から質問することにする。


「レイアは戦闘の経験があるのか? ダンジョンに入ったことは?」


 訊いてはみたものの、どちらもないだろうというのが俺の予想だ。

 本人からの返答を期待したが、レイアは黙ったまま表情を変えない。

 代わりに大臣が答える。


「……そ、それはですね……正直に申しましてありません」


 いままでの、饒舌ぶりが嘘のようなレスポンスの遅さ、歯切れの悪さに俺は確信を持った。

 おそらく大臣は、なんだかんだ注文をつけたところで、結局は容姿で選ぶと予想していたのだろう。 


 まあ悪い作戦ではない。むしろ男心を巧みに突いた上策と言えるだろう。

 俺だってこちらの世界に来てエリザやライカと出会ってなかったらどうなっていたかわからない。


 だが、これで断る理由ができた。

 戦闘は無理で、残るは家事だが、どう考えても普通王族に家事をやらせる国はないだろう。

 ……いや。花嫁修業的なものはあるのか?

 さすがにわからないな。

 だが期待はできないだろうな。それに戦闘経験がないという理由でも十分に断る理由にはなるだろう。


 俺の表情に失望を感じとったのか、大臣が新たな情報を提示する。


「レイア様には戦いの経験はありませんが、魔法の素養がございます」


 大臣の思惑に素直に嵌るのも抵抗があったが、魔法と聞いて少し興味が沸く。


 魔法ね……。

 ルカとは比べるまでもないだろうが、以前、帝都での戦闘技術テストのときに、俺を苦しめた魔法使い程の腕があれば……。


 俺は多少の期待を込めて訊いてみることにする。


「どの程度の魔法が使えるんだ?」


 可能なら見せてもらおうとも思ったが、俺の質問に大臣は、苦い顔を見せる。


「……使えません」

「え?」

「……あくまで素養があるというだけでして」


 さすがの俺もその回答には拍子抜けする。


 しかし解せない。

 一族から魔法の素養をもつ者が見つかったら、普通はその才能を伸ばそうと考えるはず……。

 特別な理由でもあるのだろうか? だが無理に訊く必要もない。知りたいとも思わないしな。


 どちらにしろ、俺の求めていた人材とはほど遠い。雇う理由はないな。


 さて、どう言えば角が立たずに断れるのか……。

 相手が国となると、こういう場面で気を遣うな……。これからは安易な頼みは控えることにしよう。


 向こうの過失は十分だが、ケンカ腰に文句を言っても誰も得をしない。

 ここは、お互い条件に合わないという方向で持っていった方がいいだろう。

 彼女にも選ぶ権利がある。気に入らない奴のところで使用人みたいなことはやりたくないだろう。


 方針は決まったが、問題はどうやってその展開に持って行くかだな。

 俺が頭の中にチャートを思い描き始めると、大臣が願ったりな提案を出してくる。


「あ、あの……よろしければ、カイト様と、レイア様のお二人で一度話してみたほうがよろしいかと……」

「……そうだな。お互いを良く知るには話してみるのが一番だ」


 良く知るつもりはないが、悪くない提案なのでふたつ返事で了承する。


 城内より外の方がなにかと都合がいいな……。

 外は少し暗くなってはいるが、まだそんなに遅い時間でもない。問題はないだろう。


「城の中で話すのも味気ないからな……街を少し案内しよう」

「……わかりました」


 てっきり大臣が返事をするかと思ったが、レイアが自分で返事をする。

 自分の意思も持っているのか。

 どうやら大臣の言いなりというわけでもないらしい。

 さすがにこのあたりの事情は良くわからないな。


 俺とレイア姫はさっそく街に出る。

 もちろん服装は目立たないものに変えてもらった。

 それとこれも当然だが、大臣たちも城から追い出してある。さすがに留守を任せる度胸はない。


 俺の狙いは、レイアにこんな国にいたくないとマイナスのイメージを植え付けることにある。それと同時に俺に対しても同様のイメージを持ってもらえれば大成功だろう。

 そうなれば、レイア姫は雇われることを拒否し、俺の狙い通りの展開にもっていける。


「……」

「……」


 それにしても会話がない。

 レイア姫も二人で話すことに同意した割に、話題を提供してくれる気はないようだ。

 もしかして、無表情で無口なのは意図的なものではなく、単に性格の問題なのだろうか……。

 このままじゃラチがあかない。俺は自分から動くことに決める。


 だが、さすがに何かきっかけが欲しい。

 俺は注意深く街を探索し始める。


 城から少し離れ、エレノアの中では割と裕福な層が暮らす住宅地にさしかかったところ、道の中央に杖を片手にポツンと立つ、小さな少年を発見する。

 これは使えるかもしれない。

 さっそく姫に問いかけてみる。


「……あの少年はここで何をしているかわかるか?」


 その質問に、初めて姫は感情らしきものを見せる。その感情は驚き……だったように思う。

 どういうことだ?

 俺が子供のことを話題に出したら驚く? 意味がわからないな。

 驚いた表情をみせたのもつかの間、すぐに元の無表情な顔に戻り返答する。


「…………わかりません。時間も時間ですし、親を待っているのでしょうか?」

「待っているといえば待っているんだがな……相手が違う」

「相手?」

「金持ちを待っているんだ」

「……どういうことです?」

「ここは、この辺りでは金持ちの多い地区だからな……彼らが家に帰ってくるところを見計らって声をかける……そして、金品や食料をねだるんだ。ようするに物乞いだ」

「……そんな」


 やはりお姫様は、こういった話にはあまり縁がないみたいだ。

 

「それだけじゃない。特に最近はこれより酷いことが数多く起こっている……」


「……これより酷い?」

「……聞くか?」


 レイア姫は首を勢い良く横に振る。


「……これが、この国の現状なんだ」


 言うまでもないが、今の話は創作だ。

 さすがに最下位候補と言われていたこの国でもそこまでひどくはないだろう。

 たぶんな。


 現在の姫の心情をすべては把握できないが、ある程度の効果があったはずだ。

 


 狙い通りの展開にはなったが……。


 俺はたまたまそこにいただけの少年に対し心の中で深く謝罪をするのだった――


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